第二十四.五節 告げる夢
「――や。また会ったね」
背中越しに掛けられた声に振り返る。……ひょろりとした長い手足。存在感はぼやけていて、夢のように曖昧だ。
「そう。またもや君の夢だよ、蔭水黄泉示くん」
頭に思い浮かんだ中身を肯定される。規則正しく繰り返される足踏みの音。前回より更に呆れるような、不満げな様子が伝わってきている。
「面倒で憂鬱なことこの上ない。なんと言うかな。正しく想像もしていなかったことさ。忌々しいことに、現実には無窮の可能性が織り込まれているというのは本当らしい。全く不愉快なことにね」
縮れて乱れた髪を掻き分けて、ボリボリと頭を掻きながら男は俺を見る。掻き揚げられた髪。これまで一度も合わされなかった眼が、目と合った。
「ま、ここまで来たら仕方がない。教えてあげるよ。刀の秘密を」
――刀?
「そうそう。君が持ってる刀、終月のことさ」
なぜ、この刀の名前を――。
「前回は言っていなかったけど、僕はその刀の――」
そこで男は口を開けたまま、次の言葉を忘れてしまったかのように唇を止め。
「……そう、刀の妖精さ。君のような不届き者が蔭水の至宝をうっかり受け継いでしまわないか、監視するのが仕事……じゃない、趣味でね」
妖精……? 趣味……?
口にされる単語に眉を顰める。……この上なく胡散臭い。大体本人が本気で話していないようなのが気になる。
「ま、つまらない疑念は置いておいて。なんで切れない刀なんてものが秘宝として受け継がれているか、不思議に思ったことはなかったかい? 君は」
……終月は、心構えを示すものだ。
戦いに於いて本来理想とされる不殺。一技必殺の剣技を磨く中で、それを忘れないようにする為の。
「はいはいその通りその通り。ただ、蔭水家は元々異形の討伐を生業とする家系だ。魔を滅す家業の役に立たないのに、その刀はわざわざ至宝として受け継がれている」
めんどくさそうな様子を隠そうともしない。何を考えているかも分からない男の黒い瞳が、やる気のない視線で俺を見た。
「その刀はね。折れないんだよ」
……なに?
「どんな力を加えたとしても、絶対に折れることはない。さながら刀の形をした不破の盾だね」
確認できない。だが経験から即座に否定もできない事柄に、黙り込む。
「そしてその刀は、モノを切ることもできる」
畳み掛けるように新たな内容が投げ掛けられた。
「普通にはできないけどね。今から言う文句を覚えておくといい。〝千首千胴を落とす、無明の刃を以て――」
聞き覚えたかどうかなどまるで意に介さずにつらつらと紡がれていく。……最後の一言と思しき言葉の暗唱が終わり、男が今一度俺を見た――。
――そこで、世界が暗転した。




