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第十五節 収束


「……」


 ――強襲前夜。


 集まった俺たちはテーブルを囲んでいる。……支部にあるいつもの部屋ではなく、俺たちが今いるのは趣と暖かみのある木造りのロッジ。天井から降る黄色光のほか、置かれたランプ型のランタンが手元に光を投げかけている。ゲートで支部間を移動し。


 近場の支部から四時間近く移動して此処に着いたのが、今から一時間ほど前のこと。やや遅めの夕飯を取り、食休みの時間を置いて全員がここに集まった。


「……ここまで堂々としていて大丈夫なのか?」

「協会員の経営している宿ですので。外部に聞かれる心配はありません」


 移した郭の視線の先でロッジの従業員が静かに頭を下げたのが見える。……道理で俺たち一行を迎えた時の主人の反応が、顕著だったはずだ。


「――では、強襲の計画について確認を」


 郭が話し出す。……此処に来た本題。


「時刻は明日の午前十時。場所はこの山の中腹にある『アポカリプスの眼』の訓練場」


 誰からも口が挟まれることなく続きへと移る。概ねはここへ来る前、支部での話し合いで確定している事柄だ。


「ホテルに滞在しているアイリーン・カタスフィニアをそこへ誘き出して貰います。僕たちが強襲を掛けた時点で、十冠を負う獣が背後から奇襲。彼女の術法でアイリーンを僕たちごと結界に隔離し、そこからは彼の計画通り」


 発案者であるジェインに目を遣った郭が、次いで俺たちを見る。


「貴方たち二人を中心としてアイリーンを捕縛しに掛かります。僕たちがサポートしますので、確実に成功させてください」

「……ああ」

「――まあ、安心しとけよ」


 如何ともし難く声に覗いてしまう気負い。それを見て取ったのか、敢えて気楽そうな声を発したのは田中さん。


「俺もお前らと揃って前に出るからな。――そこのお二人さんも、精々足だけは引っ張んねえようにしてくれよ」

〝当然〟

「武人如きが誰に物を言っているのですか。……まあ、しかし」


 ひらひらと落ちてくる紙片の影でふっと笑いつつ、俺たちを見てくる賢王。その視線。


「殺さないという制約がある以上、アイリーンを相手取ることは一層困難になるでしょう。私たちの加勢もその点においては限定的になります」


 眼差しは鋭い。俺たちの案を受け入れていてなお、万が一にも失態は許さないと言うように。


「無論、貴方たちが上手くやれればなんの問題もないのですがね。――期待していますよ」

「……やってみせるさ」

「――では、今日は解散と言うことで」


 他に手を挙げる人間がいないことを確認し、締めくくるのは葵さん。


「明日に影響の出ないよう、充分に休息を取って下さい。このところ修行づくめだった面々は特に」

「分かってるぜ」

「ひと眠りするとしますかね。明日に備えて――」

〝お休み〟


 各々が散っていく。終始無言だった立慧さんの背中を見つめつつ、俺も自分の部屋へと戻り――。


「――蔭水」


 掛けた途中。掛けられた声に、振り向いた。


「明日は頑張ろう。絶対に上手く行くさ」

「……ああ」

「そうだぜ。なにせ九対一だからな」


 リゲルも歩いてくる。面には裏付けのある笑み。


「まさか全員で掛かる羽目になるとは思わなかったけどよ。あんだけ一対一でのバトルを想定して訓練してたってのに、ちょいと肩透かしを食らった気分だぜ」

「成功率を上げられるなら越したことはないだろう。賢王や葵さんの立場からしても、僕らを三人だけで当たらせるはずがない。――言っていたはずだがな。前々から――」

「……」


 ……そうだ。


 全ては俺たちの考えていた以上に上手く運んでいる。賢王たちの納得を得るどころか、説得の結果として得られたのはメンバー全員のほぼ全面的な協力態勢。十冠を負う獣という協力者が向こうにいてくれた幸運にも感謝を禁じ得ない。……これで上手くいかなければ。


 逆に――。


「――ッ⁉」

「――なに暗え顔してんだよ」


 バシリと。いきなり背中に走った衝撃に、思わず一、二歩とよろける足。衝撃の方向へ向けた顔の先で、此方を見つめているのはリゲル。ニッと笑い。


「やることはシンプルじゃねえか。俺たちは明日、全員で協力してダチを助け出す」


 広げた指をグッと握り。勢いよく掌と打ち合わせて響いた音に、更に口の端を釣り上げた。


「だろ? 真剣なのはそのまま置いとくとして、もうちょい楽観的に行こうぜ。自分を信じてやりゃあ失敗するはずがねえんだからよ。黄泉示なら――」

「……いきなり他人を叩く奴の方が論外だと思うがな」

「なんで人が良い事言おうとしてるタイミングで一々水差してくんだテメエはよ……⁉」


 ガンを飛ばし始める二人。……一触即発のその光景を見ているうちに。


「――叩くことがコミュニケーションの一部とでも思っているのか? やけに前時代的だな。石器時代から抜け出て来たのか?」

「吠えるねぇもやしっ子が。それだけ気心が知れてるってことじゃねえか。大体嫌だっつわれたならやんねえ――」

「――そろそろ寝ないか」


 なぜか、どこか気負いのほぐれている自分自身に気が付いた。同時にそろそろ本格的な言い争いが始まりそうだったので、声を掛ける。ロッジの従業員もさっきから、ハラハラしたような顔でこっちを見ているし。


「明日は早いし。万が一にでも疲れを残すといけない」

「……そうだな」

「ほら見ろ。言われてんじゃねえか」

「なにがだ」


 結局言い合っている二人に苦笑いしつつ、二階の方へ向けた足先。振り向き際。


「――じゃあな蔭水」

「おっ、また明日な! 黄泉示」

「ああ、お休み二人とも」


 挨拶を交わして完全に向けた背中。――なんでてめえと同じ方向なんだよ、僕の知ったことか、等々言う声を耳にしながら階段を上る。宛がわれた部屋に入り、白いシーツの敷かれた簡素なベッドに身体を横たえた。


「……」


 ……漸くここまで来た。


 馴染みのない天井を見ながら思う。自然と真顔になってくる表情。……全ては明日。明日、アイリーンを倒し――。


 ――フィアを助け出してみせる。必ず――……。



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