09 入山口に到着しました
ブネーゼ魔山の周囲は町の方を高さ数メートルの石の壁でぐるっと囲っているそうです。
私たちがこれから入ろうとしている入山口には、魔獣監視用として塔が建っていました。これも石造りです。
ここには魔法師団や騎士団の職員が駐在しているそうです。中は雑魚寝なら二十人程度は宿泊が可能だそうで、何かあったらまずは塔を目指せと言われました。
そして私たちがブネーゼ魔山に足を踏み入れるために、そこにあった木製の頑丈な扉を通り抜けることになります。そのために閂を外さなければいけないのですが、横幅が四メートルほどあり、そこそこ大きいので大変です。
この石造りの壁には所々に人ひとり通り抜けられるサイズの鉄製の扉があるそうなので、緊急時はそこからブネーゼ魔山の外側、町の方に脱出することもできますが、間違って一緒に魔獣が町側に侵入しないように細心の注意を払って使用しなければいけません。
大きな扉の横にもそれはありますが、今回は私達のために、大きい扉の方を開けてくださるようです。
準備ができるまで、邪魔にならないように、少し離れたところで私が壁を見上げていると、ダニエルさんが横に来て並びました。
「この壁の修復も僕たち建設部の仕事なんだよね。だからブネーゼ魔山がどんなところか知っておくために今回参加しているんだけど、僕が魔獣と戦うのはちょっと力不足だと思う。同じ建設部の仲間も大変だろうな。本当になんで新人演習会に出るようなエリートたちのチームに僕なんかがはいっちゃったんだろう……」
「ダニエルさんは魔獣の討伐はされたことはないんですか?」
「ブネーゼ魔山ほどではないけど、僕が暮らしていた町も魔獣が住む山に近かったから、大人たちと狩りにはいってたんだけどね」
「私もブネーゼ魔山に入るのは初めてですけど、頼もしい皆さんと一緒だから安心してますよ」
ジルさんの魔法が凄いことは知ってますし、オルガさんが肩にかけている何本かのロープの先には金属製の鋭利な武器がついているので、なんとなく彼の戦闘方法もわかりました。
「そうだね。能力が偏らないように職員はバランスを考えてチームを作るっていってたからしかたないか」
「ダニエルさんの魔法だってすごいと思いますよ。実際に見てませんから想像しかできませんけど、突然穴が開いて足場が崩壊したら魔獣だって攻撃できませんよね。私も防御特化ですから、攻撃は得意な方にお任せしたらいいと思っています」
「そうだね」
話をしているうちに職員の人たちが入り口を開けてくれました。この方たちは警備部の白いローブを身につけていますので、オルガさんの先輩にあたりますね。
「赤縞か……おまえたち気をつけろよ。なにかあったら魔道具を使え」
「ひとつづ匂い袋も持ったか?」
「はい。大丈夫です。ありがとうござます」
皆で挨拶をしてから私たちは歩きだしました。
「気を引き締めていくぞ」
オルガさんのあとにみんなが続いて、最後にダニエルさんが入口から山側に入ると、うしろで木製の扉はばたんと閉まりました。
これから私たちは、メルンローゼ様に案内してもらいながら目的の岩場を目指します。
あまり多くを話されませんけど、やっばりメルンローゼ様はブネーゼ魔山に詳しいのではないでしょうか。
指導官から受け取った北側の地図はわかりやすいものではありましたけど、それでもたった一晩で三ヶ所も予測されているのですから、始めからその場所をご存知だったのではないかと、勝手に想像しています。
入山口の近くは魔獣が少ないそうです。
塔の上から発見されれば、団員たちが退治しますから、魔獣たちもこの辺が危険だということを学んでいるので、近づかないそうです。
それでも私達は山の中を耳をすましながら静かに進みました。
魔獣の気配を感じ取ることが誰にでもできればいいのですが、それは諜報部の一部の方しか難しい話なので、私たち素人は目と耳から入る情報を大事にしなければいけないのです。
魔獣が嫌う匂い袋を入山口で渡されていますから大丈夫だとは思います。それに、万が一、突然襲われたとしても、私たちが羽織っている魔法師団のローブとブーツは、たとえ狼でも噛み切れない素材でできているので、近くにとどめを刺すことができる仲間がいれば何とかなるそうです。
それでも絶対ではないので慎重に進むことは鉄則ですね。
黙々と歩き続けてから、三時間ほどたったでしょうか。先頭を歩いていたオルガさんの足が止まりました。
「聞こえたか?」
「ああ、あの声はヤギの類だな」
「で、どうする」
「大物でなければ、オルガとの連携を試してみたいのだが。どうだ?」
「帰りのことを考えたら、ここで血を流すことは賛成できないわ」
「それなら大丈夫だ」
「私は皆さんに危険ないようにいつでも防御できるようにしておきます」
「僕も」
目的地の岩場に近づいているので、きっと、この近辺に生息しているヤギの魔獣なのでしょう。
ヤギとは言え魔獣はすべて害獣です。安全に駆除できるのであれば、見逃すことはありません。
「よし、用意はできた。行くぞ」
オルガさんは肩にかけていたロープを手に持ち替え、ジルさんに合図をしました。私たちは、今まで以上に周囲を警戒しなければなりません。
ブネーゼ魔山にいる以上一頭の魔物だけに集中しているわけにはいかないのですから。




