33 跡片付け
今日からやっと他の皆さんと同じような通常の新人研修になると思っていたのですが、その予想ははずれていました。
カラーボールを集めるために、入山口の北の塔に着いてすぐ、今日も予定通りに進められないことを私たちは知ったのです。
「おまえらは俺たちと一緒に来い」
馬車を降りたところで、そう声を掛けてきたのは黒いローブをまとった集団。
しかし、黒とはいっても魔防部の漆黒とは異なり、その色は濃い灰色で、背中に魔法師団の紋章はありません。その中には、山の中で会った人と同じような黒系の迷彩柄ローブを身につけている方もいました。
皆さんが羽織っているのは自前のローブですが、全員魔法師団の先輩みたいです。
「研修の一環ですか?」
「そうじゃないが、新人指導のやつらには話をつけてあるから心配するな」
「炎魔法の使い手が必要なんだ。って言うか、おまえらがやらかした後始末だからな」
苦笑いをしている男性の視線が私に向いています。ということは、後始末って自然破壊をしつくしたあの場所のことだと思うんですよね。
あそこに避難と宿泊ができる拠点を建設するために、周辺に転がっている魔獣を片付ける必要があるので炎魔法が必要なんだそうです。
普段はまとめて土に埋めてしまうらしいのですが、そのまま埋めるにしても数が多いし、山の中にはそれを掘り返すような嗅覚の鋭い魔物もいるんですって。
これからログハウスを建てるにあたって、作業中の安全確保のため、それらをすべて炎魔法で灰にしてしまいたいとのことでした。
あと、あの辺りの地面も焼くそうです。圧縮魔法のせいで、いろいろ染み込んでいますから……。
その範囲が広いため、今回、能力を認められたジルさんが後始末要員として選ばれたみたいです。
「炎魔法を使えるのはジルだけですが、俺たち三人は邪魔にはなりませんか?」
「現場にいる奴らの補助か、片付けくらいはできるだろう」
「わかりました。指示に従います」
原因を作った私は、ジルさんのおまけでついていくことになりました。私でもお手伝いできることができればいいのですが。
「すごいありさまだな……」
「匂いがきついわね」
私が結界を張りまくった場所についてから、無残に切り倒された樹木を見たジルさんとメルンローゼ様の第一声です。
倒した魔獣はすでにどこかに片付けられていたので、あの日のような陰惨な光景ではありませんが、染みついた嫌な匂いはまだ漂っていてます。
だからこそ地面も焼く必要があるのでしょう。
「確かにここにある木材だけで立派な建物が建ちそうね。怪我の功名とでも言うのかしら。この場所に休憩場所ができることは、この山で活動している誰もが助かると思うわ」
メルンローゼ様にそう言ってもらえて少しホッとしました。
「何だあれは?」
ジルさんが見つけたは大木の表面に刻まれている『チームメイトのえんごにむかう』という文字。
「おまえたちと合流するために、あれはダニエルが彫ったんだ」
「ダニエルが? どう見ても誰かに残した伝言だろう。どういうことだ?」
「あーっと、それだけあいつが元気になっていたってことだ……。お?ほら、向こうで炎魔法の使い手は集まれって呼んでるぞ、ジルは行った方がいいんじゃないのか」
ジルさんの質問にオルガさんは返事ができず誤魔化しました。
即興で嘘をついても、私たちは隠し事が多くて、いろいろ聞かれたら、たぶん辻褄を合わせることが出来ないと思います。
オルガさんの不自然な態度をどう思ったのかわかりませんが、ジルさんはそれ以上追及することはありませんでした。
「では行ってくる」
「俺たちも今日はこの場で先輩たちの指示で動くことにする」
「私のせいで一日無駄になってしまってすみません」
こんな事態を招いてしまって、一日つぶれてしまったので私は三人に頭を下げました。
「これも研修のうちだ」
ジルさんはそれだけ言って魔物が集められているであろう場所へ行ってしまいました。
「俺たちが何をすればいいのか、先輩に聞いてくるから二人はここで待っていてくれ」
オルガさんも話を聞きにいってしまったので、私はメルンローゼ様と二人っきりになってしまいました。
気にしすぎなのかもしれませんが、この沈黙がつらいです。
話題を振るにしても何を話したらいいのわかりませんし、下手に今回の研修について踏み込んでしまうと、私は話せないことがあります。もしかしたらメルンローゼ様も答えられないことがあるかもしれません。
「えっと、今日もいいお天気になってよかったですね。知り合いが言ってましたけど、研修期間中に雨は降らないそうですよ」
それでも無言の空気に耐えられなくなった私は、昨夜サメア様に教えてもらった天気の話を口にしました。
「そう」
そっけない返事と態度だったのでメルンローゼ様は私と会話をする気がないのだと思っていたのですが……。
「これはオルガではなく貴女のせいなのよね」
「はい、そうです」
「どうやったらこんな状況になるのかまったく想像できないけれど、イリーの魔法がすごいことだけはわかったわ」
あれ? もしかしたら、今、メルンローゼ様に褒められました?
魔法の使い方がめちゃくちゃで、魔法師団の皆さんがこうやって後始末をしなければいけないような状況をつくったことに、実は結構へこんでいたんですよ、私は。
だからこそ、メルンローゼ様に『すごい』って言われて嬉しくないわけがありません。
それがどういう意味で言っているのかは深く考えず、自分に都合よく、褒められたってことにしておきます。
「結界を張ってから、その空間を圧縮する魔法で魔獣を倒していたんですが、障害物をよけることが出来なくて木々もこんな風に倒してしまうことになってしまったんです。そのやり方が大雑把すぎたみたいなので、もっと効率のいい方法を考えなくてはいけないと思ってはいます」
「私には人の使う魔法のことはよくわからないけど、その結界や圧縮、それに防御壁の魔法の使い勝手を良くしたいなら、教育部か情報部に相談するといいわ」
「相談って何をですか?」
「新しい魔法陣の開発を請け負っている課があるのよ。そこに依頼して試してみるといいのではないかしら」
思いがけず、とてもいい情報をいただけました。
新規の魔法陣の開発はとても大変なんですよ。従来の魔法陣に新しい文様をつけ足して試すのですが、必ずしも発動するわけではなく、ほとんどが失敗に終わるし、発動しても思っていたのとは違う魔法になってしまうんです。
庶民はたいてい自分ひとりで考えなければいけないので、そんな面倒くさいことをする人はほとんどいません。
普通に生活するだけなら既存の魔法陣で事足りますしね。
でも、これから魔防部で仕事をする私は違います。
「それはとても有難いです。王都に戻ったらお願いしてみます。教えてくださってありがとうございました」
「優秀な魔法使いが増えることは国のためになるのだもの」
「そうなれるように頑張ります」
コテージに戻ったらさんにその課の話をサメア様とカンナさんに聞いてみようと思います。
新しい魔法の開発。体力づくり。防御壁を踏み台として使う方法。課題がどんどん増えていきますが、魔法使いとして一人前になるためです。どうせなら楽しみながら覚えた方がいいですよね。




