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第四十二節

 

 ……終わった。


 全身で覚える確信に背を向けて、歩き出す。一歩一歩を徐に踏みしめ、崩れた洞窟から、外へ――。


「ぐっ……ッ!」


 出ようとしたその瞬間に崩れ落ちる。咄嗟に身体を支えようとした左腕。突いたその肘から先が、ない。右脚は貫かれた太腿から離れ落ち、見える箇所全てに無数の断面が覗いている。どこにも緋の見えない、底なしの黒……。


「……!」


 ……四肢の感覚がない。


 底知れない冷たさと空虚しか、自らの中に感じることができない。もう大半は自分のものではないようだ。侵食がよほど進んでいるのか……。


 ――あれほど大切だった人の名も、今はもう、思い出せない。


 ……だが、為すべきことは分かっている。


「……」


 見回し、一点で止まる視線。残された右腕と左脚で、寒気に耐えながらその黒い刀身の下へと這って進む。震える息でどうにか辿り着き、傷一つないその柄を握った。


「……千首千胴を落とす、無明の……刃を以て」


 呼吸が辛い。汗が出ていない。極度に乾き切った身体。徐々に薄れていく意識の中で、最期の言の葉を紡ぐ。


「天地、神明を……グッ⁉ ガハッ‼」


 血が喉を競り上がってくる。込み上げる感触に押され、自らの吐き散らしたその液は。


「……」


 ……黒い。茫漠と見つめる視界の中。光沢のない黒色は土に染み込まず、地に開いた底なしの沼のよう。その奥に飲み込まれるような感覚を覚えながら……。


「……此処に断つ」


 濡れた唇で、節を結んだ。


「我が……真名、……蔭水……黄泉示の名に、於いて……」


 次の波が来る前にという、ただその一心だけで言葉を絞り出す。


「そ の……禁を、……一 時的に解除する……」


 完成された詠唱に応えて、漆黒の刀身が仄かな金色の燐光を放つ。……これが、俺に残る生命の全てか……。


「う……く」


 眼の端から黒く染まっていく視界の中で。切っ先のその燈火を頼りに、響く鼓動の真上へと刃を差し向けた。


 ……ああ。


 ……これで。


 やっと……。









 ドスッ



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