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私が憧れの職場に入れたのは、賢者のお祖父様のごり押しでした  作者: うる浬 るに
私が憧れの職場に入れたのは、賢者のお祖父様のごり押しでした
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15 魔防部の仕事

「他の部署だとまずは防衛魔法を覚えることから始めるんだけど……うちは必要なさそうね」


 魔防部の会議室で、ルーシーさんが講師となり講習会が始まりました。危険な場所へ派遣される可能性がある部署、例えば諜報部とか情報部、衛生部などは身を守る魔法を覚えることが必須だそうです。


 私はお爺様から習っていましたし、ムームはすでに魔獣討伐に参加しているくらいです。ジルコート様も伯爵家では先生がついて勉強するそうですから問題ないのでしょう。


「うちは四班に分かれて、交代でブネーゼ魔山へ常駐しているの。それが一番の仕事ね。王都に残っている班もいろんな仕事に派遣されるわよ。魔山以外に駐留することも多いし、その時によって仕事内容も変わってくるわ。今年は新人が三人しかいないから、あなたたちは別々の班に入ることになるけど、自分のためにもお互い常に情報交換はしていた方がいいわよ」


 私はムームと友達になれたので問題ないのですが、このメンバーではジル様がかわいそうですね。来年頑張って後輩を手懐けてもらうしかなさそうです。


「あと、すごく大事なことだからはっきり言っておくわよ。昔から人気小説のせいで変な憧れをもって魔防部を希望する新人がいるわ」


 みなさんの視線が痛いです。


「前にも言ったけど王都にいるメンバーは他の部署から便利屋扱いされているの。内容はその時々で変わるし、思っていたのと違うことが多いと思うけど、絶対に途中で放り出さないようにね。魔防部の他の者に迷惑がかかるし、魔法師団の中で評判も落ちるから」


 小説みたいに常にかっこいいことばかりでないことも理解しています。せっかく魔防部に入れたのですからお仕事は何でも頑張りますよ。


「その便利屋仕事をこなしつつ、一ヶ月後の新人演習会に向けて三人で合同練習をする必要もあるし、半年後には同じく新人だけで行うブネーゼ魔山への研修と言う名の魔獣討伐がひかえているわ。これから一年、やることだらけだから覚悟しておいてね」


「新人演習会はどうしても三人一緒でなければいけないのでしょうか」


 ジル様が質問します。


「三人一緒どころか、三人で協力して観覧者に君たちの力を見せつける必要があるのよ。新人演習会の目的は武闘派の部に選ばれた新人のお披露目でもあるわ」


「お披露目ですか?」


「その部の存在意義を知らしめるためにね。うちの場合は戦闘力の凄さを重点に、いつも見応えのある派手な魔法で頑張ってもらっているわ。魔獣を相手に戦うんだけど君たちなら、それぞれ得意な魔法が違うからバランスもいいし何も問題ないと思ってる」


「三人で打合せが必要だってことだよね?」


「そうね。他人と力を合わせるって一番大変で大事なことなのよ。これから必要になってくるから、練習だと思ってやってみて」


「承知いたしました。ご期待に添えるよう頑張ってみます」


 ジル様は気持ちを入れ替えたのか、やる気が出たようです。


 三人で力を合わせる……私はこの二人についていけるでしょうか。


「とりあえず君たちには一人づつ指導係を決めてあるから、これからその人と一緒に回ってもらうわ。ジルはダーガン、イリーはマグニーズ副部長、ムームは私よ」


 私たちの仕事は魔道具の調整や、それを確認をするための魔力供給係りだったり、警備部や諜報部の応援など、王都にいる間はいろいろな案件が持ち込まれるそうです。だから便利屋と呼ばれているのですね。




 次の日、私はマグニーズ副部長と一緒に、始めてのお仕事に向かいました。


 内容は魔道具の試運転だそうです。

 

「イリー君、もう少し出力あげてみてくれるかな」

「はい。このくらいですか?」


 私は言われた通り、魔力の供給口に自分の魔力を送りました。


 馬がいらない乗り物を作っているそうで、魔道具の回りでは魔道具部の人たちが、いろいろとチェックをしています。


「こんなに魔力の燃費が悪いんじゃ、改善の余地があるな」

「これでは、王都の外までもちません」

「誰の魔力にも適応できるようにしたからダメなんですかね?」


 そんなことを言いながら話し合いを続けているので、とりあえずお役御免で魔防部に戻ることになりました。


 魔道具部は科が多いので、この科にフランさんの姿は見あたりませんでした。



「マグニーズ、ちょうどよかった」

 ドアから外に出たところで、年配の男性とすれ違い、その方がマグニーズ副部長に声をかけてきました。


「例の話で耳に入れておきたいことがあるんだが」

「いまですか?」

「おまえは知っておいた方がいい」


 マグニーズ副部長が少し考えてから私の方を見ました。


「すぐに終わるから、イリー君はここでちょっと待っていてくれるかな」

「はい」


 マグニーズ副部長は声をかけてきた人について一緒に事務所へ入っていきました。わざわざ場所を変えたのは私のような平団員には聞かせられない話をするためでしょう。


 廊下の壁際でぼーっと突っ立いてると、うしろから嫌な感じの視線を感じます。

 振り向くと事務服姿の男性がこちらを睨みつけていて、私はその男性と目が合ってしまいました。




「水色の髪に紫の瞳……やっぱりおまえは今年魔防部に入ったって噂されてる双子の片割れだな」


 双子? ジル様とのことだとは思いますがなんでそんな噂が?


「あの、私たち兄妹ではないですけど」

「こんな小娘が入れるような魔防部が、魔法師団筆頭だなんてふざけた話だ。どうせおまえも他の部を見下しているんだろう」


「まさか、そんなことありません」

「ごくつぶしの部に新人入れやがって。経費の無駄遣いじゃねえか」


 この人はまったく私の話は聞いてくれません。どうしたらいいのでしょう。


 困って立ち尽くしていた私は、目の前で憤慨している男にいきなり肩を強く押されました。


「うっ」


 勢いが強かったので、私は壁に強くぶつかりましたが、もともと壁際にいたので転ぶことはありません。


 背中を痛がっている間に、男が両手を壁につきました。壁との間に挟まれてしまった私は、逃げられない状況に追い込まれてしまったのです。


「なあおまえ、あの魔防部に入るくらいだから、すげえ魔法が使えるんだろ? 俺に見せてみろよ」


 動くことができない私を、その人が怖い顔をして上から見下ろしています。こんな近くで大人の男性に睨まれて正直とても怖いです。


 魔法を見せろと言われても館内では禁止されていて、規則違反になります。


「できねえんだろう。そりゃそうだよな。魔防部なんて名前だけの部だ。俺はお前なんかよりちゃんとした魔法が使えんだよ」


 そう言ったかと思うと男は指で魔法陣を描き始めました。炎魔法の火の玉が浮かび、男の指の先でチラチラと燃え始めます。それは小さな炎ですが至近距離で向けられた私は気が気ではありません。


「ひゃっ」


 男がひょいっと放ったその炎は、私の顔ギリギリを掠めて壁に当たって消えました。

 恐怖で頭を押さえながら怯える私を、男は悦の入った瞳で見つめています。


「こんなことで泣きそうな奴に何ができるってんだ。あんな部、潰しちまった方がいいに決まっている」


 男の手が私の方へと延びてきます。怖すぎて助けを呼ぶ声もでません。


 今度は私に頭に男の手がふれようとしてきました。


 どうしたらいいの? 私は目をギュッとつぶりました。


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