7.5話 記憶
「お兄ちゃーん!! 起きろ~!!」
「うっ!」
鼓膜と腹部に大きなダメージを受けた反動で、俺は目を覚ました。
「えへへ、おはよ~」
「っ……この起こし方やめてくれって言ってるだろ?」
そこには、ベッドに寝転んでいる俺の上に覆いかぶさっている遥がいた。大方母さんに、2階の自分の部屋で寝ている俺を起こすように頼まれてきたんだろう。
(そうだとしても、寝ている俺に飛び込んでくるのは、びっくりするからやめてほしいんだけどなー……)
「だって、お兄ちゃんの反応が面白いんだもん~」
「面白いって……」
悪戯な笑みを浮かべる遥を見ると、どうやらそれは叶わないのが分かる。まだ寝ぼけている俺とは対照的に、遥はいつも通り元気そうだ。
「遥~! 幸人もう起きた~?」
朝ごはんが出来たのだろう、母さんが1階から大きな声を出している。
「起きたよ~!」
(寝起きに至近距離で大声出されると頭痛い……)
その母さんの声に元気よく返事をした遥の声で俺は完全に目を覚ましたが、それと引き換えにひどい頭痛を起こしている。
「ふわ~あ……さてと、下行こっか」
「うん!」
けど、こんな日常を俺は幸せだと思っている。
ーーーーーー
『……遥ちゃん、後で絶対に埋め合わせはするから……少しだけ、ほんの少しの間だけ俺たちの声が聞こえないとこにいてくれないかな?』
翔さんから除け者扱いにされた私は、体育館横のベンチに座り込んでいた。
「……私……何の役にも立ててない……」
さっき教室にいる間、私にできたことなんて何もなかった。……まるで、お兄ちゃんの供え物だった。
「はぁ……」
(邪魔をしないっていう最低限のことはできたけど、私も力になりたい……)
あれからもうすぐ6年経つっていうのに、私は何一つ成長できていないんだ。
「お母……さん……お父さん」
(会いたいよ……)
落ち込む私とは対照的に、体育館からは部活をしている人たちの元気な掛け声がずっと辺りに響いていた。でも、この時はそれが有難かった。だって……私の泣き声を消してくれるから。




