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私が憧れの職場に入れたのは、賢者のお祖父様のごり押しでした  作者: うる浬 るに
私の能力が試されているのは、賢者の孫馬鹿のせいらしい
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28 報告

 私はくたくたになりながらも、人の手を借りずになんとかブネーゼ魔山の麓にある見張り用の塔までたどり着きました。


 到着した時には、すでにあたりは薄暗くなっていたので、今日はここに宿泊するしかないようです。

 ムームやサメア様に会いたかったし、皆さんも研修施設に戻ってからゆっくり休みたかったみたいでしたけど、残念ですが帰り用の馬車を出してもらえませんでした。


 オルガさん曰く『見学していた先輩たちが本来の持ち場に戻るために、ここにあった馬車は全部先に使われたんだと思う』だそうです。

 実際、この塔には思ったほど人がいないので、そうかもしれません。


 足止めはされてしまいましたが、夕食は焼きたてのふかふかのパンとスープを用意してもらえました。それに疲労に効く薬草茶 。一緒に干し肉も配られたのですが、これはそのまま齧るか、細かくちぎってスープに浸しながら食べるみたいですね。


 保存食だけではなく、塔に常駐している調理人の方から暖かい食事を提供してもらえたので、お腹も十分満たされましたし、薬草茶の効果があったのか疲れがとれた気がします。


 食事が終わると、私たちは今夜就寝する場所へと案内されました。そこは塔の四階部分で、扉以外は仕切りが何もない円柱のスペースです。


 雑魚寝部屋でここで好きに寝ろってことみたいですが、私とメルンローゼ様はそのあと五階に連れていかれて鍵付きの個室に案内されました。

 そこもがらんとしていて、何もありません。ですから、寝具置き場の倉庫までマットとブランケットを自分達で取りに行って、寝る準備ができてから、私たちはもう一度オルガさんたちがいる四階へと戻りました。


 ジルさんが今日あった出来事を皆で話し合いたいそうです。


 私たちは、男子が今夜使うために用意した、たたんだままの寝具をクッション代わりにして床に座りました。


 このマットは、討伐した魔獣の毛が詰められているそうです。今回はいませんでしたが、羊に似た魔獣の毛で作ってあるので寝心地はいいそうですよ。

 匂いは少し動物臭がしますけどね。



「メルンが言っていたんだが、今回の魔獣の湧き方は異常だそうだ」

「ブネーゼ魔山とは言え、あれほど、ありとあらゆる魔獣が集まってくることは普通ならあり得ないわ」

「そうだな……」


「しかも、救援弾を上げたというのに、下山するまで私たちは誰にも会うことがなかった。緊急時だというのに、この塔にいる者が誰も気がつかないのであれば、あの魔道具にはまったく意味がないことになる。オルガたちのところに救助に向かった団員たちは、いったいどこにいたんだろうな」

「ジルはこう言っているけれど、普段はそんなことないのよ。今日は本当におかしなことばかりだわ」

「そうなんですね……」


 ジルさんとメルンローゼ様の疑問に対する答えを私たちは知っていますが、いろんな方との約束で、二人に教えることはできません。


 ジルさんを試すために、魔法師団の先輩たちだけではなくヴェルリッタ領の方までもが、この場所へ嬉々として魔獣を集めたという話は秘密にしなければいけないのです。


 オルガさんも自分から何かを口にすることはなく、ただ相槌を打つだけでした。


「それでメルンと話していたんだが、私たちはこれが怪しいと思っている」


 そう言ってジルさんがローブの内ポケットから出したのは、今日、ここを出る際に渡された匂い袋でした。


「これは魔獣除けだと言っていたが、実は反対に魔獣が好む匂いがするのではないかと私は思っている」

「ああ、なるほどな。本当に魔獣除けなら、今回はまったく役にたたなかったからな」


 そんな小細工までされていたんでしょうか……。


「新人研修会の内容だが、どうやら額面通りに受け取ってはいけないようだ。カラーボールをただ集めれば良いという単純なことではないらしい」

「新人である私たちに、いろいろな経験をさせるため、わざと障害を作っているように思えるの」

「それはそうかもな」


 二人がそう考えるのも当たり前です。


 ブネーゼ魔山初心者の私たちを――メルンローゼ様だけは違いますけど、それでも、何の忠告も予習もせずいきなり送り出して、魔獣の大軍をあてがうなんてちょっと酷いですよね。


 万が一のことを考えてダニエルさんが私たちの側に待機していたんでしょうけど、チームが別れてしまったせいでジルさんたちは遠巻きでしか守られていませんでした。


 それでも彼が魔獣の討伐を実力でやってのけたから良かったものの、監視していた皆さんがジルさんの能力を見誤っていた場合、大怪我する可能性だってありましたよね。


 あれって考えれば考えるほど、やり過ぎじゃないかと思います。


「だから、結果的に私は指導官たちの期待に応えることはできなかったということだ」


 ジルさんは、ほぼひとりで魔獣討伐をやってのけたと言うのに、何故、自己評価が低いのでしょうか?


「そんなことはないと思うが? あれだけ数多くの魔獣を倒したんだ。ジルは十分やったと判断されるはずだ」

「魔獣のことではない。ダニエルはどうなった? 治療をしていると言っていたが本当に無事なんだろうな?」


「ああ、ダニエルのことか。あいつは元気だから大丈夫だ。傷口が治ったところを、俺はこの目で確認しているから心配しなくていいぞ」

「そうか。彼が無事ならよかった。しかしそうだとしても、チームメンバーが負傷した時点で私たちは不合格なんだろう」

「それは……」


 オルガさんが口ごもってしまいました。

 ジルさんたちはそれを違う意味で受け取っていると思います。


 誰も怪我なんてしていません。そう伝えたいけど伝えられない。とても歯がゆいです。


「そう言えば、メルンローゼ様は救援弾を使わなかったんですね。ものすごい数の魔獣に取り囲まれていましたのに」

「それはだって、もし私たちが救援弾を使用して、最初に使った貴女たちの元へ誰も救助に向かわなかったら困るでしょう。それにジル一人でなんとかなっていたもの……」


 こちらのことを考えてくださっていたんですね。

 それに、どうやらメルンローゼ様の見立てでは、ジルさんに援軍は必要なかったようです。


 それは私たちが合流しなくても何とかなったってことですよね。

 やっぱりすごいです。


 それよりも、不合格と言えば……。


「すみません。私はすでに減点されていました。皆さんの足を引っ張って申し訳ありません」

「減点? 救助を求めたからそう言われたのか?」


「違います。結界を張ったまま何時間も過ごしてしまったので、掟破りだと忠告されてしまいました」

「結界を張ることがどうして掟破りになるんだ?」

「結界に触れた魔獣をそのまま放置していたので、進化したらどうするつもりだと言われました」


 それを聞いたジルさんとメルンローゼ様の表情が厳しくなったので、私は思わず視線を床に向けて逸らしてしまいました。


「そのあと、イリーがちゃんと全滅させたから大丈夫だぞ」


 情けない私のことを、オルガさんがすぐにフォローしてくれます。


「全滅できたのは、オルガさんのおかげですよ」

「そうか。ちゃんと処理が終わっているならいいんだ」


「ジルの方こそ、初めは熱波で吹き飛ばすなんて言ってたが、それでは生死の確認をしなくてはいけなかったんだろう? 途中でやり方を変えたのか?」

「ああそのことか。確かに初めのうちは熱波を使っていたんだが、確認が大変だからとメルンが止めたんだ」

「いちいちとどめを刺しに行かなくてはいけないのは時間の無駄だったんだもの」


 ジルさんであれば、周辺を延焼させずに炎魔法を使用することができる。

 そのことに気が付いたのは、ムームのところでそういう使い手を見たことがあったメルンローゼ様だったそうです。


 小さな炎で何度か試してから、全力でも炎を発生される時間が一瞬であれば自分ですべて消すことができたので、目についた魔獣は端から消し炭にしたと、ジルさんは自慢をするわけでもなく、さらっと教えてくれました。


 ジルさんたちの方も、相方がメルンローゼ様だったのは幸運でしたね。


 今回二手に別れることになってしまいましたが、話を聞いてみて、ちょうどいい具合に編成できたようです。


 それで誰ひとり怪我もなかったのですから、本当によかったと思いました。


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