13 魔獣の群
元来た道を急いで戻っていた私たちは、ある場所から先へ進むことができなくなっていました。それは狩られた魔獣がそのままの状態で散乱していた付近です。
ここを通りかかった時に懸念していたことが本当に起こっていて、肉食獣が集まっているようです。帰り道を進むことで、遭遇するその数がどんどん増えていました。
初めのうちは一頭、二頭に出会う程度だったのでオルガさんとジルさんが討伐したあと、ダニエルさんが作った穴に放り込んで埋めていましたが、さすがに数が多くなってきたので、後処理をしている余裕がありません。
現在は魔獣と出会う確率がとても高くなってしまって、神経を集中していなくてはならない状況になっています。
「この先はもっと酷いだろうから、大回りになったとしても危険は避けた方がいいだろうな」
「イリー、念のため後方には防御壁を出しておいてくれ」
「はい、オルガさん」
今の私には皆さんを守るすべとして、後方に防御用の壁を一枚作ることしかできません。
それは、私の真後ろ、五十センチほどあけた距離に透明な一枚の板がある状態です。大きさは送る魔力によって変更可能で、私の動きに合わせてずっとその距離で盾のようになってついてきます。
安全面を優先して、全方向を覆うために結界魔法を使った方が良いように思われますが、結界はその場に固定されてしまうで、その範囲内しか動くことができなくなります。
「うっ」
「大丈夫? イリー」
私の声で、ダニエルさんが振り向きました。
「ごめんなさい。すぐやり直します」
狭い場所を進もうとすると、防御壁が枝や幹にぶつかるたびに足止めされてしまいます。止まらずに進める何かいい方法がないでしょうか。ずっと考えはいるのですがなかなかいい案が浮かびません。
これはお祖父様としか魔獣狩りをしてこなかったことの弊害ですね。お祖父様と一緒なら、相手が群れだったとしても出会ってすぐに消し炭にして終了です。
だから、迂回したり逃げ回ったりする必要がなかったので、今みたいに木々の狭い空間をすり抜けて歩くことはありませんでした。
自分で思っていたよりも私には経験が足りなかったようです。
「これって、イリーも歩くのが大変だから、感知魔法みたいのが使えるといいんだけどね。何かないかいい方法がないか考えてるんだけどイリーはあとどんな魔法が使えるの?」
ダニエルさんが私を心配をして、隣に来て小さな声で話しかけてきました。他の方法を探してくれているみたいですね。ちなみに、さっきオルガさんが使っていた網は、いざっていうときに攻撃のタイミングが遅れるといけないので、今は出していません。
「防御壁と結界魔法以外で特殊なものでしたら、目隠し用のスモークと硬質化でしょうか」
私はダニエルさんの質問に、皆さんに遅れないように早足で歩きながら返事をしました。
「硬質化って何?」
「例えば布とか柔らかい素材のものに魔法を掛けると、魔力を送っている間は固くなるんです。あと、それを魔獣の身体にかけると一瞬だけ動きが鈍ります」
「動きを止められるなんてすごいね」
「自ら動くものについては一瞬です。魔法がすぐ解けてしまって、ずっと抑えていることはできませんから」
「そうなんだ。でも、それってローブとかの強化には使えそうだね」
「それが、服の場合は動きにくくなってしまうので、今みたいな状況では逆に危ないと思いますよ」
「安全面で言ったら。やっぱりその防御壁が一番確実なんだね……」
結局、いきなり後ろから飛びつかれるよりはましなので、私はそのまま歩き続けることになりました。
メルンローゼ様の道案内のもと、行く手にいる魔獣を倒しながら私たちは進んでいたのですが、オルガさんとジルさんが再び足を止めます。
何があったのか聞こうとすると、ジル様が『しっ』と口に人差し指を当て皆にジェスチャー。
「銀狼と黒紋虎がいるのよ」
その後、すごく小さな声でメルンローゼ様がそっと教えてくれました。
どちらも狡猾な肉食獣です。
魔獣の中でも頂点に君臨するほどの強敵で、動きが早くて、まず魔法を当てること自体が困難な上に、通常攻撃では一、二発当たったところでびくともしないそうです。
このメンバーではジルさんが得意な炎魔法を全力で使用するしか手だてがないように思います。オルガさんの攻撃も急所を狙えれば有効だとは思いますが、瞬殺とはいかないので、凶暴な魔物を数頭相手にするとなるとかなり厳しいのではないでしょうか。
オルガさんが逆側へ逃げるとジェスチャーで伝えてきました。
確かに、銀狼と黒紋虎がにらみ合っているうちに逃げるのが最善ですよね。




