17 情報部 魔獣研究室
「ここが情報部……」
魔防部とは違い机にはたくさんの書類が積み上げられています。壁際に作られた棚にはファイルや物品が所狭しと並んでいました。
「ガドリーはいる?」
「あ、マグニーズさん。奥にいますよ。こちらへどうぞ」
優しそうなお姉さんが私たちを案内してくれました。
「室長、マグニーズさんがいらっしゃいました。入りますからね」
そう言ってお姉さんがドアを開けたその向こうには、中央に大きな机があって、その上に大きな生物の骨格標本が載っていました。
「今細かいところを組み立てているから、ちょっと待ってて」
「イリー、こっちのソファに座って」
マグニーズ副部長は勝手知ったる他人の部署で、さっさと窓際にあったベンチタイプのソファに腰を下ろしました。私も後に続きます。
「彼は情報部の魔獣研究室の室長でガドリー。見ての通りとても若くしてこの地位に上り詰めたからね。さっきのイリーみたいなことは嫌というほど経験している。だから力になってくれるはずだよ」
マグニーズ副部長の言葉が聞こえたのか情報部の室長は一瞬手が止まり、その後また作業を始めました。
見た目は二十五歳ほど。細身で眼鏡をかけているせいか、ガドリー室長は生真面目そうな雰囲気の男性です。
「あれは何をやっているんですか」
「魔獣の骨格標本をつくって、行動パターンと進化の過程を調べているんだ」
私の問いに答えてくれたのは、標本を作製しているガドリー室長でした。
「進化の過程?」
「その子に魔の山の話はまだしてないのか」
「これからだよ」
「魔の山の魔物はさ、条件次第で早いものだと一年もかからずに進化するんだ」
ガドリー室長は作業をしたまま、こちらを見ずに説明してくれました。お忙しいところ申し訳ないです。
「成長ではなくてね。種としての進化だよ」
マグニーズ副部長が重ねて教えてくれます。
「進化すればするほどその種は強くなる。魔法が使えるようになった魔獣もいるし、逆に魔法が効かなくなった魔獣もいるそうだ。これからどんな進化をするかもわからない。我々人類にとってはとても脅威なんだ。君はなぜ魔獣が進化をするんだと思う」
「種の保存、存続のためでしょうか」
「その通り。でも、生き物は普通、気が遠くなるほどの時間をかけて進化をする。だけど魔の山の魔獣は違う」
「たしか……魔の山に閉じ込めてしまうと、とても強くなってしまうから結界魔法が使えないと聞きました。それと関係があるんですか」
賢者のお爺様に『魔の山にも西の砦と同じように結界を張ってしまえば、魔獣が人里に下りてこれないから被害がなくなるんじゃないの?』 そう聞いたときに、それはできないと言われたことを思い出しました。
「そうだよ。魔獣は魔の山に結界なんかで閉じ込めてしまうと、それを攻略するために進化をするんだ。結界を破るほどまでに進化してしまったら、討伐するのに並大抵な力では適わくなる。だから魔の山との間にある障壁は完全な物を造らないんだよ」
「それを討伐して被害を防ぐのが私たち魔防部の仕事だ。とても危険だけど、イリーもいつかは殲滅隊として魔山に行ってもらうことになるよ。半年後には研修もある」
「はい、それは承知しています。入試の時に何度も確認されましたから」
第一志望が魔防部だったので、『魔法防衛部とは魔獣相手の危険な現場で働くことになります。あなたは理解していますか。それでも魔防部を希望されますか』『志望の部署ではなく、あなたの能力にあった部署への配属になる可能性がありますがそれでもよろしいですか』など、答案用紙の一番最初に記載があり、『はい』か『いいえ』に丸を付けてサインをさせられましたし、実技試験の時も口頭で試験管からも聞かれましたし。
たぶん他の部署を希望されていた方たちには、その部署にあった内容が書かれていたんだと思います。
それ以前に、私はバイブルの小説を読みこんでいますし、魔獣狩りはお爺様と何度も経験済みですから、たぶん問題ありません。
「ああそうか。君がマグニーズさんと一緒にいるってことは魔防部なんだ。なるほど、さっきの言葉はそういうことか」
「イリーはさっき魔法で襲われた。それも館内でだ。情報部で調査をお願いしたい」
「それはすぐにでも必要だな。カレンさんちょっとー」
さっきの方はカレンさんと言うのですね。
そのあとはガドリー室長に呼ばれたカレンさんに事情を説明しました。
私への嫌がらせもですが、館内で攻撃魔法を使ったことがとても問題のようです。
「警備部にも連絡しておくから安心していいわよ。もう二度とそんなことする気が起きないような罰が与えられると思うから」
罰の内容は教えてもらえませんでしたが、これでひとまず安心のようです。




