23 顧問の孫
「あとは、転がっている魔獣たちのとどめを刺してね」
「はい」
私は自分が切り倒した樹木の間を調べて、その場に転がっている魔獣の中で、息のあるものををしらみつぶしに圧縮していったのですが、その時にもうひとつ、ダニエルさんからアドバイスをもらうことができました。
「イリーの魔法は、僕の魔法と同じことができると思うんだよね」
「ダニエルさんと同じことですか?」
ダニエルさんの魔法。私が知っている限りでは穴を掘る、または開ける。そして埋める。
対して私はと言えば、防御壁と結界。物質を遮断する魔法。正反対ではないのでしょうか。
「たぶんイリーも、急所を狙えば最小の魔力で効率よく退治できるよ」
そう言って、自分の頭と胸を指さすダニエルさん。
「とどめを刺すのも、それだけで事足りるってこと。今までのイリーがやっていた方法だと、ちょっと血生臭くなっちゃうから、心臓だけを圧縮しちゃえば、その後それほど酷い状態にはならないと思うけどね」
試しに一番近くにいた一頭に、言われた通りの方法で魔法を掛けてみました。
「ほんと、すごいです。ダニエルさん。私って今まで本当に非効率な魔法の使い方をしていたんですね」
こんなに簡単に片付いてしまうなんて、目からウロコが落ちました。
「なんでだろう。本当に不思議だけど。どうしてあの方は君にちゃんとした魔法の使い方を教えなかったんだろうね。もしかしたら、あまり戦闘はさせたくなかったのかな」
あの方……たぶん、お祖父様のことですよね。
お祖父様は『魔法なんてのは、ドカーンと楽しくやりゃあいいんだ』とか言ってました。豪快なのは、賢者と呼ばれるくらいすごい才能の持ち主だからだとは思います。
しかし、凡庸である私の師匠としては、大雑把すぎたということでしょう。
それよりも……。
「あの、なぜダニエルさんはそのことをご存知なんですか?」
「ご存知も何も、伯爵家以上の貴族であれば、あの方の四男が伯爵家を勘当された話は知っているし、その気になって調べれば、その人が今どうしているかも簡単に掴むことはできる。その家に娘がいることもね。君たちは王都にいて、しかも隠れて暮らしているわけでもないんだから」
「そうなんですか? だったら、魔法師団で私と祖父の関係を知っている人がたくさんいるってことですよね?」
「上層部は知らないわけないと思うけど、一般はどうだろう? そこまで興味を持って調べるのは伯爵家に縁のある者か確執がある貴族家だけだと思うけどね」
確かに、公爵家だけどサメア様とメルンローゼ様は間違いなく知らなかったと思います。
ムームはどうでしょうか。あの態度は微妙ですね。
でも、だとしたら、それを知っているダニエルさんはいったい何者? 魔法師団では身分はないものとされているので、ここで聞くわけにもいきません。
「内緒だけど、今回君たちがこんな目に合っているのも、あの方のせいでもあるんだよね。実際に試されているのは正当な孫であるジルだから、本当はこっちに残って欲しかったんだけど、結果的には、君と別れてくれて良かったのかもしれない。僕はいいもの見せてもらえたし」
よくわかりませんが、やはりお祖父様がやらかしていたようです。ヴェルリッタ領の方たちにも『俺らなんて足元にも及ばないって言っていたからな』と自慢をしていたような雰囲気でしたし、だから、その孫であるジルさんがやり玉に挙がってしまったのでしょう。
そして私の存在を知っている方からは私も目をつけられていたのかもしれません。
「だから、同じ魔防部の部員である私たちふたりが、赤縞チームに纏められてしまったんでしょうか」
「うん。たぶんそう」
はあ。
思わずため息が出てしまいました。
ちょうどその時、かなり遠くですが私の視界に一頭の魔獣が入りました。
「まだ、残ってた……どこかに隠れていたんですね」
私は魔獣が走りすぎていった場所にもう一度広域の結界魔法張り、すぐに解除をします。
そして、木々が地面に激突する騒音のどさくさに紛れて『お祖父様の大ばかーーーーー』と叫んでおきました。
結界を張った場所から距離があったので、今回は穴に避難はしてはいません。
私の声はドシャーンという大きな音にかき消されていると思っていましたが、絶叫はそれらと一緒に木霊していたようです。
あとで、ダニエルさんに『意外。いつも淡々としているのに、イリーもそういうことするんだね』と笑われてしまいました。
やることが子供っぽかったでしょうか。面と言われると恥ずかしいです。
そして、そんな余計なことに体力をつかってしまったからでしょう。
「あっ」
そろそろまずいかなとは思いながらも、新たな魔法の使い方を知った私は、自分でも気づかないうちにテンションが上がっていたようで、自分の限界がわからなかったみたいです。
一瞬頭が真っ白になったあと、気が付いた時にはダニエルさんに身体を支えられていました。お祖父様の悪口を叫んでいる場合ではありませんね。
「すみません。ありがとうございました」
「さっきまで普通にしていたし、大声出せるくらいだから、まだまだ大丈夫かと思っていたけどそうでもなかったんだね。転ばなくてよかったよ」
オルガさんはまだ私が破壊しつくした山の中で、念のため樹木の陰に転がっている魔獣たちにとどめを刺しています。
確実に全滅させるためには、私も倒れている場合ではありません。手伝わないと……。
「私も討伐を続けます」
「大丈夫?」
「はい」
気力が戻ったので、足を踏み出しましたが、少し歩いたところでちょっとの段差に躓いてしまいました。すぐそばにあった木の枝を掴んだので大丈夫でしたが、すぐにそれを見ていたダニエルさんから声が掛かってしまいました。
「もう無理なんじゃない? 心配させたくないのかもしれないし、自分ではまだいけると思っているのかもしれないけど、そういうのも結局迷惑をかけることになるんだから、誰かに頼ることも覚えなきゃダメだよ」
「そうですね。すみません」
「それに、この辺にいた魔獣はほとんど退治できたんじゃないかな。ここまでやればほぼ完了だよ。お疲れ様」
そう言いながらダニエルさんは担いでいた自分の背負い袋と黒紋虎の双子を地面に下ろしました。
「あ、肩を貸していただければ、私はまだ自分で歩けます」
私を運んでもらう約束はしていましたが、完全に動けなくなっているわけでもないので、それをダニエルさんに伝えました。
私と子虎たちを一緒に担ぐなんてとても重労働ですから。
「そう? でも、その前にやることがあるから待っていて」
ダニエルさんは背負い袋に手を突っ込んで何かを探しています。手元を見ていると取り出したのは私たちも渡されていた救援弾の魔道具でした。
すぐにそれを空に向けて発射させたのですが、ダニエルさんの使用したそれは、空で広がった色が赤くはありませんでした。なぜか緑色をしています。
「これで、後始末をしながら救援が来るから、イリーはもうここで休んでいていいよ」
「おい、なんであれは緑なんだよ!?」
いつの間にかオルガさんが近くまで来ていて、すたっと私たちの目の前に飛び降りてきました。彼は木の枝を上手に使って飛び回っていましたから、山の中での機動力はすごいのではないでしょうか。
「今回、団の先輩たちには僕だけが救援の合図を送れるようになってたんだよ。追いつめられてからの行動も観察対象だったからね」
「全部が全部、研修の一環だったってことか? リーダーを任されたのに俺は何もできなかった……」
オルガさんはその場に膝をつきました。事実を聞いて、彼も力が抜けてしまったのかもしれませんね。
「そんなことないけどね。オルガも十分挽回できてたよ。そうそう、今日あったことは絶対に他では口にしないで。他のチームや来年以降の新人の耳に入ったら、研修の甲斐がなくなる。それは困るからね」
「ああ、わかっている」
「私も誰にも言いません」
どうやら、これで私たちの隠されていた研修は終わりを告げたようです。
ジルさんとメルンローゼ様は大丈夫でしょうか?
きっとあちらがメインでしょうから、大変だと思います。メルンローゼ様、巻き込まれちゃいましたね……。




