第二十八.五節 先へ
「――っ」
「――蔭水!」
父の声を背に。幾つものふすまを開け放ち、同じような部屋部屋を駆け抜けた先で掛けられた、声。
「……!」
それまでとは異なる――長細い作りの部屋。終着と思しきその部屋の中心に、立っている二人は。
「ったく、遅えから冷や冷やしちまったぜ」
「……リゲル、ジェイン」
弾む息を落ち着かせる。何よりも先に出てきたのは安堵。……二人が無事切り抜けて此処に来ていたこと。三人で、この先へ進めることの。
「とにかく間に合って何よりだ」
「つうか無傷か? 敵には――」
「……父に会った」
俺の言葉と同時、二人が言葉を止める。向けられるのは真剣な眼差し。
「けど、どうにかなった。……二人は」
「まずまずと言ったところだな」
「大体無事だぜ。ちょっとばかしデカいわんころが出てきたが、ま、俺に掛かれば楽勝だったな」
「大法螺を吹くのもいい加減にしろゴリラが」
「俺が斃したってのは本当だろうがよ。ああん?」
否定できるもんなら否定してみろとでも言いたげにニヤリと笑んだリゲルに、やれやれという体で首を振り。
「……話せたのか?」
「ああ」
「……そうか。何よりだ」
頷いたジェイン。その所作へ向けて声を飛ばす。今気にしなければならないこと。
「……アイリーンは」
「――上だ」
視線でジェインが指したのは、二人の奥に見える構造物。……階段。
「そこの階段が上の部屋に通じている。合流してから行こうと思っていたから、それ以上は調べていないが」
「――田中さんが相手をしてるらしい。父が教えてくれた」
「は? マジかよ」
「……それなら間違いはないな。用意を整え次第――」
「とっとと上がろうぜ。ちんたらしてられねえ」
言うなり背を向けたリゲル。さっさと歩いていくその所作に。
「おい待て馬鹿! 貴様――!」
「揃ったんだから大丈夫だろうよ。まだアイリーンのとこまで部屋があるかもしんねえし、あのオッサンが先に着いてんだったら早いとこ行った方が良いと思うぜ。俺は」
「……そうだな」
田中さんの強さは知っている。だがほとんど怪物と言える強さを誇るアイリーンに対し、一人では。
「……行こう」
リゲルの促しに、俺も続いた。
「用意はできてる。手遅れにならないうちに、先に」
「黄泉示もこう言ってるぜ? ジェイン」
「……ああ。そうだな」
多数決でねじ伏せられた形になったジェイン。気を落ち着かせるように、ふー、と息を吐いて。
「――この先何があるか分からない」
気を引き締めるように、敢えて一言で忠告した。
「いつでも用意はしておいてくれ」
「――ああ」
頷き。決意と共に前に進む。……必ず。
――フィアを、助け出して見せる。
……。
――声が聞こえた。
微睡む揺蕩いの中で私は思う。……暖かく、とても懐かしい声。最後に聞いたのはいつだっただろうか。
……。
ふと、思う。……私は、どこにいるのだろう。
なにも分からない。なにも聞こえない。ただ、安らぎだけがあって。
目を閉じる。何も考えずに、この安らかな時間を受け入れていようと、そう決めた。
この節で十一章は終わりです。次節から第十二章に入ります。




