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第十三節 マフィアの邸宅 中編


「そういや、前に買ったゲームがあったな」

「ゲームですか?」

「ボードゲームとかか?」

「いや、テレビゲームだよ。何人かでやる奴だから、この人数でもできると思うし」


 テレビゲームとは少し意外だ。これまであまりやったことがないので、詳しくはないが……。


「案内するぜ。確かこっちの部屋だったと思うんだよな……」


 何はともあれ。リゲルのあとに続いて、迷宮のような家の中を進んだ。


「――お、あったあった」


 何室か外れの部屋を覗き――着いていくままに入ったのは、中くらいの大きさの一室。目を惹くのは巨大なスピーカー。それらに挟まれるようにして向こうの壁には大きなモニターが備え付けられている。その前にセットされた状態で置いてあったのは……。


「……スプブラ?」


 見覚えのあるゲームタイトル。大乱戦、スプラッシュブラザーズ。


 俺たちが子どもの頃に初代が発売され、今でも根強い人気を持って新作の出続けている多人数対戦ゲームだ。昔友人宅で一度だけやったことがある。今目の前にある物とはナンバリングが違っているが。


「どんなゲームなんですか?」

「簡単にいやあキャラを操作して戦って、お互いを倒し合うゲームだな。黒服の間で一時期流行っててよ。負けたら罰ゲームとかで結構やってたぜ。確か」


 頭の中にゲームを囲んでわいわいやっている黒服、その後ろで観戦したり順番待ちをしたりしているその他大勢の黒服たちが浮かび上がる。……何というか、もう少しイメージというものを大事にして欲しい。


「なんだか楽しそうですね」

「いや、実際は阿鼻叫喚だったぜ? 最下位になった奴は仕事で地獄の無茶振りをさせられるって奴で、親父が参戦して一人ずつ順番に最下位に叩き落としてったからな」

「そ、そうですか」


 そう思っていた頭の中に笑顔のレイルさんが現われて、和気藹々としていた黒服たちが蹴散らされていく。……思ったよりシリアスだった。やってることはアレだが、印象に違わずえげつないなあの人……。


「ま、取り敢えずやろうぜ。えっと、コントローラーは……」


 渡されたコントローラーを受け取り、起動したゲーム画面でキャラを選ぶ。……あの頃よりも大分増えた印象だ。幸い知っているキャラクターもいたので、取り敢えずそれを選ぶことにする。


「えっと……」

「好きなのを選んでいいんじゃないか? 正直俺も、あんまり詳しくないし」

「やるのは俺も初めてだからな。どれ選んでも大丈夫だと思うぜ」

「じゃあ、この娘で……」


 悩んだ末に女性型のキャラクターを選んだフィア。リゲルも自キャラを選び、全員の用意が整う。


「うし、それじゃ、スタートだ!」


 リゲルがボタンを連打する。素早く移り変わる画面の中で、ランダムにステージが決まり――。


「――」


 バトルが始まった瞬間。盛大に上げられた飛沫と共に、フィアのキャラクターが画面外へ消え去った。


「……フィア?」

「えっ、あれっ⁉ どこですか私⁉」


 コントローラーを振り回している、その指がスティックを思い切り右方向に倒している。そうこうしている間に上から新しく降りてきたフィアのキャラ。……まあ、ゲーム自体初めてだからな。仕方ない――。


「うおッ⁉」

「――って」


 思った瞬間のリゲルの叫び声と同時、盛大に走り出したキャラクターが足場を踏み外して画面外へ落ちる。……二人目。何やってんだと言いたい気持ちになった直後。


「――」


 ただ一人残っていた俺のキャラクターが。画面下から現われた巨大な手、ギミックに巻き込まれて消える。……全員仲良く残機マイナス一。


「あ、皆降りてきましたよ」

「なんだよ、黄泉示も落ちてんじゃねえか」

「……そうだな」


 少し疲れた声で返す。というかこれは……。


「えっ、ちょっと」

「はあ⁉ んなのありかよ‼」


 プレイヤー同士で戦う暇もなく次々とギミックに呑み込まれて消えていくキャラクターたち。素晴らしく難度の高いステージを選んでしまったのではないかと、次々と減っていく残機を見ながらそんな予感を覚えた……。


 ……十分後。


「……よし」


 確かめて頷く。全員がステージに敗北したあれから色々と試した挙句、漸くギミックのないステージを選ぶことができた。ナンバリングを経るごとに大進化を果たしたのか、始めに想像していたようなシンプルなステージは意外と少なく……。


「……今度は大丈夫そうですね」

「これなら簡単には死なねえな」


 数々のギミックに沈められたフィアはすっかり慎重になっている。どんなステージでも猛ダッシュで落ちていくリゲルが言うと中々説得力があるなと思いつつ、まずはその場で技を出し、操作面が昔と変わっていないかどうかを確かめてみる。……大丈夫そうだ。


「スティックで移動、Aボタンで通常技、Bボタンで必殺技だ」

「……はい。大丈夫です」


 ずっとこのシステムのまま来ているというのも、考えてみれば凄いことなのだろう。言いつつ隣を見れば、フィアもその場で技を試している。散々ギミックに苦しめられたせいか、ある程度操作のコツを掴んでいるらしい。正しく逆境が人を成長させる――。


「んじゃそろそろ始めるか」

「ああ――」


 その好例。リゲルも操作に慣れてきている。技を試すというよりは、ステージを縦横無尽に動き回っている感じだが。確かにそろそろいいかと、俺が相槌を打った――。


「うし! 先手必勝‼」


 瞬間にいきなり突撃してくるリゲルのキャラ。――しまった。油断していたせいで迎撃の体勢が整っていない。慌ててガードボタンを押した俺の前で、リゲルの繰り出した攻撃がシールドに弾かれる。必殺技を逸らされたリゲルのキャラは、それでもなお勢いが止まらずに。


「お?」

「あ……」


 フィアのキャラが練習で出していた攻撃に激突。急所に当たったのか、凄まじい勢いで空の彼方へ吹き飛んでいった。画面上部に顔の浮かぶ演出と共に星となり、一つ減らされる残機。


「……やるじゃねえかフィア。参ったぜ。まさかんな連携で来るなんてよ」

「えっと、今のは……」

「……たまたまだ」


 芝居がかったリゲルの台詞に息を吐く。そのあとは結局、初心者同士の見るに堪えない泥仕合が小一時間繰り広げられることになった。


 ――


「――トランプでもやるか?」

「いいですね」

「……三人でか?」

「黒服たちも入れるから問題ねえよ。どうせなら大勢でやろうぜ」


 ゲームを終えて。次の遊びを思案していた俺たち。大勢……六人でやれる大富豪とかか? 何気なくそんな風に考えていた――。


「――」


 ――数分後。黒服と共に席に着いている俺たちの目の前に広がるのは、緑のラシャで天板を彩られた半円の卓。木の部分は磨き上げられていて艶のある光沢を放っている。座った者を否応なく勝負に引きずり込むような雰囲気……。


「……」


 前に出したチップを合図に、その中心に立つ黒服から流れるようにカードが配られていく。合計を確認し、追加をもらうために机を軽く二回叩いた指先。子に配り終わると親が自らのカードを捲り、加えていく。――親のバースト。勝敗と各々の賭け分に応じて卓上のチップが素早く動いた。


 ――ブラックジャックかよ‼


「お二人が勝った場合、チップは最終的に一枚このレートで換算しますんで」


 イカサマ防止のためか。後ろの壁際にいた黒服から電卓で数字を示される。……いや、こんな金額はとてもじゃないが受け取れないぞ。どんな事情のあるカネなのかも分からないし、色々と不安すぎる。


「さ、どんどん行きましょう。遠慮せず」


 思わずしてカジノに迷い込んでしまった素人二人を前に――ゲームは淡々と進んでいく。




「――一応、プールもあるぜ」


 そのリゲルの一言で俺たちは屋上に来ている。完全な屋外ではなくガラス張りの空間。緊張から解放されたこともあり、晴れやかな気持ちだ。


 先ほどのカジノは正直内心で冷や冷やものだったものの、最後には結局全員ディーラーにチップを撒き上げられて終わったのでほっとした。……プールか。


 気を取り直して目の前に湛えられている水を見る。完全に偏見かもしれないが、大邸宅の定番設備のようなイメージがある。例に漏れず、というか……。


「入りますか? お望みなら温水にもできますが」


 ここにも黒服がスタンバっている。プールサイドなのに全員スーツ。ミスマッチな光景も、ここがマフィアの邸宅だということを考えると自然に見えてしまうから不思議だ。


「いや……。第一、水着が」

「心配要りません。こんなこともあろうかと、うちじゃ各種取り揃えてます」


 パチンと指を鳴らす――その合図と共に扉の向こうから一斉に出て来る巨大なハンガーラック。十メートルくらいはあるんじゃないかと思えるその銀色の横棒に、色形様々な水着が勢揃いしている。此処は……。


「全部卸し立ての新品ですんで。サイズもⅩSからⅩLまで。欠けはありません」


 服屋か何かか? マフィアと言うのはもしやカモフラージュではないかと疑問を覚え始めた俺の前で――。


「お嬢さんはこちらをどうぞ」


 またしても鳴らされた指と同時に、同じようなハンガーラックに乗って登場する女性用水着。こちらも負けず劣らず凄い数の品揃えだ。キュートなものからセクシーなものまで、目に眩しいほどの色取り取り。


「えっ……えっ?」

「いや、真に受けなくて良いぜ」

「冗談です」


 冗談なのか。再度の指パッチンと共に下がっていく二つのハンガーラック。……黒服に真顔、その上あの流れるような動作でやられると、本気で区別が付け辛い。慣れるには時間が掛かりそうだった。



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