05 同室のカンナさん
私たちは荷物を置くために割り当てられたコテージに移動しました。
大型棟の集合施設になっている建物は、樹木がたくさん生えている林の中にあります。新人以外の指導員はここに泊まるそうです。私たちの宿泊場所は、その周辺に点在していて、そのコテージの壁は、地面から一メートルほど煉瓦が積み上げられおり、上の部分だけがが木造でした。
頑丈な造りなのは、この辺で魔獣に追われた時の避難場所にもなっているからだそうです。
「Aー7。ここですね」
「入ろうか」
入口の鍵は開いていたので、ムームが真っ先に中へ入って行きました。
ドアを開けてすぐに、テーブルと丸椅子がある談話室があって、左右に四つの扉がついています。
ここは宿泊するだけの建物のようで、トイレや水場は集合施設まで行かなければなりません。少し面倒くさいですね。
私たちのあとから、続々と他の方もやって来たので、ここで一緒に過ごすことも考え、軽く自己紹介をすることになりました。
「あたしは魔防部のムーム。地元だから、何かわからないことや、困ったことがあったら気軽に相談して。よろしく」
ムームに続いて、サメア様と私が所属部署と名前だけの簡単な挨拶をしました。
「あ、あの、わ、わたし……」
私の横に並んでた女の子に皆の視線が向くと、すごく緊張しているみたいで、泣きそうな顔になってしまいました。
ムームやサメア様の良くない噂話でも聞いているのでしょうか?
「そんなに畏まらなくても大丈夫だよ。同じコテージを使う以上、顔くらいは知っておいたほうがいいと思っただけだからね。別に、あたしたちに関わる必要もないし、気にすることないから、ここでは伸び伸び気軽に過ごしてよ」
「あ、はい。すみません」
そんな感じで七人目までが終わりました。
「教育部のカンナです。よろしくお願いします」
この人が同じ部屋のひと……。
見た目は眼鏡を掛けているからか、先生っぽいです。教育部だから先入観でそう思ってしまうのかもしれませんが。
でも、寮で見掛けた記憶がありません。部屋以外まったく使わない人でしょうか。
部署によっては、すでに地方の現場に派遣されている人もいると聞いたので、もしかするとカンナさんもそうなのかもしれませんね。
「このコテージを使用する八人は、他人の迷惑にならない範囲なら好きに過ごすってことでいいかな? 研修に支障がでたらまずいから、あたしも部屋の中くらいはリラックスしたいしね」
「そうですね。何か問題が発生した場合だけ、改善できるように皆で話し合えばいいと思います」
ムームの言葉に最初に賛同したのはカンナさん。他の方たちも首を縦に振っているので、満場一致です。
特別な制限を設けないようですね。
だから、貴族だ、平民だとか、そういうことも無視するみたいです。誰からも身分についての話は出ませんでした。
「じゃあ、解散」
さっき緊張していた方は貴族の方なんでしょうか。すごくほっとした表情になって、個室に入っていきました。
他の人たちも概ねそんな感じなので、きっと、ムームとサメア様が一緒だって知って心配していたんでしょうね。
ムームはわりとはっきりものを言うタイプで、サメア様はお顔が少しきつめなので二人とも誤解されやすいんです。
せめて、ここに集まった人たちだけでも、この機会にそれが思い違いだと気が付いてくれたらいいんですけど。
「イリー、あとでね」
「はい。すぐに荷物を置いてきます」
「部屋で決めることもあると思うから、ゆっくりでいいよ」
「はい」
先にカンナさんが部屋に入っていて、彼女が入り口の壁のフックにぶら下がってる鍵を指さしました。
「それイリーさんのよ。私はもう取ったから」
そう言って自分の鍵を見せてくれました。
「ベッドなんだけど、イリーさんが上でもいい? 私、高いところあまり得意じゃないから」
個室は本当に狭いです。通路程度の空間に作り付けの二段ベッド。そこにはカーテンが付いていて、一応プライベートのスペースにはなっているみたいです。
「はい。私は上で大丈夫ですよ」
「よかった。あとなんか決めておくことってあったかしら?」
「これから、チーム分けをされて、その後はチームごと別々に行動するって聞いてますから、私の帰りが遅くなった時に、ご迷惑をお掛けしたらすみません」
ベッドに上る時に起こしてしまったら申し訳ないので、先に謝っておくことにしました。
「それは、気にしないで。お互い様だもの。私も深夜にトイレに行ったりするかもしれないしね。あ、そうだったわ。鍵はあるけど貴重品は置きっぱなしにしないでね。何かあった時に困るから」
「そうですね。わかりました」
もし、何かなくなってしまった時に、疑うのも疑われるのも嫌ですもんね。
「他には思いつかないけど、イリーさんは何かある? 私に聞いておきたいこととかでもいいわよ」
「あの……カンナさんて寮のお部屋は何号室ですか。たぶんお会いしたことありませんよね。食堂とかでも」
「ええ、言い忘れたけど、私新人じゃないのよ。だから、もう三年も前に寮から出ているわ。でも、この研修は初めてだけどね」
「やっぱりそうですか。記憶になかったので気になってしまって。でも、新人ではない方もいらっしゃるんですね」
「私の場合は仕事上なの。選ばれし者たちに直に触れ合って来いって先輩たちに言われて……」
選ばれし者?
「教育部って町で子どもたちに勉強を教えるんですよね」
「私はそっちの先生じゃないの。村とか僻地でくすぶっている才能がある若者を見つけ出すことが仕事なのよ。見込みがあれば声を掛けるの。筆記試験が受からないと話にならないから、まずはそのための勉強の面倒をみたり、その能力が生かせる部署に推薦をしたりするのよ」
「教育部ってそんなこともしているんですね。他の部署の仕事は知らないことが多くてすみません」
「それは誰でもそうよ。それでね、こっちから声を掛けて期待を持たせておいて、万が一王都で不採用になったら困るでしょう。だから、自分の目を磨いてきなさいって送り出されたのよ」
「それが、選ばれし者ですか? それって、ムームとかジルさんのことですか?」
他の部署にも優秀な方がたくさんいらっしゃるとは思いますけど、私が思いつくのはやはりその二人です。
「やだ、イリーさんもよ。というか、ここに来ている新人全員ね。だから、私がじっと見ていても気にしないでくれると有り難いわ」
「わかりました。それって、皆さんにも言っておいた方がいいんですか?」
「そうね。その方が変な誤解をされないわよね」
「だったら、知り合いには伝えておきます。あ、そうすると、カンナさんは知り合いがいないんじゃないですか、私たちでよければ、チーム分けされるまで一緒にどうですか」
「そうね。そう言ってもらえると嬉しいわ」
「では、外でムームたちと待ち合わせしているのでいきましょうか」
「ええ」
私たちは談話室でムームとサメア様と合流して、再び集合用の大型棟の建物へと足を運びました。
カンナさんを改めて二人に紹介すると、彼女の仕事は私たちとは接点がないし、特殊なのでムームから質問攻めにされていました。
カンナさんは仕事柄人にあわせることが上手なのか、サメア様とも自然に話をしています。私も、素敵な方と知り合いになれてよかったです。




