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14話① 二度目のファーストキス

 母さんを殺されて、父さんを犯罪者にされて、遥を壊された。

 それでも、俺が絶望せずに今日まで生きてこれたのは、遥を支えようという気持ちがあったから。……とは、胸を張って言えない。もう全部投げ捨てたくなった日もある。精神が不安定になって、どう頑張っても明るい未来が見えなくて、不安に押しつぶされた。

 息が荒くなって、意味もなく家を飛び出して、行ったことない所に足を運んで、気持ちが落ち着くまでただただ時間を潰す。こうしないと俺は……どうにかなってしまう。


ーーーーーー


10月11日


 その日も、遥を支えられるか不安になった俺は、部屋から出てこない遥を1人家に残して、少し歩いた所にあった神社のベンチに座り込んでいた。()()状態の遥を放置している時点で兄としては失格だ。ただ、それが分かっていても俺の足は家の外に向いてしまう。

 境内の地面に落ちている銀杏の匂いが鼻にツンとくる。


「あぁ……………………消えたい」


 そんな何気ないことがきっかけだったのかはわかんないけど、俺は弱音を吐いた。そうやっていつ崩れてしまうか分からないくらい、俺の心は限界を迎えている。


「これ以上……苦しみたくない」


「えらく暗い願いじゃのう、小童(こわっぱ)


 その時だった、


「え……?」


「小童なら小童らしく、笑えぬのか?」


 頭を抱え込んだ俺の目の前に、見たことがない、綺麗なお姉さんが立っていた。

 キラキラ光ってる金髪の長い髪、そこから生えているのは……狐の耳!? 


「お、お姉さん……誰?」


「ん? 我か?」


 ベンチに座っているとはいえ、首が痛くなるくらい見上げないといけないくらい高い身長、なぜか着ている巫女服……


「我は、神なのじゃ!」


「えっ」


 そして極めつけに、自信満々にピースサインをしながら自分のことを神様って言う……間違いない、この人は……


「変人だー!!!!」


「のじゃあ!? だ、誰が変人だというのじゃ!」


 不審者ってやつだ! 

 小さい時から、こういう人とは話したらダメって言われてきた。


「お姉さん以外いないですよ……なんか、語尾も変だし」


「この小童め! せっかく我が心配して声をかけたというのになんじゃその態度は!!」


 図星だったのかな、お姉さんがあたふたしてる。いや、あたふたというよりかは……ちょっと怒ってる?


「でも、知らない人と話したらダメって言われてきたんで……」


「なんじゃとぉ!? 誰じゃそんなことを言うのは!」


「誰って、それはーーーー


 俺と遥に口酸っぱくそう言ってきた人が誰だったかを、いちいち反応の大きいお姉さんに言おうとした時、


「っ…………あれ?」


 目の前が急にぼやけた。


「な、なんで……」


 風邪でもないのに鼻水も出てくる。


(俺……泣いてる?)


「っ!」


「……やれやれ、気が強いのか弱いのか分からんな貴様は」


 父さんのことを思い出して泣いた俺を、お姉さんは優しくぎゅってした。


「貴様のような小童を抱いていると、これでは本当に我が不審者のようではないか……」


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


「なっ!? なぜ謝るのじゃ! 辛い時に言うのは、謝罪の言葉ではないであろう!?」


 さっきまで優しくハグをしてくれていたお姉さんの両手は、強く俺の肩を持っていた。


「貴様はそれほどまでに弱い男であったのか! ……なぜ一言、『助けて欲しい』と言えぬのじゃ!!」


 お姉さんに悲しそうな顔をしながらそう言われた俺は、溢れてくる涙と、情けない泣き声を我慢することなく垂れ流しながら、お姉さんの胸の中で心の底から願った。


「た、助けて……ぐださぃ……! 僕は……幸せになりたいなんて……思いません……! だって……だって!」


 息が詰まって、言葉がまとまらなかった。そんな俺を落ち着かせるように、お姉さんは俺の背中を優しくさすっている。


「ゆっくりでいいのじゃ、貴様が思っていることを素直に言えばいいのじゃ」


「っぐ……戻せるなら……時間を戻して、竜胆くんを止めたい! 僕は……俺たちは! いつも通りの日常を過ごせるだけで本当に幸せだったからっ!!!!」


 さっき初めて会った人なのに、こうやって俺が思いをぶつけれたのはなんでだろう……なんだか、初めて会った気がしないのは、なんでだろう……


「……よく言った。その願い、神としてしかと受け止めたのじゃ。じゃが……タダというわけにはいかぬ」


「お、お金ならあります……」


 母さんが万が一のためにかけていた保険……1000万円……。それに、父さんと母さんが家で貯めていたお金だって合わせれば、1400万円はあるはずだ。

 ただ……


(今日会ったばっかりの人に渡すなんて言ったら、父さんと母さんには怒られるだろうな……)


 この人がいくら要求してくるかは分からない。けど……俺はこの人ならなんだか信用できると思ってしまう。大切なお金っていうことは十分分かってる。

 源さんにも、このお金の使い道は慎重に考えるよう何度も言われた。それでも俺は、この人に頼ってみたい……! そう思わせる安心感? みたいなものが、なぜかお姉さんにはあった。


「金なんぞで神は動かぬ」


「えっ……?」


 そんな俺の迷い……こういうのなんて言うんだっけ、葛藤……? を無視するようにお姉さんはお金はいらないって言った。

 だけど、今の俺にはお金ぐらいしか差し出せるものがない……


「なら……何をすれば」


「小童、名前はなんと言うのじゃ?」


「芹沢です。芹沢幸人です」


「ゆきと……良い名前じゃの。……幸人、こっちを見ろ」


「っ? なんですか?」


 俺の名前を聞いてきたお姉さんは、俺の顔を両手で優しく包んだ。俺のほっぺたがむぎゅってなるのを見て微笑んでいる。


「我が欲しいのは……幸人、貴様じゃよ」


「え? 何を言って……っ!!?」


 そして、そのまま顔を近づけてきたかと思うと、お姉さんは俺に……キスをした。


「っ、ふふ」


「な……な、な、な! 何して……!!」


「ん? その反応……もしや貴様、ふぁーすときすじゃったのか?」


「は、はあ!? ち、ちちち、違います!!」


「にゃはは〜、良い反応をするではないか〜」


 何が起きたか俺には分からなかった。突然奪われた俺のファーストキス……。キスなんてドラマでしか見たことないのに……。

 あたふたする俺とは違って、お姉さんは落ち着いている。なんでそんなに落ち着けるのか俺には分からない。


「ま、安心するのじゃ」


「何をですか!?」


「これで(ちぎ)りは交わされたからの」


「ちぎり……?」


 さっきからお姉さんはよく分からないことしか言わない……こわっぱとか、神とか、ちぎりとか……もうちょっと分かりやすく言ってほしい。


「うむ、我と貴様の」


 そうやって俺が頭を悩ませていると、お姉さんはまた顔を近づけてきて、


「っ、主従関係のな」


 俺にもう一度キスをした。


「ぁ……あぅ」


「ありゃ……? うーむ……やりすぎたかのぉ〜」


 10歳の俺には刺激が……強すぎた……

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