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7話② 影の薄い妹たち

「ふぅ~……」


(状況を整理すると、うちの神社に久々に来た参拝客がたまたま幽霊で、たまたま俺と同じ高校に通ってて、その人の話を聞きにきた人がたまたま妹で、挙句の果てに多重人格ってか?)


「整理できるかぁぁぁああああ!!」 


 積み立てようとしているブロックの形がこうもぐちゃぐちゃだと、どうしようもできない。テ◯リスのブロックとかを見習ってほしいものだ。


「っ! 急にでかい声出すなって!」


「いやいや! でかい声も出ますって!」


 大袈裟に耳を両手でふさぎながら俺を制す翔さんに、俺は反論した。ていうか、翔さんの声も十分でかい……一緒に陸上部の練習に混ざれるな。


「あぁ……もう……」


 完全に脳がパンクした俺は、頭を抱えた。自分で大きい声を出しておきながら、その声が頭に響いて、軽い頭痛がする。


「どう……して、翔さんは……楓さんを……知ってたんですか……?」


 そんな俺を見た遥が俺の代わりに、健気にも会話を回そうと、翔さんに俺が聞こうとしていたことを聞いてくれた。


「ん~? まあ、俺なりに色々調べたからね~」


「……色々?」


「今の時代怖いよね~、ネットで何でも出てきちゃう」


 そう言って翔さんはスマホを取り出して、何かを調べだした。


「彩ちゃんには辛いことを思い出させちゃうかな……?」


「……大丈夫です」


 翔さんと彩さんは急に神妙な面持ちになった。ここまで俺と遥を放ったらかしにされると、少し寂しくなるまである。

 いつもは遥のことをとことん構うというのに……それほど真剣ということなんだろう。


「それと、遥ちゃんはいったん席を外してくれないかな?」


「……え?」


 すると、翔さんは遥をさらに突き放した。あまりにも唐突な翔さんからの宣告に、遥は呆然としている。


「……私……邪魔なんです……か?」


 自分一人がここまで露骨に除け者扱いされたことにショックを受けたんだろう、遥は震えながら声を出した。目元には涙が溜まっている。


「そんなことは絶対にないよ。遥ちゃん、後で絶対に埋め合わせはするからさ。少しだけ、ほんの少しの間だけ、俺たちの声が聞こえないとこにいてくれないかな?」


 こんなに悲しそうな顔をした遥を突き放す翔さんなんて見たことがない。それほど、これから翔さんの口から話されることがショッキングなことなんだろう。


「…………分かり……ました」


 涙目になりながら教室を出ていく遥を見ていると、思わず後を追いそうになったが、翔さんが俺の腕を引いてそれを止めた。翔さんは、目でお前はここに残れと訴えかけてくる。

 それを指示した翔さんは、自分が憎いのか、下唇を強くかみしめている。


「彩ちゃんお待たせ〜」


「あの……唇から血出てますよ?」


「ん? あぁ、気づかなかったや……」


 嚙み締めた口元から、血が出てきていることを彩さんに指摘されるまで、翔さんはそれに気づいていなかったみたいだ。唇の痛みなんかより、心の痛みが勝っていたんだろう。


「どうぞ、これ使ってください」


 彩さんはスカートのポケットからハンカチを取り出すと、それを翔さんに差し出した。純白の生地にかわいらしくデフォルメされた熊がアップリケされた、小学生女子が持ってそうなシンプルなデザインのハンカチだ。


「汚れちゃうよ?」


「いいですよ、汚れなんて洗えば落ちますから」


「ありがとね」


 彩さんのハンカチで口元を拭うと、翔さんはようやく本題に入った。


「っ……さてと、どこから話せばいいやら」


「さっきスマホで何調べてたんですか?」


「そういえば、まだ見せてなかったな。これだよ」


「これは……女子高生変死事件……?」


 翔さんが見せてくれたスマホの画面には、とあるネットの記事が映し出されていた。写真すら掲載されていない、文字だけの小さな記事だ。その内容は、外傷もなく、死因が全く分からない女子高生の死体が見つかったというものだった。記事には【女子高生】という肩書だけで、被害者の名前は書いていなかったが……


「まさか、これが?」


「……私のお姉ちゃん、桜木楓」


「……っ」


 苦悶の表情を浮かべながら、自分の姉が変死したことを俺に告げた彩さんを見た俺は、思わず言葉を失った。幽霊の美奈さんを見てはいたが、人が死んだというのを改めてこうもまざまざと突きつけられると……


(しんどいな……)


「……」


 それに、さっきから何かが俺の中で引っ掛かっているんだが……その正体が分からない。


「どうした?」


「何かが矛盾している気がするんですよ……何かが」


「えらく曖昧だな」


「うーん……」


 何が引っ掛かっているのか、今の状況を改めて頭の中で整理してみると、


「あ、」


 俺が何でモヤモヤしていたかが分かった。


「彩さんって、俺と遥みたいに双子だったたんですか?」


「え?」


「いや、僕と会った時に確か美奈さんも2年生って言ってたんで」


 そうなると2年生の彩さんと双子ということになる。


「えーっと……」


 俺の質問に、彩さんは何故か不思議そうな顔をしている。まるで、俺が素っ頓狂なことでも聞いたように……


「いや、お姉ちゃんは私と6歳差だけど?」


「6歳差……?」


「うん、お姉ちゃんが死んだ時、私はまだ小学生だったし……」


 この人はどれだけ俺を混乱させるんだ……俺が矛盾だと持っていたものは筋が通っていたが、こんなことなら矛盾したままの方が良かったまである。


「何で俺が遥ちゃんを教室から追い出したか分かったか?」


 気づいたか? と目線を向けてくる翔さんの目を、俺は真っ直ぐ見ることはできなかった。体を少し震わせて、教室の床を見つめながら、俺は状況を確認する。


「……美奈さんと6歳離れている彩さんが、美奈さんが亡くなった年齢と同じになっているということは……美奈さんが亡くなったのは6年前ってことですよね?」


「そうだ」


「それがどうかしたの?」


 このことだけでも俺からすれば衝撃的な新事実だが、それだけだと翔さんは遥を突き放さない。翔さんは遥のことを最大限に気遣っていたんだ。


「美奈さんが記憶をなくしていた……つまり、行方をくらませたのが」


 この話は遥の前では話せなかっただろう……この日は、


「6年前の9月14日……僕の母さんが殺された日です」


 俺と遥が生涯忘れる事の出来ない日付だ。

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