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私が憧れの職場に入れたのは、賢者のお祖父様のごり押しでした  作者: うる浬 るに
私が憧れの職場に入れたのは、賢者のお祖父様のごり押しでした
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20 結界

 朝一でジル様にメモのお礼を言ったのですが『なんのことだ』とぼけられてしまいました。

 だけど、管理人さんに口止めし忘れたから知ってますよ。

 本当にありがとうございました。 


 今日は午後からマグニーズ副部長が会議に出掛けてしまったので私は事務所にいます。

 ほかの方も全員出払っていて、いま事務所には私ひとりきり。予習をするために魔防部が関係した魔獣討伐の記録書を机の上に広げていたところです。


 読み始めようとした時、事務所のドアを誰かがノックしました。 

 ドアを開けて入って来たのは事務服を着た年配の女性です。制服からして総務部の方でしょう。


「紙喰い虫の駆除を頼むよ」


 仕事の依頼ですね。


「今は私しかいませんから、あとでお伺いします」

「何言ってんだい。紙喰い虫は出てきたときに退治しなきゃまたどこかに隠れちまうんだよ。ほらあんたでいいから」


「え、でも」

「でもじゃないよ。便利屋のくせにまさか依頼を断る気かい?」

「そんなつもりはありませんけど……」


 魔防部の評判が落ちる……ルーシーさんの言葉が頭をよぎります。


 その女性に腕を掴まれ、抵抗もできずに地下にある資料室まで連れていかれたのは、あっという間のことでした。


「ここだよ」

「あの紙喰い虫ってどんな虫ですか」 

「みりゃ、わかるよ。あたしも忙しいんだ。あとは頼んだからね」

「あのー」


 引き留める間もなく、その女性はいなくなってしまいました。


「見ればわかるってことは結構大きいのかな」


 資料室は図書館のように棚が並んでいました。棚の間をぱっと見たところ、目につくところにはそれらしい影がありません。


「とにかく探そう。棚の隙間や、隅っこにいるかもしれないし」


 私は目を凝らし、部屋中の棚と床、壁を念入りに調べました。


「見つけた」


 資料室の中央にあった大きなテーブルの下に動くものを発見。たぶんあの黒い生物です。とりあえず結界で閉じ込めておいて、あとでマグニーズ副部長に話せばいいですよね。


 テーブルの下へ潜り込んで小さく結界の魔法陣を描こうとしたその時。


 バンっ


 力いっぱいドアを開ける音がしたのでビックっとしてしまいました。魔法陣が間違ってしまい魔法が不発。


「あれ、明かりがついてる」

「誰かが消し忘れたんじゃねえのか。そんなことより、本当にうちの課長は使えねえ。ああいうの、どこに訴えればいいんだ」

「おまえんとこはまだマシだろう。俺んとこなんて上が間違えた計算書ぜんぶ作り直しだぜ」

「うちも、いまは新人に手がかかるとか言っちゃってさ、仕事ほったらかしだよ。その新人もプライドばっか高くて言うこと聞かないやつばっかだしさ」


 なんか、テーブルの下から出ていきづらくなってしまいました。


 三人は資料を探すでもなく入口で話をしています。


 ここは愚痴り部屋なんですかね?


「そう言えばさあ、今年もコネ入団者が入ってて嫌になるな。みんな必死に試験勉強して頑張ったのにさ、ずるくねえ」

「そうそう、不正で合格してんのにさ、よく恥ずかしくもなく魔法師団にいられるよな」


 コネ入団!? 話が変わったせいで、私は絶体絶命の危機に陥ってしまいました。

 十中八九、そこにいる職員さんたちが噂している人物は私なのです。


「試験で優遇」「トップが不正」「魔法学校出ていない」やっぱり私、コネ入団だったみたい。


 そう言えばルーシーさんたちも私が魔防部に入ったのはお爺様のおかげだって言っていましたよね。


 あれほど言ったのにお爺様の大バカ。




 ここに私がいることがばれたらどうなるかわかりません。この前、男の人に絡まれてからというもの、私の悪口を言っている人には、何かされるんじゃないかと思って怖いんです。その恐怖で身体の震えが止まりません。


 テーブルの下で焦っていたため、気がついた時には紙喰い虫がカサカサと私のすぐそばまでやってきていました。


「うわっ」

「いまなんか聞こえなかったか」 


 思わず声が出たのを聞き取られてしまったみたいです。やばい。どうしよう。


「誰かいるのか? こっちだよな音がしたの」


 私に近づいてくる足音が聞こえます。この震えは見つかった時の恐怖でしょうか。それともすぐそこにいる紙喰い虫のせいでしょうか。

 どっちにしても怖いのは同じです。


 ああもう、仕方ありません。


 私は小さく結界の魔法陣を描きました。それは箱状で茶色。地面で小さくなっている私が、すっぽり入るほどの大きさで、一見では段ボール箱のように見えるはずです。


 この魔法、お爺様と遊びながら覚えたのですが習得しておいて助かりました。


「誰もいないな。勘違いだったんだろ」

「そうかもな」


 男たちはそう言いながら資料室から出ていきました。


 ほっとしたのも束の間、きっちり結界にはまっている私は、身体を動かすことができません。これでは解除するために腕がふれない。


 やっちゃいました。


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