12 私って
「それにしても、本当に山の中で騎士団に会うとは思わなかったな」
「指導官が魔獣と間違えて攻撃しないように気を付けろと言っていたよね」
どんな時でも、相手を確認せずに攻撃魔法を撃つなんて絶対にありません。とは言い難いのです。
人がパニックになると冷静時ではあり得ない行動に出てしまうことがあるからです。
攻撃魔法の乱発の事故は年に十数件も発生しているとルーシーさんから聞いていますし、マグニーズ副部長からは、魔法は自分たちを守るものであると同時に、人の命を脅かす凶器でもあることを、忘れてはいけないと言われています。
「たぶん、魔法師団や騎士団の団員が普段より多くブネーゼ魔山に入っているんだと思うよ」
「いつもよりもですか?」
「先輩に聞いたんだけど、新人に何かあった時、すぐに救出に向かえるように山の中に散らばって待機しているんだって。だから心配するなって、あっ」
「どうした、ダニエル?」
「そのこと、他の人に言ったら緊張感がなくなるからダメだって口止めされていたの忘れてたよ。僕があまりにも怖がりすぎたから、仕方なくこっそり教えてくれたんだ。だから、今のは聞かなかったことにしておいて」
「それは大丈夫だ。俺は初めから誰かを頼ろうとは思ってないからな」
「私もだ。助けがいるからと気を抜くつもりはない」
「私は知っていたわ」
「えっと、はい。聞かなかったことにします」
私たちは一応戦闘特化の新人たちを多く集めたとはいえ、ほぼ素人のチームです。普通は経験を積んだ先輩たちと一緒に行動していろいろと学んでいくんだと思いますが、今回はそれがなくて、いきなりポーンと新人だけでブネーゼ魔山に放り込まれています。
実は危険がないようにちゃんと近くで監視してくださっているんですね。
それなら、別のチームでブネーゼ魔山に入っているサメア様のことも安心できます。
本当によかったと思っていましたが、その気持ちは数十分後に打ち砕かれました。
「ひどいな、これは……」
「狐を追うことを優先したんだよね。きっと」
「ここにいては危険すぎる。早く移動した方がいいのではないか?」
ジルさんがそう言うのも無理はありません。私たちがたどり着いたその場所には小物の魔物が数えきれないほど転がっていたのですから。
たぶん、騎士団がこの辺りで戦ったんだと思いますが、血の匂いに誘われて、凶暴な肉食魔獣が寄ってきても困りますから、さっさとこの場所から離れた方が賢明だと思います。
「より慎重に行くぞ。念のため、メルンは気配を消していろ。ダニエルとイリーも魔法の準備をしておけよ」
「ええ」
「わかりました」
「僕も? 落とし穴ってこと?」
「ああ、魔獣を見つけたら、足元を狙ってくれ。頼んだぞ」
「うん。わかったよ」
急ぎ足で戦闘のあったその場から離れましたが、今度は爆発音が聞こえてきました。
その音は近くではありませんが、私たちが気がついたので遠いわけでもありません。
どこかで魔法師団の方たちも魔物の討伐でもしているのでしょうか?
新人を守るために山の中にいるとしても、魔獣と遭遇したら戦うのは仕方ありませんが、そのあと、魔物を放置されてしまうと、私たちにとっては危険度が増すんですけど。
「どうする? このままカラーボールを探し続けるか?」
「え? なんで? 先輩たちが魔物を排除してくれているなら、この辺は安全じゃないの?」
ダニエルさんがキョトンとしています。
「魔獣が集まってくる恐れがあるからだが……確かに一理あるな。ダニエルが言うように、血に引き寄せされる魔獣自体がもうそれほどいないかもしれない」
なるほど。
すでに危険な魔獣がいなくなっているとなれば、私たちはカラーボール探しに専念すればいいだけです。そう思えば、ここまで来ておいて、引き返すこともありませんよね。
「よし、じゃあ、とりあえず泉までは進めるだけ進んでみるってことでいいか」
皆が頷いたので、オルガさんはジルさんに先頭を任せて、先に行くように指示しました。オルガさん自体は殿を務めるようで、私が彼の前を通り過ぎてから歩き始めました。
「すごいですね」
「これか? 本当は魔力を温存しておきたいんだが、念のためだ。イリーと違って防御力はないけどな」
一番後ろを歩くオルガさんはロープを二本後方に伸ばし、その間に網を広げていました。万が一魔獣が後ろから飛びついてきてもそこに引っかかるようです。
強度はそれほどないので不意を突かれないためにそうしているそうです。この辺に魔獣がいないかもしれない、というのはあくまでも希望的観測ですので、気を付けるに越したことはないありませんからね。
ちなみに、今までは私が一番うしろを歩いていて、背中に自分サイズの防御壁を出しっぱなしで歩いていました。でも、狭い場所だと、木や枝にぶつかってしまうため、前に進めなくなるので、出したり消したりしなければいけなくて、皆さんから遅れてしまうこともありました。だから、オルガさんがそんな工夫をしてくださったんだと思います。
もともとは犯人を捕まえる方法として編み出したそうですよ。すごいですね。
「ちょっと待って」
歩き始めてからすぐに、突然、メルンローゼ様が前を歩いていたジルさんを止めました。
「何かおかしいわ」
「どういうことだ?」
「あれだけいた鳥がいないのよ」
そう言われれば、鳥のさえずりが全く聞こえません。知らないうちにすべてどこかへ行ってしまったのでしょうか。
「さっき、騎士団が通った時に逃げていっただけだろう?」
「あれだけで、この辺一帯の鳥類がすべていなくなるなんておかしいわ。気を付けた方がいいわよ」
「メルンは戻った方がいいと思うのか?」
「ええ、そうね」
「一番ブネーゼ魔山に詳しいメルンがそう言っているなら、今日は塔まで戻った方がいいだろうな」
山の異常にメルンローゼ様が気が付いたので私たちは折り返すことにしました。
今頃気が付いたんですが、私だけがこのチームで何の役にたっていません。
チームの能力が偏らないように編成されていて、強い人と戦闘能力が低い人が組まれるとムームがいっていましたけど、どう考えても、私ってこのチームにいなくてもいいような気が……。
最初の頃、ダニエルさんが何故このチームに自分がいるのかって言ってましたが、それは私のことでは?




