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私が憧れの職場に入れたのは、賢者のお祖父様のごり押しでした  作者: うる浬 るに
私の能力が試されているのは、賢者の孫馬鹿のせいらしい
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30 疑惑

 午後一番に、塔から研修施設までの馬車を出してもらいました。


 到着後、オルガさんが先にヒントやダニエルさんのことを確認しておきたいと言ったので、明日からの予定は、あとで集まって話し合うことになりました。だから、夕食までは各自自由時間となっています。


 昨日はかなり無理をさせられたので、今日はその分ゆっくり過ごせばいいとオルガさんには言われましたが、お昼寝をするほどでもありませんし、暇だった私は、ひとりで施設の周辺をふらふらと散歩していました。


 時間ができたし、本当なら拠点に戻ったついでに、ムームたちの状況を聞いておきたかったのですが、今はほとんどの新人が出払っていて、ここには指導官しか残っていないみたいです。

 真っ昼間にこんなところでふらふらしているのは私くらい。だから誰か知っている人が帰ってくるまでは待つしかありません。



「あの山ブドウ、誰も食べずに残っているのはすっぱいか渋いからなのかな」


 私が見上げているのは、赤紫色をした小ぶりな房の山ブドウです。

 馬車で移動している時にも山の中で目にしたんですが、施設の裏手で目立たない場所だとはいえ、美味しければ収穫されていると思うんですよね。

 手つかずなのはそれなりの理由があるはず。


「頑張れば手が届きそう」


 それでも興味本位で、私はつま先立ちになりながらそれに手を伸ばしたのですが。


「イリー、ちょっといいか?」

「オルガさん?」

「話したいことがあるんだが」


 建物の陰から顔を出した彼。どうやら私を探していたようです。

 だから山ブドウを取るのはやめて、すぐにオルガさんの元に駆け寄りました。


「何かあったんですか」

「別にたいしたことじゃない。例の話で確認がしたいことがあるだけだ。あの件はイリーとしかできないからな」


 例の話とはあの話ですよね。

 指導官にダニエルさんのことを聞いてきたから、その報告でしょうか。


「それにしても、よく私がここにいることがわかりましたね」


 ここは集合棟の裏側になるので、目立つ場所ではありません。探したところですぐに見つかる所でもないですし。


「建物の中から、イリーがこっちへ歩いていくのが見えたからだ」

「そうだったんですね」


 私の疑問に答えたあと、オルガさんはその場で石の壁に背をあずけて腕を組み、視線を周辺に向けて、近くに誰もいないことを確かめた後、話を始めました。


「ダニエルはチームに戻らないらしい。指導官たちは俺たちだけでも問題ないと判断したそうだ」

「それはいろいろと残念ですね」

「ダニエルが戻ったとしても、俺たちの側にいたところで、今後は手助けをしないらしいからな。もう一緒にいる意味がないとも言っていたぞ」


「研修だから監視官であるダニエルさんは手を貸せないってことでしょうか」

「そうだろうな。あと、たぶん俺たちを見守る必要がなくなったってことだ」

「見守る……ダニエルさんって、すごい能力の持ち主っぽいですし、確かに、側にいて助けられたら成長できませんもんね」

「イリーもそう思ったか。あの時、俺たち二人でどうにもならなかったら、きっとダニエルがあの場を治めたんだろうな」


「だったら、昨日で能力の確認は終わったんでじゃないでしょうか。明日から私たちだけになっても、昨日のような酷いことはきっともうありませんよね?」

「だと思う」

「あとは四人で粛々とカラーボールを集めるだけですね」

「四人……そのことなんだが……」


 オルガさんが何か考え事をしながら口ごもりました。


「なあ、イリーはメルンのことをどう思う?」

「メルンローゼ様?」


 チームメイトだからといって、私とメルンローゼ様との間柄を、わざわざオルガさんには告げていません。だけど、知らない人が見てわかるほど、メルンローゼ様に対する私の態度が不自然だったのでしょうか?


 そもそもメルンローゼ()呼びが魔法師団内ではおかしいと思われますよね。

 でも、オルガさんも男子寮で暮らしているから、新人同士なのに、様呼びされる人がいることについてはわかっていると思ってました。

 男子寮は違うんでしょうか?


 チームが一緒になったからといって、私が『メルン』なんて軽々しく呼べるわけもなく……。


「これにはいろいろと訳があってですね……気になるかもしれませんが、メルンローゼ様と親しくなるにはちょっと差し障りがありまして、女子寮にいる間は、できるだけ揉め事を起こさずに過ごしたいなあと思っているんです」

「女子寮? イリーは何を言ってるんだ」


 あれ? もしかして、話が噛み合ってない?


「私とメルンローゼ様のことですけど?」

「俺が聞いてるのはそんなことじゃない。メルンもダニエルと同じではないかと疑ってるって話だ。イリーはどう思う」


「え? メルンローゼ様も監視官なんですか?」

「確証はないが、怪しくはある。それはたぶん、メルンが持っている救援弾を打ち上げてみればわかるんだけどな。きっと緑色だと思うぞ」

「オルガさんから見ると怪しいんですね?」

「ああ、まずはその救援弾を使わなかったことだ。必要かもしれないと持っていったのに、俺たちのために使うわけにはいかなかったと、メルンは言っただろ」


 確かに矛盾はしていますね。


「あとは、ジルに魔法の使い方を教えたからだ。ダニエルがそう言っていたしな」


 言われてみれば、それもそうです。


「そして、ジルから話を聞いた感じでは魔獣の討伐に一切手を出していなかったようだ。やってることがダニエルとほとんど一緒だからな。道案内はしていたようだが、それも足止めされていたから意味がなかったわけだし」


「でも、ひとつ目のボールはメルンローゼ様が目星をつけてくれたから見つかったんですよね。それにメルンローゼ様は間違いなく新人ですよ。オルガさんの話は的を射ていて、私も怪しいと思いますけど、逆にあり得ないとも思えます」

「メルンはブネーゼ魔山に詳しいんだろ? だから新人でも監視官として抜擢されたんじゃないかと俺は思ってる。ひとつ目のボールがあまりにもあっさり見つかったせいで、俺たちは山奥に誘導されたとは思えないか」


 それは、そうかもしれません……。


「そのことを、さすがに本人に直接聞くわけにはいきませんよね」

「ああ、俺たちが疑っていることを悟られたらメルンまでチームから外されてしまうかもしれないぞ。こっちが知らぬふりをしていれば、ブネーゼ魔山の案内くらいはしてくれるだろうから、絶対に気づいていることに気づかれたらだめだ」

「そうですね。そうなったら私たちは三人になっちゃいますしね」


 メルンローゼ様なしで、山の中を行くのはちょっと大変かもしれません。

 ジルさんたちと合流するまでの険しい道のりを思い出すと、メルンローゼ様は歩きやすい道を選んで進んでいたと思うので、それだけでも有り難いことです。

 たとえ、魔獣の討伐に協力してくれることがなくてもぜんぜん構いません。


「わかりました。私は何も知らなかったことにします」


 ブネーゼ魔山の中での行動を見てもそうですが、オルガさんがチームリーダーに選ばれたのは納得がいきます。

 メルンローゼ様のこともそうですが、細部に目を配っていたんですね。


 私も是非見習いたいと思います。


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