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私が憧れの職場に入れたのは、賢者のお祖父様のごり押しでした  作者: うる浬 るに
私の能力が試されているのは、賢者の孫馬鹿のせいらしい
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07 皆さんの能力

 私たちが話し合っているうちに、衛生部の方たちも夕飯の準備が終わったようです。手が空いたものから、順次、取りに来るようにと職員の方が連絡して回っています。


「このまま食べながら続けて打合せをしてもいいか?」

「そうだな」

「まだ決めなきゃいけないこともあるしね」


 男子の意見が一致して、どうやらこのまま食事を取るようです。


 私たち赤縞チームは時間が惜しいということで、早速明日からブネーゼ魔山へ向かうことになりました。

 行きは職員が馬車でこちらが指定した入山場所まで送ってくれるそうなので、どこから動き始めるかなど、明日の予定を決める必要があります。


 サメア様に申し訳ないと思っていましたが、ほとんどのチームが、同じように話し合いをしながら食べるようなので、これからは、本当に夜コテージに戻った時しか、サメア様やムームたちには会えないかもしれません。


 サメア様とメルンローゼ様のことを心配していましたが、これなら山中で偶然会わない限りは顔を合わせることはなさそうですね。


 本日の食事はポトフ風の野菜がたくさん入ったスープとパンが二つ。あと、お肉のかたまりを、ローストしたものが薄く切り分けてあり、それをひとりひと皿づつ貰ってきました。

 お肉には、好みのソースを掛けていただきます。私は甘辛いソースを選びました。


 問題は食事をする場所です。

 林の中に、丸太を切っただけの台っぽいもと椅子っぽいものがあるので、それを使うようです。


 ちゃんとしたテーブルや椅子を使いたければ、コテージに行かなければありません。男女混合のチームなので、食事時だけ五人でどこかのコテージを借りるのも大変そうです。

 人によっては自分のコテージから丸椅子を運んできていました。テーブルまで運び出している人もいますけど……。


 意外にもメルンローゼ様は文句も言わずに丸太に座って食事をしています。

 公爵令嬢のメルンローゼ様の椅子だけは、私が自分のところから持ってこようと思っていたので、少し拍子抜けしました。



「まずは、個々に何ができるか、把握する必要があると思う。ちなみに俺の能力は風系の亜流で、手に持っている物を自在に操ることができるというものだ」


 オルガさんは、言ってもわからないだろうからと、左手でリボンの先を握りました。そして右手の人差し指で魔法陣を描くと、リボンの先がむくっと起き上がり、くねくねと動き始めたではありませんか。


「普段の得物はロープや鎖を使っているが、どんな物質でも手から離さない間は、こうやって動かすことが可能だ。形状を変えることができる柔らかいもの限定だがな」


 私は生き物のように動いているリボンから目が離せませんでした。こんな魔法もあるんですね。

 初めて見ましたけど、オルガさんが警備部なのは納得しました。この魔法は犯人を拘束するのにすごく都合がいいですよね。

 みんなが驚いていると次に口を開いたのはジルさんでした。


「私が得意としている魔法は炎系だ。山の中だから、火を使う魔法は延焼の恐れがあるので全力を出すわけにはいかないが、魔獣を倒すだけなら熱波を使うから問題ない」


 ジルさんも指で魔法陣を描いていきます。描き終わってから、指先をはじくと、近くにあった木に見えない何かが当たって枝が落ちました。


「もっと魔力を込めれば、熊くらいなら簡単に吹き飛ばせるぞ」

「へえ、二人ともすごいね」


 ダニエルさんが感心していますが、私だって驚いています。

 こういう人たちこそが、カンナさんの言う『選ばれし者』なのではないでしょうか。


「僕は落とし穴を掘るくらいしかできないんだよね。それも、たいした大きさじゃないし。このメンバーになんで入ってるのか不思議でたまらないよ」


 ダニエルさんは建設部なので、地面に穴をあける能力は、いろいろなところで重宝されると思います。魔獣相手だと、落とし穴以外は、足を引っ掻けるとかでしょうか?


「君は諜報部だっけ。やっぱりすごい魔法が使えるんでしょ?」


 ダニエルさんが黙々と食事をしていたメルンローゼ様に話しかけました。


「私が特化しているのは気配を消すことだけよ。あとは方向感覚が人より優れているくらいかしら。地図さえ見ておけば、ブネーゼ魔山に入っても自分の位置を正確に把握できるわ」


 メルンローゼ様のそれは、魔法とは関係ありませんが、ぜったいに道に迷わないという能力なのでしょう。そんな才能もお持ちだったんですね。すごいです。


「イリーだっけ? お前は結界を使っていたよな?」

「はい。そうですが、よくご存じで」


 オルガさんとは初対面だと思うんですけど、どこかでお会いしていたのでしょうか?


「新人演習会にジルと一緒に出ていただろう。メルンも諜報部の演目でいたよな」


 メルンローゼ様はオルガさんにちらっと目をやっただけで、再び食事を開始しました。


「ああ、それでですか。私は防御魔法特化なので、壁を作って攻撃を防ぐことが可能です。それが物理的でも魔法の攻撃でも問題ありません。オルガさんが言うように狭い範囲なら、全方向結界も張ることもできます」


「このメンバーなら、ブネーゼ魔山でも心配なさそうだな」

「まずはこの第一ヒントの『北』側に向かえばいいってことかな? 僕たちのチームカラーのボールはそっち側にあるんだよね、きっと」

「てきとうに置いてあるわけではないと思うのだ。だからメルンは地図を見て、北側で職員が置きそう場所のあたりをつけてくれないか」

「間違っていてもしらないわよ」

「今は『北』しか情報がないんだから、見つかる方が奇跡だろ。期待はしないが、おまえの能力はあてにさせてもらうつもりだ」


 私は皆の話を感心しながら聞いていました。これなら、もめることもなく、チームリーダーのオルガさんの元、課題をこなすことができるのではないでしょうか。


「あなた……」

「はい」


 突然私に、メルンローゼ様が話しかけてきました。


「ブネーゼ魔山に入ったら、そんなにゆっくり食事をしている余裕なんてないわよ」

「え?」


 皆さんの話に夢中になっていた私はまだ、スープとパンが少しづつ残っていました。他の四人はすでに完食しています。


「教えていただいて、ありがとうございます。これからは気をつけます」

「もしかして、メルンはブネーゼ魔山に詳しいのか?」

「詳しいというわけでは……」


 確かに、いつ魔獣が現れるかわからない山の中で、ゆっくり食事なんてできません。

 私が魔獣狩りをする時には、いつもお祖父様が一緒だったし、魔法で防衛しているので、魔獣がいる山の中でも緊張感にかけて、のんびりしていたかもしれません。

 そのことにメルン様が気づかせてくれました。

 公爵家の領地もこの隣だったはず、彼女にとってもブネーゼ魔山は身近な存在だったのでしょうね。


 今後はみんなと足並みがそろうように気を引き締めて頑張ろうと思います。


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