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8話② 信じる

「とりあえずついて来てって言われたから、恐る恐るついて来てみれば……こんな小さい子が神様とか……もうわけわかんない」


 ちゃぶ台を挟んで、神様が目の前にいるという今の状況が彩さんの許容範囲を上回ったのか、彩さんは頭を抱えてしまった。


「ごめんね~、直接会って話した方が話が分かると思ったんだけど、余計に混乱させちゃったかな?」


「いや、混乱とかそういう次元じゃないです……」


 得体の知れない俺たちを、彩さんは怪しんでいたのにも関わらず、素直に神社までついてきてくれたというのに、こうして困惑させてしまったことに少し申し訳なくなってしまう。


「ふーむ、貴様は我が見えるのじゃな」


「見えますけど……それがどうかしたんですか?」


 あぐらを組んでいる俺の膝元に座ってるクロが、彩さんに話しかけた。口元にお菓子の食べカスがついていたりと、相変わらず神とは思えないだらしなさだ。


「我の姿が見える人間はそうそうおらぬぞ?」


「そうなんですか……?」


 俺たちとは比べものにならないくらい得体の知れないクロに対して、どう接したらいいのかが分からないのか、彩さんはクロに対しては探り探り接しているみたいだ。


「うむ、そこの色男と、こやつの妹は我のことは見えていないからの〜」


「えぇ!?」


 1つのちゃぶ台を囲ってはいるが、遥と翔さんにはクロの姿は見えていない。なんなら、クロの声さえもこの2人には聞こえない。

 今、この場においてクロと会話ができるのは、俺と彩さんだけなのだ。


「ん? 俺たちの話してるのか?」


「翔さんと遥には、クロ様の姿も声も認知できていないっていうのを彩さんに説明してたんですよ」


「あー、そのことか」


「本当に見えてないんですか……?」


 クロが自分と俺にしか見えないということに大きな衝撃を受けたのか、彩さんは瞳孔を開いて、小刻みに声を震わせている。


「うん、見えてないよ~。ね? 遥ちゃん」


「……っ」


 翔さんからの問いかけに、遥は湯呑みを口元に持っていきながら頷いている。


「おいしい?」


「っ……おいしいです」


「よかった」


 おいしそうにお茶を飲んで頬を緩ませてる遥を見て、翔さんは微笑んでいる。さっきからずっとあわあわしている彩さんをよそに、ほんわかとしたムードが2人の周りを漂う。


(まあ、そのお茶入れたの俺なんだけどな)


「……ふふっ」


「何か良いことでもあったの?」


「……そうですね……あり……ました」


「よかったじゃん〜」


「えへへ……」


 さっき1人になった時に良いことでもあったのだろう、遥はいつにも増して上機嫌だ。さらには、そんな遥を見て、翔さんも上機嫌になるという、比例の関係性が生まれている。


「はは……夢じゃなさそう」


 俺の入れたお茶をダシにしてイチャつく遥と翔さんを横目に、彩さんは頬をつねっている。


(夢かどうかを確認するために、本当に頬をつねる人初めて見たな)


「我の姿が見えるということは、貴様、何か困り事でもあるのか?」


 話が進まないと思ったのか、クロ自ら彩さんに話を振った。先程からクロがえらく積極的(当社比)なのが、少し俺の中で引っかかる。何事もダラダラと進めたがるクロが、ようやく自分の今の状況のやばさに気づいてくれたのかと、嬉しくもあるが、やはり普段との違いに違和感も感じてしまう。


「え、困り事ですか……?」


「うむ、我のことが見えるのは、心の底から助けを求めておる人間じゃからの〜」


「っ……!」


 クロが言うには、神を認識できる人間は、『その神の神使(しんし)』と、『他の何にも変えられないほどの願いを持っている人間』だけらしい。


「心当たり……ありますよね?」


「……」


 黙り込んでしまう彩さんだが、表情が物語っている。


「美奈さんの名前を出した時に嬉しそうにしていたのも、怪しいって思ってたのに僕たちについてきたのも……彩さんが、それくらい楓さんと美奈さんのことを好きだから……そして、助けてほしいからですよね?」


 助けてほしい、もう一度お姉ちゃんに会いたいと。


「……お姉ちゃんがいなくなっちゃった日にね、喧嘩しちゃったの。本当に些細なことで……その時に私、お姉ちゃんに大嫌いって言っちゃってさ。あれが最後の会話になるなんて思ってなかった……だからね、仲直りしたいの」


 下を向いて、目元に少し涙を浮かべながら彩さんは、過去の後悔を語った。

 日常が急に崩れ去るなんて、普段人は考えていない。そして、全て崩れ去り切った後に、その大切さに気づくものだ。


「そのためには……クロ様を信じてあげてください」


「信じる……?」


「神様にとって、最も力になるのは信仰心ですから」


 1人の人間の信仰心から得られる精気は極々わずかだが……今のクロにはそのわずかな精気すら生命線になってくる。


「そんなのが力になるの……?」


「なります。断言します」


 ただでさえ、わけのわからない状況に混乱している彩さんを、これ以上混乱させないためにも、精気についての説明は省いておいた方がいいだろう。


「……信じてもいいんですか?」


「うーむ……貴様が信じたくなければ信じないのも1つの手じゃぞ? 信じるものは救われるとかいう、そこらのみみっちい神と、我は違うからの〜」


「え?」


「元来、神とは人々を救うからこそ信じられるのじゃ」


「っ……!」


 まだ半信半疑の彩さんに、クロは器の大きさで誠意を見せた。


(やれやれ……本当に口だけは達者なんだから)


 『カッコいいこと言ったのじゃ〜』みたいな、ドヤ顔をしているクロを見ると、なんだか台無しの気もするが、これがクロという神様だ。

 クロは損得というもので人を助けない、言うならば……


「はぁ……クロ様は気まぐれなんですよ」


「にゃはは〜! 気まぐれか〜! 大いに結構ではないか〜!」


 ため息を吐く俺を気にせず、クロは自分の腰に両手を当てて、胸を張って大きな声で笑った。


「貴様は、そんな我の気まぐれに乗るか?」


「っ! ……ふふっ、そうですね。乗らしてください……! 私にあなたを信じさせてください!」


 彩さんは一息入れて、ふっと笑うと、クロの問いかけにまっすぐと答えた。


「ばっちぐーなのじゃ!」


 それに対して、クロは右手の親指を立ててみせた。


「話まとまった感じか?」


「そうですね」


 クロの声が聞こえない翔さんは、彩さんの反応を見て、事が進んでいることを察したのか、ピンっと指を1本立てて俺に問いかけてくる。


「じゃあさ、1つ俺から質問いいか?」


「はい?」


「力があとちょっとしか残ってない神様が、6年も時間を戻せるのか?」


「……ぁ」


 翔さんの問いかけを聞いた俺は、気の抜けた声を出すことしか出来なかった。

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