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私が憧れの職場に入れたのは、賢者のお祖父様のごり押しでした  作者: うる浬 るに
私が憧れの職場に入れたのは、賢者のお祖父様のごり押しでした
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09 ルームメイト

 大通りを路地に入って寮が見える場所まできましたが、なんだか騒がしいです。

 大きな馬車が玄関の前に横付けされていて何やら揉めているみたいなので、かかわらないように、人の隙間からそそくさと寮へ入りました。


 そろそろお昼の時間ですし、パン屋さんで甘いものでも買って、今日は部屋にこもり読書でもして現実逃避します。


 パンとお茶で手がふさがっていたので、お行儀が悪いですがドアを身体で押して開けます。

 部屋に入るとそこには何故か金髪碧眼の美女がベッドに座っていました。


「す、すみません、部屋間違えてしまいました」


 ドアを閉めて確認してみましたが階段からひとつめの部屋、合ってますね。

 この部屋にいるということは同居人でしょうか。

 もう一度ドアを開けてみました。


「すみません、私はこの部屋を使っている者でイリディアナと言います」


 美少女は目を細めて微笑んだかと思うと、


「あなたが同じお部屋の方なのね? わたくしはミオネウム公爵家のサメアリアよ」


 公爵令嬢!? って同じお部屋って言いましたよね?

 平民と貴族は同室にはならないはずなので部屋を間違っているかもしれません。


「あの、少しお待ちいただいてもよろしいですか」


 すぐさま管理人さんのところへ確認にいきましたが、部屋は間違っていないし、平民と貴族が同室になることは禁止されていないので、問題はないと言われてしまいました。


「事前の調査であなたが一番あの娘と上手くいきそうだったのよ。貴族の娘たちは公爵家の令嬢とは絶対に嫌だって拒否しているのに、同室にしたらお互いストレスにもなるでしょ。毎年部屋割りには頭が痛いわ。今年は特に濃すぎて本当に大変」


 とこめかみを揉んでいて取り合ってもらえませんでした。


 さてどうすればいいのでしょう。まずは私が平民だとお話ししないといけませんね。 


 とりあえず、

「イリディアナです。入りますね」


 手にはずっとパンとお茶を持ったまま。部屋へと戻りました。


 現在、お互い自分のベッドに座って向かい合っています。サメアリア様が、爵位に関係なく自由にしてほしいと言われて、今このような状況になっています。 


 サメアリア様は二十代中ごろほどで、これぞ公爵令嬢という少しつり目で凛としたお顔立ち。美人だけど一見冷たそう見えます。ちなみに私の公爵令嬢像はもちろん小説からの情報です。


「サメアリア様は配属の部署へご挨拶には行かれましたか? 」


「いいえ、これから伺おうと思っているわ。この建物は許可された者しか入れない魔法がかっているようなの。荷物を運ぶのに家の者が入れなくて、わたくし一人で二階まで運んだから、少し疲れてしまって」


 言われてみればサメアリア様側に大きなトランクが三つもありますし、お布団が備え付けの物ではありません。サメアリア様がここまで運んだってことですよね。

 さっき寮の入り口で揉めていたのも他の貴族家の使用人が入れなかったからでしょうか。


「あの、お茶淹れましょうか。私、美味しく淹れられる自信はないですけど」


 私も一息つきたかったのでそう提案してみます。さっき入れたお茶は冷めてしまいましたし、自分だけ飲むわけにもいきませんしね。


「そうね。お願いしようかしら。あと出かける前にお食事もしたいわ。どうしたらいいのかしら」


 うーん。とりあえずパンを買ってお茶を用意してから、お話しすることにします。


 サメアリア様には女子寮の玄関を入ったすぐ横に飲食可能な談話室があるので、そこのソファ席にてお待ちいただくようお願いしました。


 談話室には丁度誰もいなかったので、と言うより、今日引っ越していらっしゃった、初めて見るご令嬢たちはサメアリア様がいるのに気がつくと談話室には入ってきませんでした。

 初めからいる人たちは相変わらず引きこもっています。


「サメアリア様、これから私がお話しすることがお気に召さなければ、すぐに部屋替えを申し出ますし、以後サメアリア様の目に触れないよう生活しますから、少しお時間をいただけないでしょうか」

「構わないわよ」


 それからサメアリア様にまず自分が平民であること、貴族令嬢の礼儀作法を知らないので見苦しいところも多いと思うこと、身分の差から価値観の違いがあること、それでも同じ部屋で生活する気があるのかを尋ねてみました。


「魔法師団はそうゆうところだと聞いているわよ。わたくしは家からあまり出たことがないのでわからないことが多いの。あなたには迷惑をかけるかもしれないけれど、これからお友達として仲良くしてもらえるかしら」


 私は平民なのでお友達では恐れ多いと思っていましたが


「貴族の令嬢はわたくしを恐れて目も合わせてくれないから、あなたにいろいろ教えてほしいの」


 確かにサメアリア様が寮生活になれるまでは一緒に行動した方がいいかもしれませんね。

 さすがに私も嫌な人とは無理して付き合おうとは思いません。私が言うのも烏滸がましいですが、サメアリア様は手を差し伸べたくなるようなお人柄でした。なんでご令嬢たちは恐れいているんでしょう?


「私でよければ喜んで、私のことはイリーとお呼びください」

「ええ、そうするわ。それで質問があるのですけど、これからずっとお食事はこれなのかしら?」


 パンを手にサメアリア様が困惑しているようでした。何がお好きかわからないので、念のため『クルミパン』や『ジャムパン』のほかににハムや卵などの具を挟んだ『サンドイッチ』を数種類用意したんですけど、今までご令嬢として生活してきたサメアリア様がかぶりつくのは問題がありそうですね。

 今日はクルミパンとかちぎって食べられるパンだけで我慢しいただくしかありません。


 食堂で食券の使い方を教え、外食でもいいこと、人によってはご自宅で食事を済ませてから寮に帰ってくる人もいるみたいですよと伝えると


「これからはイリーと一緒に食堂を使うことにするわ、いいかしら」


 そう、言われて目を細めました。


 微笑んでいるんですけど、お顔立ちのせいで不敵な笑みを浮かべているように見えてしまいます。このせいで恐れられているんですかね。そんなことサメアリア様に聞くことはできませんが……。


「サメアリア様はどちらの部署ですか?」

「私は……情報部調査課よ。あと、わたくしのことはサメアでいいわ。イリーはどちら」

「えっと、魔法防衛部です」

「まあ、すごいのね」


「何もわからないので、これから頑張らないといけないんですけど。今日も小説とは違うって言われてしまいましたし」


「まだ知り合ってそれほどたっていないわたくしが言うのもなんだけど、イリーなら大丈夫だと思うわ。とてもいい子なんですもの」

 サメア様に褒められちゃいました。なんか嬉しいです。


「お互い頑張りましょうね……」


 ところが、そう言ったあとにサメア様が今まで見たこともないような厳しい目をされました。


 驚いたのですが、その視線は私を通り越してその先を見つめているようでした。


「サメア……入団したって本当だったのね……世間知らずの貴方が何か役に立つことがあるのかしら。配属先の皆さんがお気の毒だわ」


 声のする方へ振り向くと談話室の入り口に一人、藍色の髪の少女がいて、明らかにサメア様のことを睨みつけていました。呼び捨てにされているので上級貴族で、お知り合いだとは思いますが険悪なムードでどうしたらいいのかわかりません。


「あなたの我儘で回りが迷惑するのよ。公爵家で大人しくしていたらいいのに。私への当てつけなの?」


 一方的にサメア様へ言葉を投げかけている少女には私の存在が目に入っていないようです。


「イリー、部屋へ戻りましょう」


 そう言って立ち上がり談話室から出ようとするサメア様を追いかけていく。


「あなたが魔法を使うと、また誰かが死ぬことになるわ」

 すれ違いざま、そう少女がつぶやきました。


 令嬢同士のバトルは小説ならハラハラして大好きなシーンですが、現実に起こるとどうしたらいいかわからなくて焦ります。それに藍色の髪の少女の言葉はとても不穏なものでした。


 足早に階段を登っていくサメア様を追いかけて部屋まできましたが。


「これからすぐに情報部へご挨拶に向かいます。夕食は食べて帰りますから、わたくしが遅くなっても気にしなくていいわ」


 サメア様はさっさと支度をして、話しかける隙もなく外出されてしまいました。


 突然雰囲気が変わったのでさっきの令嬢と何かあったことは確かですが。それを聞くことは私にはできそうにありませんでした。


 午後はもともと読書をして過ごそうかと思っていたので、飲み物がほしくなり給湯室へお湯をもらいにきました。

 あちらから歩いてくるのは、さきほどサメア様に厳しい言葉をかけていた少女ですね。うしろに令嬢をふたり侍らせて歩いてきます。


「あら、あなたさっきサメアといたわよね」

「はい、お部屋が一緒ですので」


「そう、サメアには気をつけなさいね。知っているでしょうけど、我儘でみんなに嫌われているし、へたにあの子の取り巻きになんてなったら酷い目に合うかもしれないわよ」

「それってどういうことですか」

「サメアのこと知らないの? あなた、どこから来たの」

「王都に住んでいましたが平民なので」

「やだ、そうなの?」


 そう言って藍色の髪の少女は私を見つめたかと思うと、

「忠告して損したわ」

 そう言って行ってしまいました。うしろのふたりも「やあだ、平民と同室ですって」クスクス笑っています。


 サメア様が我儘だとか、酷い目にあうとか、私とお話ししていたサメア様からは想像つきません。それに私と同い年くらいの少女がサメア様を『あの子』と呼んでいました。サメア様は二十五歳くらいですよね?


 どうせ告げ口するなら全部教えてほしいんですけど、中途半端な情報を聞かされた身にもなってくださいよ。


 部屋にもどっても読書に集中できません。


 結局その日はサメア様が部屋に戻ってくることはありませんでした。大丈夫だったのでしょうか?

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