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私が憧れの職場に入れたのは、賢者のお祖父様のごり押しでした  作者: うる浬 るに
私の能力が試されているのは、賢者の孫馬鹿のせいらしい
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21 戦闘を開始します

残酷な描写があります。お気をつけください。

 私が結界を解いて新たな結界を出現させたことで、目の前の魔獣は結界内に閉じ込めることができたのですが、そのせいで、後方と左右は無防備になってしまいました。


 私が自分の魔法にかかりきりになってしまうため、結界外の魔獣はすべてオルガさんに討伐を任せることになるので、少しでも早く私の作業を終わらせなければいけません。


 私が張る結界は、ほぼ長方形です。

 この場にいる中で、一番大きい体格の魔獣の体高に合せて、ギリギリその身体が入るくらいの高さにして結界を張りました。そして、できる限り広範囲で魔獣を隔離。

 流石にここまでの広さは経験がありません。体力が削られていく感じがして、気を引き締めていないと力が入らない。魔力が大量に抜けていくのも感覚で伝わってきました……急がなきゃ。

 でも焦りは禁物。私は落ち着くために深呼吸をしました。


「いきますよ!」


 私は、たぶんこれまでで一番緊張しています。絶対に不発で終わらせるわけにはいかず、それでいて速さも求められているのです。

 一気に魔法陣を描き上げてから、私は杖を持ったその右手を上からから振り下ろしました。


 その瞬間。

 ぐしゃっというなんとも言えない音と共に、目の前の結界の高さが地面すれすれまでに縮小して、結界内の空間がほぼないくらいに圧縮しました。


「うっ」


 一瞬くらっとしたので、私は両足に力を入れ踏ん張ります。

 それでも、眼前をしっかりと直視して、不備がないことを確認しないといけません。


「よし!」


 結界の体積が小さくなったことで、その中にいた魔獣たちは押しつぶされて、跡形もなくなりました。


「皆さん、避難してください」

「わかった!」


 言うや否や、周辺の警戒をしていたオルガさんが私の腕を掴んで引っ張ります。

 そして、近くにある、黒紋虎の双子を狙った銀狼を始末するときにダニエルさんが掘った穴へ、皆で飛び込みました。


 三人と二頭が入るにはちょっと狭かったので、その穴の中でできるだけ身体を小さくしてしゃがみ込み、今度はその穴を塞ぐように防御壁で覆います。


「間に合ったね」

「はい」


 なぜそんなことをしているかと言うと、魔獣を討伐するために作った結界は、そこに生えている樹木を避けることが出来ません。ですから、その根元だけが結界内に入っているんです。

 結界からつき出ている先端の部分は、結界を圧縮した際に、根元の幹の部分だけが消え、なくなってしまったせいで、残った部分が上からその場に倒れて来るのです。

 正確に言えば、倒れてくるというより落ちてくるが正しいでしょうか。


 そんなものに当たるだけでも危険ですし、下敷きになったら、今度は私たちが押しつぶされる可能性も十分あります。

 ですから、こうやって穴に入って、それを回避しているのです。


 大木が地面に激突するたび、穴の中も大きく揺れます。激しい揺れと音に黒紋虎の双子が怯えているので、一頭をダニエルさんに任せて、もう一頭を私の太ももとお腹の部分に挟んで抱き抱えました。




「静かになった?」

「もういいんじゃないの?」

「でしたら防御壁を消しますね。魔獣には気を付けてください」


 それほど時間もかからずに木々がすべて倒れて、周辺が静かになったので、魔獣の存在を警戒しながら私たちは穴からはい出ることにしました。


 近くに生き残っていた魔獣もいたので、それはオルガさんが足にロープを巻き付け自由を奪ったところで私が小さい結界を張って圧縮します。時間がもったいないので出し惜しみしていられませんからね。


 今回、かなり広い範囲に結界を張ったので、この辺りの高い樹木はすべて倒れてしまいました。ですから、鬱蒼としていた山の中に、太陽の光が降りそそぐ、明るい空間がぽっかりと出来上がっています。


「それにしてもすごいな」

「うわー、悪い夢を見そうだよ」

「すみません……」


 地面が赤く染まっているその惨状は、ダニエルさんが言うようにとても酷いものです。


 圧縮のせいで原型をとどめていない魔物、その上に大木の下敷きになった魔物たちが散乱していて、これ、視覚と嗅覚にかなり訴えかけるものがあります。


 サメア様には絶対に見せたくない光景ですね。メルンローゼ様もこの場にいなくてよかったと思います。自分で攻撃魔法を使わない人たちは、たぶんこんな状況には慣れていないでしょうから。


 見た目だけでもげんなりしているところ、困ったことに、圧縮魔法を掛けるのは相当量の魔力が必要なので、さっきも少しふらつきましたし、私はいつ魔力切れで倒れるかわかりません。だから、この魔法は気軽には使用できないんです。


 今回は、ダニエルさんが大怪我のふりをしていただけだったからよかったものの、本当に重症だったとしたら、この魔法を使用することで、オルガさんはダニエルさんと私を一緒に運ぶことになったんですよね。


 今は、万が一のことがあっても、ダニエルさんが私の面倒をみてくれるそうなので、生き残った魔獣の討伐に力を尽くせますが……。


 それにしても、この匂い……。

 鼻が利く魔獣はもちろんのこと、これほど血の匂いが濃ければ、再び数多くの魔獣に取り囲まれてしまうと思うんです。


 一度に多くの討伐ができたとしても あとのことを考えるとやっぱり使いどころがかなり難しい魔法なんだと思います。


「急いで残りを片付けるぞ。これだけバラけていれば、一頭ずつ狩っていけそうだ。イリーもさっきの調子でやってくれ。それからダニエル。お前はいつでもイリーを回収できるように側についていてほしい」

「了解ー」

「私は見える範囲を確実に潰していきますね」

「ああ、頼んだぞ」


 そう言ってダニエルさんはロープと鎖を伸ばしながら、近い場所から戦闘を開始しました。


 私は逆に、自分たちからより遠くにいる魔物、逃げ出そうとしている魔物を狙います。それでも、この場からすでに逃げ出しているものもいると思うんですよね。


 これ、私の場合は、ちまちま一頭づつ狩るよりもより広範囲を攻めた方がいいかもしれません。

 本当に魔力切れになるまで、広く浅く、結界、圧縮、結界、圧縮を繰り返した方がいいのではないでしょうか?


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