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私が憧れの職場に入れたのは、賢者のお祖父様のごり押しでした  作者: うる浬 るに
私が憧れの職場に入れたのは、賢者のお祖父様のごり押しでした
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18 新人演習会の練習

 なんとなくユアンの顔が見たくて、仕事帰りに家に帰ることにしました。

 ムームには伝えてあるので遅くなっても大丈夫です。


 先に両親に会って、今日までのことを話してから近所の工場(こうば)に向かいました。


「こんにちは。ユアンいますか?」

「ああ、イリーちゃんか。魔法師団はどうだね。――ユアンー、イリーちゃんが来たぞ」


 ユアンのお父さんは、町で魔道具を直す仕事をしています。

 工場の中には、いつも通り何やらわからない魔道具が散乱中。

 昔は魔法師団の魔道具部に所属していたので、小さな頃から話を聞かせてもらっていました。


「知らなかったことが多くて楽しいですよ。お仕事は少しづつ頑張ってます」

「そうかい、それは良かった」


 だだだっと言う音と共にユアンが二階から下りてきたと思ったら、

「イリー? もう帰ってきたのか? 何をしたんだ?」


 のっけから失礼なことを。


「何かするわけないでしょ。やっと慣れてきて余裕ができたから話に来ただけだよ」

「ふーん。それで?」



 実は事件のあと、ムームたちがすごく心配してくれて、それがなぜか壁ドンに話が集中しちゃったんです。

 サメア様が壁ドンを知らなかったので説明しているうちに「それは誰かに上書きしてもらうべきだよ」ってどんどん話がそれていきました。


「私のお兄様はいかがかしら?」とか

「騎士団にイケメンの知り合いがいるから呼んでくるよ」とか、みんながあまりにも盛り上がってしまったので、

「心当たりがありますから大丈夫です」

 なんて言っちゃったんですよね。もちろんそんなこと頼む訳にはいきませんが……。




「ユアンの顔見たら、なんか元気がでたよ」

「おう? それだけか?」

「今度は休みの日にゆっくりお邪魔するね。今日は遅くならないうちに寮に帰る」

「じゃあ、門のところまで送ってくわ」


 たわいもないない会話をしながら町を歩いて、私はユアンと別れました。


「あの事件のこと、思っていたより痛手だったのかな」


 よくわからないけど、ユアンに会いに来て良かったと思いました。



 休日がやって来たのですが、新人演習会に向けてジル様たちと打ち合わせをすることになりました。


 あの日、ユアンに会いにいってから不安感が薄れたので、今は大丈夫。

 それより新人演習会に集中しなくては。



 今日は実際に闘技場を借りて、お互い何ができるか確認しているところです。


 ありがたいことに、雲も風もない晴天で、練習するにはもってこいの陽気。


「イリーのそのキラキラしたの、太陽の角度で光り方が変わって面白いね。それって魔法を重ねているんだよね?」

「そうです。ルーシーさんが派手な方がいいって言っていたので、使えそうだと思ったんですが」

「実戦では役に立たないだろうが、今度の演習ではいいのではないか」

「私にも教えてよ」


「この本に魔法陣が載っています」

「へえー、見せて」

「…………」


 魔法少女の小説を差し出した私に呆れた目を向けるジル様。大丈夫です、もう慣れました。


 三人で話しているのは私が見せた視覚魔法のことです。光を飛ばしたり、いろいろな色彩の光をキラキラと降らせたりします。魔法少女が使っていた魔法なんですが、遊び以外で使うことが今までありませんでした。

 まさか演習で使うことができるなんて嬉しすぎます。


 この魔法、ちまたではわりと使える女の子が多いんです。魔法少女の小説には視覚魔法の魔法陣が載っていて、みんな必死になって練習をするので……。


 視覚魔法は高度なものも載っていますが、すべてをマスターすることは叶いませんでした。私はこれを機にもう一度練習しようかと目論んでいます。


「私も見栄えのいい魔法を選んでみた」


 ジル様は指を上に向けその位置で魔法陣を描きました。


「杖を使えば、これの数倍の大きさになる。しかし見た目ほど攻撃力はないから、演習の主旨とは合っていると思うが」


 ルーシーさんから、たくさんの人たちが見学に来るのであまり残酷なことはしないように言われています。


「それいいね。絶対目を引くよ。あたしは攻撃魔法にイリーからみせてもらった魔法陣で色をつけてみようと思うんだけど」


 ほいっとムームが放った魔法は青白く発光していました。小説に出てくる視覚魔法のひとつをすでに習得していたようです。


 この二人が魔防部に選ばれた理由がわかる気がします。


 それなら私が選ばれた理由は?


「イリーって防御が得意なんだよね。見せてもらってもいい? それっ」


 ムームがいきなり私にさっきと同じ魔法を向けます。


 急いで、魔法陣を描きそれを遮断。ムームの魔法は私の防御壁に当たり四方へ分かれて消えました。


「私も試していいか」


 ジル様まで魔法で攻撃してきました。そんなもの当たったらただじゃすまないじゃないですか。

 ポンポン放つジル様の魔法をすべて相殺して止めました。


「思っていたよりやるな。しかし、これではおまえだけ見せ場がないぞ。キラキラだったか、それをもっと派手にできないのか」

「考えてみます」


 それから、対戦相手が一頭の場合、数頭の場合、多数の場合、飛ぶもの、俊敏なもの、目で認識づらいものなど、対応策と攻撃方法を話し合い、その後は個々に練習を続けました。




「悪いが私は用事があるので、これで帰らせてもらう」

 個人練習を初めてから一時間ほどして、ジル様がそう言って帰っていきました。 


「イリー、私たちも終わりにしない?」

「ごめんなさい。ムームは先に帰ってください。もう少しでつかめそうなんです」

「だったら、あたしももう少し付き合うよ」


 それからも私は時間がたつのも忘れて、視覚魔法の習得にのめり込んでいきました。


 暑くて額に流れた汗を袖で拭ったその時、急に身体がクラっと前のめりに倒れかけました。すんでのところで持ちこたえたのですが、急に頭がガンガンしてきて、ただ立っているだけでも辛い状態です。


「イリー? 大丈夫?」


 ふらふらしていたので私の異変に気がついたムームが身体を支えてくれました。


「身体が熱いよ、医務局に行こう」


 ムームに肩を貸してもらいながら、魔法師団にある医務局へ行きました。休日は閉まっているそうですが、今日はたまたま出勤していた局員さんがいて診察してもらうことができました。


「これは軽い熱中症じゃな。水分を取って身体を冷やせば問題ない程度だが、どうするここで寝ていくかね。と言っても儂もこれからが用事があって帰ってしまうんじゃが。休日だからカギをかける者がおらん。どうするかのう」


 お爺さんと呼んでしまいそうな風貌の局員さんが顎に手をあてて考えだしました。これ以上迷惑をかけられません。


「ありがとうございます。私、寮がすぐそこなので帰って寝ます」

「そうかい、ではこれを」


 医務局の方が少しだけ味のついた飲み物を渡してくれました。


「頭の痛みは私では治せないのでな。薬局で鎮痛剤を買って飲んでおきなさい」

「じゃあ、あたしが薬を買ってくるよ。事務所で待てる?」

「はい。ごめんなさい。お願いします」


 私は飲み物を飲み干してからムームに連れられて魔防部の事務所まで戻りました。


「奥のソファーで寝てて。すぐ戻ってくるから」


 ムームは私がソファーに横になるのを確認してから飛び出していきました。

 申し訳ないと思いますが、気持ちが悪くていまは何も考えられません。


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