19 イリー、介抱される
ソファーで横になってからしばらくたちました。ルーシーさんが誰かと話している声が聞こえます。
いまは音とか光とかがつらいし、自分でしゃべることも億劫だったので声をかけられませんでした。
ルーシーさんたちは私がここで寝ていることに気がつかず、会議室のドアを開けたまま話し始めてしまいました。
「わざわざ戻ってきてよかったぜ。今年は人数が少ないからどうかと思ったが、優秀なのがそろったようだな。あれだけ魔法が使えるならすぐにでもブネーゼ魔山に連れて帰りたいくらいだ。さすがは爺の孫ってところか」
ジル様のこと?
「イリーがうちの部にきたのも顧問のおかげだからね」
私? お爺様のおかげ? どういうこと? 何かを考えると頭がギュウっとします。
「あれ、俺のところに欲しいな」
「知っている人はみんな狙っているから、難しいわよ」
「おまえんとこは、山猿が入るだろうが」
「みんなそう言うけど、決まっているわけじゃないわ。ムームでもありがたいんだけどね」
「今年は三人だからな、どこかは我慢するしかねえ。俺のところじゃなきゃいいがな」
「うちの班もひとりは絶対確保するつもりよ。部長たちが頭を痛めていたけど、そんなこと構っていられないわ」
「そうだようなあ」
パタンッ
しばらくしてドアが閉じる音がしたので、これ以上盗み聞きすることがなくなってほっとしました。
それからずっとソファーにうずくまったままでいましたが、ムームが薬を買って来てくれたのでそのまま付き添ってもらい、寮に帰ることにしました。
部屋でベッドに横になっていると管理人さんがやってきて私の枕元にメモを置いていきました。
サメア様にそのメモを読んでもらうと、熱中症の処置について書かれていたようです。
ムームも部屋まで付き添ってくれましたが、あとはただ寝ているだけ。私の寝姿を見つめられていてもなんですし自分の部屋に帰ってもらうことにしました。
「用意してくるから、少し待っていてちょうだい」
「サ、サメア様にそんなことさせられません」
「イリーはわたくしが何もできないと思っているのかしら。そうだとしても具合が悪いときは素直に言うことを聞くものよ」
起き上がろうとした私の肩を押して寝かせた後、メモを持ったままサメア様は部屋を出て行ってしまいました。
しばらくして保冷剤と補給水を持ってサメア様が戻ってきたので、メモに書いてある通り身体を冷やしたり、補給水を飲んだりして安静にしていると、身体の火照りと頭の痛みが消え楽になりました。
薬も効いて夜になる前には身体が軽くなっていたので、夕食は普通に食べることができそうです。サメア様たちと食堂に向かう途中、管理人さんにメモのお礼を言いに行くことにしました。
「あのメモはジルからよ」
「ジル様?」
具合の悪くなった私のことをどこかで知ったのでしょうか。ジル様が熱中症のことを調べてくれたみたいです。
「今度会ったらお礼を言わなければ」
なんだかんだ言ってもジル様は優しい。
普段は冷めていますが、本当はとても面倒見がいい方だってこと、もう知っています。




