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14話② 二度目のファーストキス

ーーーーーー




 ーーーーくん……幸人くん?」


「っ!」


 クロの一言によって走馬灯みたいに流れ出した過去の記憶に意識を取られてた俺は、彩さんの声で呼び起こされた。


「どうかした?」


「あ、いや……こ、これはその……違くて」


 様子がおかしくなっていた俺のことを、彩さんは心配してくれている。……本当に辛い記憶だった。

 目元に手をやると、少し指先が濡れた。


「大丈夫……っです」


 これ以上心配させないためにも、俺はそれをそのまま指で(ぬぐ)った。


「……すまぬ、辛いことを思い出させてしまったの」


「辛いこと……? っ、それって……! 辛いなら席を外してもいいんだよ?」


「……俺だけ弱音吐いてられませんよ。彩さんも、クロも……みんな辛いんですから」


 それでもクロと彩さんは俺のことを心配してくれる。教室で話した時はちょっと冷たい人だと思ってたけど、彩さん、根は優しい人なんだ。多分……ちょっと不器用な人なんだろう。


「……見てられないなぁ」


「えっ……? ちょっ! 彩さん!?」


「おー、大胆じゃのう」


 そんなことを思っていると、俺は彩さんに抱き寄せられた。強く抱きしめられているからか、彩さんの手が触れている部分が熱い。


(……そういえば、美奈さんも急に抱きついてきたっけ。こんなところで姉妹を感じるとは……)


「ぼ、僕なら大丈夫ですから……辛くないですよ」


「家族が殺されたことを思い出して、辛くないわけないでしょ?」


 から元気を振る舞う俺をなだめるように、彩さんは俺の背中を優しくさすった。


「っ……だ……大丈」


 どうして今ここまで強がろうとしているか、自分でも分からなかった。さっき自分で言った通り、みんな辛いのに俺だけ弱音を吐いてられないたい気持ちはある。ただ……それだけじゃない気がする。

 泣く姿を見られるのが恥ずかしいから? 会ったばかりの彩さんにこれ以上心配をかけたくないから? ……違うな。遥を安心させるためにも、俺は弱い自分を見せないようにしていた。だから、今更弱い自分を(さら)けだしても良いか分からないんだ。


「もう無理に大丈夫って言わなくていいよ。その辛さは……私もよく知ってるから」


「っ!!」


 彩さんも俺と一緒だったんだ。家族を殺された苦しみも、やるせなさも、怒りも……彩さんは知っているんだ。あの日以来初めての、真の意味での俺の理解者なんだ。そしてそれは、彩さんも同じなんだ。


(だから彩さんは俺のことを……)


 それを理解した時、俺はさっき抑えたはずの涙を溢れさせた。情けない声を上げながら泣く俺を、彩さんはただただ受け止めてくれた。

 こうして誰かの胸を借りて情けなく泣きじゃくるのは、クロと初めて会った時以来だ。


「……神様」


「なんじゃ?」


 少し俺が落ち着き始めた時に、彩さんはクロに話を振り始めた。その声はどこか、さっきよりも力強かった。


「……6年前に戻れるのって何人までですか?」


「……それを聞いてどうするのじゃ?」


「神楽坂さんを含めて2人しか戻れないなら……幸人くんの代わりに私が6年前に戻れたりしませんか?」


「ぇ……あ、彩さん!?」 


 あまりの突拍子もない彩さんの提案に、泣いていた俺の涙は引っ込んだ。


「何言ってるんですか、これは俺のっ……!」


 彩さんの突然の提案を否定しようとした俺の口元を、彩さんは人差し指で遮って、もう片方の手の指で小さく「しーっ」とジェスチャーする。


「元はと言えば、私のお姉ちゃんがきっかけで幸人くんは今こうして私の前にいるんでしょ? もう十分幸人くんは頑張ったよ。……私はお姉ちゃんがいなくなった日から何も頑張れてないの。だから、あとは私に任せて。私に……誰かのために頑張らせて」


「っ……」


 やっぱり、彩さんは優しいんだ。

 この時の彩さんの姿に、俺は6年前の自分の姿を重ねていた。手元すら見えなかった闇の中で、クロと会えたことで母さんを救えるかもしれないっていう光が見えた。あの時から俺は、その光のおかげで頑張れている。美奈さんを助けられるかもしれないって分かった今、彩さんは光を見つけたんだ。

 だからこそ、彩さんは俺の理解者で、俺は彩さんの理解者になれるんだ。


「まあ……過去に戻ったとしても、その先どうしたらいいかは分からないんだけどね」


 そんな冗談を言って笑った彩さんは……綺麗だった。


「彩さんも冗談言うんですね」


「つまらなかった?」


「いや……最高ですよ」


「ふふっ、ありがと」


 こうして彩さんの優しい笑顔を見ると、どこか美奈さんの姿を重ねてしまう。……やっぱり姉妹なんだな。


「……盛り上がっている所悪いのじゃが」


「っ! は、はい」


「過去に戻れるのは3人じゃ。貴様が過去に戻ろうが我は構わん」


 俺が落ち着いたからか、クロが彩さんの質問の答えを出した。なぜか少し不機嫌そうに見えるのは、俺だけだろうか……?


「そもそも、幸人は我の従者じゃぞ? 幸人が過去に戻るのは当たり前のことなのじゃ」


 やっぱりクロは不機嫌みたいだ。彩さんに対してそっぽを向いて、分かりやすくほっぺたを膨らませている。これは心が読めない俺でも分かる。


「クロ様……怒ってます?」


「怒ってないのじゃ」


 返事が早い。

 俺の言葉尻を食う勢いでクロは、怒ってないと言った。……やっぱり怒ってるじゃん。


「いや、でも」


「怒ってないのじゃ」


「えぇ……」


 反論する隙すら与えてくれないクロは、俺に対してもそっぽを向いてしまった。なんというか……プンプンしてる。


「怒ってないのじゃ……拗ねているのじゃ」


「それって変わらないんじゃ……」


「ふんっ、女心の分からないやつめ。綺麗な娘の胸の中で、鼻の下を伸ばすのはさぞ気分が良かったじゃろうな」


「いや、言い方!」


 いじけながらも俺のことを貶してくるあたりは流石だ。最後の最後までクロらしいな……


「どうせ女の体の柔らかさを堪能しておったのじゃろ! このすけべ幸人!」


「幸人くん……そんなこと考えてたの……? 最低……」


「えぇ!? この流れなんか既視感が……」


 美奈さんもクロのせいで俺のことを変態扱いしかけたことを思い出す。ロリコンがどうこうって……女子からのマジ軽蔑の目は本気で心にくるから体調に悪い……


「だから! 俺は!」


「る、るーさん……! 翔さんは悪い人じゃ……」


「ん? 2人の声……?」


 彩さんからの変態扱いに胃を痛めていると、ドタドタと社務室に入ってくる足音と、翔さんと遥の声が聞こえてきた。何故か翔さんは、まるで喧嘩しているかのようにちょっと語気が荒かった。


「遥ちゃんは黙ってて」


 さっき境内には誰もいなかったはずだけど……もう1人いるのか……?

 聞き覚えのある、女子にしては少し低いこの声……


「これは私とこの人の話だから」


「瑠璃!? なんでここに!?」


 そこにいたのは、気の強い幼馴染さんだった。

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