23 新人演習会 当日
待ちに待った、新人演習会。
私が与えられた席の付近は、他の部署の新人団員も多く、緊張感が伝わってきます。
新人演習会は日時が決められているだけで、式典のような催しではありません。自分に割り当てられた時間に課題をこなすだけ。ですが、休日だと言うのに観覧席が満席になるほど人が集まっています。
魔防部も時間があったら各自見学するようにと通達が出ているので、ここにいる私たちと団長、そして指導係の三人以外はきっとどこかで見ているのでしょう。
演習に参加する者とその補佐にはもともと前の方に席が用意されていたので、私たちは闘技場の広場が一望できるとてもいい場所にいます。
まずは警備部の演習から。
なぜか闘技場の広場に椅子が用意され、観覧席が作られました。そこへ連れてこられた人たちはみんな同じように首を傾げてます。なかには抵抗している人もいますが何をしているんでしょう。
「あれは自分の力に自信があるという団員への特別席なのよ。魔獣とはどんなものか、魔獣を討伐するということはどういうことなのか身に染みて覚えてもらおうっていう、ありがたい親心なんだけどね。なぜか、驕った者への罰だとか見せしめだとか言われているわ」
なぜかって……、そっちが本音ですよねルーシーさん?
警備部の団員もそろい、広場に魔獣が放たれました。
「群れ鼠?」
群れ鼠は二キロほどの小さい鼠なので一見弱い生き物に見えますが、多数で襲われたらあっという間に食い尽くされてしまいます。だから見た目で侮るととても危険な魔獣なんです。
広場には数えきれないほどの群れ鼠が広場を走り回っています。
「あんなにどうやって捕まえたんでしょうね」
「意外と簡単だよ。巣で眠らせて運んでくるだけだからね」
マグニーズ副部長が私の疑問に答えてくれました。
警備部の皆さんは、連携して群れ鼠を囲み、外側にいるものから順に狩っていきます。その包囲網をだんだんと小さくしていきながら全滅させるつもりの様です。
「あれ、わざとあそこに追い込んだんだよね?」
ムームが見ている先は、特別席の団員さんたちです。警備部の方たちは特別席の方向へ群れ鼠を追いやり、そこで騒いでいる方たちのことは無視しています。
「間近で見学できるように、あれは運営側からのサービスだ」
サービスって、あの人たち一体何をしたんでしょう?
「セクハラ男と同じようなもんじゃない」
あ、また読まれた。隣に座っているムームを見たら、にかっと笑われてしまいました。
ちなみにセクハラ男とはあの壁ドン男のことで、私の説明の仕方が悪かったのか、ムームたちの間ではそう呼ばれています。
群れ鼠から悲鳴を上げて逃げ回る特別席の団員さんたち。ちょこちょこ魔法を放っていますが、群れ鼠に背中を向けているので、倒すことなんてできません。
それに比べ着実に数を減らして片付けている警備部の方たちは、やはりすごいのだと思います。
数で押す魔物は大型獣に匹敵するほどの脅威を持っていますから、増やさないためにも一匹残らず殲滅する必要があるんです。
だからあえて大きな魔法を使わず確実な方法を取っているんですって。
これ、町の中で犯人を追いかける時も一緒で、人や建物を巻き込まずに捕まえるためには必要なことなんです。
次は諜報部の皆さんです。
諜報部の新人さんたちの相手は、殺人蜂という小型犬ほどの大きさで毒のある蜂です。この魔物は気配に敏感なので忍ぶことが必要な諜報部の皆さん向けに用意されたようです。
殺人蜂が逃げ出さないように結界が張られた闘技場で観覧席の人たちの目は蜂の姿を追っていますが、私の視線は蜂ではないところにありました。
闘技場の広場に集まっている十数人の中にメルンローゼ様を見つけたんです。
「メルンは諜報部だよ。子供の頃から『かくれんぼう』が得意だったんだ。もともと気配を消すのが上手かったから魔法も得意なそっちの分野を伸ばしたんだよね」
寮にいる時と真逆ですね。私が会った時は威厳みたいなものがあったんですけど。
威厳と言うより威圧でしたか。
「誰かから逃げていたんだろう」
「え?」
身に覚えのありそうなジル様が言うと、幼いメルンローゼ様が、本当にムームから逃げ隠れしているところが想像できちゃうじゃないですか。ジル様とムームを交互に見ても、ムームは反応しません。
ジル様がつぶやいた言葉は私にしか聞こえなかったみたいです。
諜報部の皆さんは魔法をつかって気配を消しているのか、観覧席から見ている私たちには殺人蜂の姿しか見えません。
いえ、実際に諜報部の皆さんが見えないわけではないのですが、すごく集中していないとすぐに姿を見逃してしまい、追うことができません。
私は始まった時からメルンローゼ様を目で追いかけていたのですが、すぐにわからなくなってしまいました。
そうやって私たちがキョロキョロしている間に、諜報部の方たちは魔法で殺人蜂の羽を打ち抜き、瞬く間に撃ち落としていきます。人によっては物理的に叩き落したりもしています。
殺人蜂がすべて退治されたところで諜報部の演習は終了しました。
諜報部の人たち、派手さはありませんが凄すぎです。
魔法陣って同種の魔法は割と近い形をしているので、同系列の魔法を集中的に練習した方が覚えやすいんです。魔法使いで特化型が多いのはそういう理由です。
かく言う私も防御魔法の特化型なので、攻撃魔法は初心者向けのものしか使えません。
次は私たち魔法防衛部の番です。私も頑張りたいと思います。




