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第二十二節 疾駆

 

「――それで、時の概念魔術以外には何か身に付けたのかな?」

「……ああ」


 ……どうしてこうなった?


「具体的には?」

「そこまで話す必要はない」

「攻撃手段は? 支援系だけじゃないかどうかだけでいいよ」

「……まだだ」


 渋々の口調で答える。受けた十冠を負う獣は、やっぱりか、とやや癪に障る反応をして。


「それじゃあ戦力としては不十分だね。こんなところにいるくらいだから、一応は分かってるんだろうけど……」


 ジェインを見つめるのはそれまでよりもやや真剣な顔。互いの邂逅から十数分。


 自分たちの側が強襲を受けている最中にも拘らず、ジェインはなぜか十冠を負う獣との会話を繰り広げることになっていた。襲撃者の内訳は既に訊き出し、『永久の魔』が基本的には動かないということも確認済み。現状ではこうするしかないことも理解している。


「攻め手も持たない相手に倒されるほど、冥希たちは甘くない。ブラフになる程度でもいいから、何か身に着けておくことをお勧めするよ」

「……どうかな」


 ただ、それでもどうしようもない割り切れなさのようなものはあった。胸中を渦巻く情念にまだまだだな、と軽く嘆息。投げかけられた言葉に、小さな支部長の姿を頭に浮かべて応えつつ。


「……それにしても」


 十冠を負う獣が息を吐く。視線の向く先は本棚のひしめき合った天井。


「冥王はさっぱり喋ってくれないね。殺し屋暗殺者の王というくらいだから、警戒心も余程強いんだろうけれど」


 問答無用でいきなり手に掛けるような真似はしなかったとはいえ、冥王に目の前の相手と話す気は全くないようだった。ジェインに対してでさえいつもの紙の一切れですら落ちてきていない。十冠を負う獣の言うように、それが彼女に対する警戒心からなのかは分からなかったが……。


「君がいてくれて良かったよ。気まずい思いをせずに済んで――」

「――どうして僕たちに協力する?」


 時間だけが過ぎていく。その事実を頭から追い出すように、向けられた魅力的な笑顔を無視してジェインは十冠を負う獣に問い掛けを飛ばす。


「一度は滅世に与したが、今更になって命が惜しくなったということか?」

「前にも訊かれたんだけどね。そのことは」


〝目的はもう終わっている〟


 はぐらかす回答。十冠を負う獣が以前そう答えていたことを、ジェインは郭から聞き及んで知っている。……そうだとしても自分の目と耳、頭で確かめておきたかった。


「ま、言うなれば気晴らしさ。暇だからね。今の僕は」


 ふぅと。困ったものさとの声と共に吐かれた息。


「僕は別段ヴェイグたちに恩義はないし、利害の一致した協力関係のようなものだったんだ。滅世の終わりまでが一応約束なわけだけど、律儀に守る気もなくなってね」

「――どうして襲撃の事を事前に知らせなかった?」

「できなかったからさ」


 気に掛かっていた一点。突き付けるジェインの問いに十冠を負う獣はサラリと答える。


「具体的な日取りは他のメンバー次第だったし、目を盗んでの通話も簡単じゃない。今回は特別急な話だったからね。教えてあげるだけの時間がなかったんだ、悪いけど」

「……」


 ……嘘だ。


 直感的にそのことを感じ取る。十冠を負う獣の態度はそつないものだが、声からはある種の真実味が感じられない。……やはり。


 十冠を負う獣は真剣な内通者ではない。当人の言うように、あくまで気が向いたから協力をしているだけなのだ。当てにし過ぎるのは危険かもしれないと……。


「――」


 不意に。そこまで考えたところで目の前の相手の顔色が変わる。あからさまに演技ではなさそうなその態度に、覚えたのは言わずもがな嫌な予感。


「――どうした?」

「……マズイね」


 宝石にも似た黒瞳が向けられたのは、あらぬ方角。


「アデルと冥希が動き出してる。完全な足止めとはいかなかったみたいだ」

「何――」

「バロン、セイレスと接触する。君の仲間とも」


 ――。


「――出る」


 ここに来て逡巡の余地はない。ジェインの下した決断は迅速。


「今度は止めても向かうぞ」

「……そうだね」


 明確に告げられた言葉に、十冠を負う獣は一度周囲を見回し。


「君だけなら良いよ。――冥王はもう少し残ってくれるかな? 流石に二人一遍に逃げられると追わないわけにはいかないから」


 冥王から返答はない。だが何処からか、一枚の紙切れがヒラヒラと舞い落ちてくる。――〝分かった〟。


「【時の加速・二倍速】!」


 それを見た瞬間に走り出す。可能な限りの速さで駆け抜けるジェイン。艶やかな黒髪と眼鏡との擦れ違い様。


「――彼を宜しく」

「――っ」


 届いたのは空耳かと思えるような微かな呟き。聞き咎める頃にはもう、動かす足は書庫から外へと走り出ていた。


「……さて」


 気配が完全に遠ざかったことを背中越しに確認して、十冠を負う獣は暗がりへと向き直る。わざとらしいほど明快に笑顔を作り。


「漸く返事をしてくれて嬉しいよ、冥王。それで、僕からも一つ訊きたいことがあってね」


 ――フィア・カタスト。その名前を口にして、十冠を負う獣は猫のように僅かに目を細めた。


「ヴェイグがその娘にやけに執心みたいなんだ。彼女がいったい何者なのか、君たちは知らないかい?」

















 ――来たか。


「ムウンッ‼」


 これまでとは明白に異なる魔力の熾りを感じ――裂帛の気迫と共にバロンは手にした鉄塊を振り払う。直接の打撃が起こした風圧、砕け散る床の破片が飛礫となって猛威を振るった。


 ――必ず動いて来ると思っていた。


【黒の凶荒】。ヴェイグよりバロンに与えられた称号と力は、飢餓の地獄を具現化させた異能。全般的なステータスの向上と共に、自身と対峙する敵の回復を阻害し、その体力・魔力の消耗を三倍にまで引き上げる。――大幅な手札の制限。早めに手を打たなければ手遅れになる状況を、指を咥えて過ごすほど愚かではあるまい。


 とはいえ【属性同化】に加え試作(プロト)ゼロモデル『暴虐の道化師』を持つ自らの守りは堅牢。生半可な魔術で破られることなど万万が一にもあり得なく、敵が攻勢に出てきているのであればただ守りに入るだけでも勝利は見込める。


 その思考を置いて足下から突き出した岩塊の勢いで突進するバロン。これまでにない急激な加速で距離を詰めた巨躯に、賢者見習いの表情が歪む――。


「フンッ‼」


 薙ぎ。紙一重で躱される。出現させた岩壁で後方への退路を断ち、前へ。突き出した鉄塊の下を掻い潜る体躯。


「――ハアッ‼」


 ――自身の魔術では、賢者見習いを相手に威圧とはならない。


 以前の戦闘を経てバロンは若き賢者見習いの能力を高く評価していた。魔術でセイレスを正面から捻じ伏せる剛腕に、バランスよく纏められた身体能力。頭も切れる。そしてなにより――。


「――」


 ――自負を持っている。この若さにして、戦場に出てなお揺るぎない自負を。そこが他の青年らとは違うところだ。意気高く荒ぶるような気力でもなく、底から沸き上がるような気負いでもなく、ただ当然のように全力を発揮するというその態度は、今に至るまでに高いレベルで積み重ねてきた修練の自覚があってこそ形作られるもの。


 その相手が勝負に出てきているのなら、優位に胡坐をかいて居座っているだけではいけない。相手の命に届く武器を振るい、心臓に恐怖を響かせなくてはならない。それだけの威圧をして初めて、その攻めに敗着を与えることができるのだ。


「〝穿て〟‼」


 故にバロンは得物を振るう。必殺の意志を持ち、見据えた矮躯を圧し潰さんとして鉄塊を走らせる。攻めに出たはずの相手の意気さえ挫くような覇気を以て、苛烈な死の暴威を振り撒き続ける。全てこの一戦の勝利のため。目の前で息をしている敵の鼓動を止め、心臓と頭蓋とを微塵に叩き潰すまで。


「ヌウ――ッ‼」


 強化を用いた賢者見習いの動きは流石――だが続けられる回避劇は、即ち攻撃に転じる間がないことを示している。牙を持たないことを選んだあの支部長とは違う。相対する敵は明確に研がれた歯牙を持っている――だからこそ、その口を最大限に開かせないまま圧し潰すのだ。


「っ――」


 鉄塊を躱した直後の岩杭を体躯を捻り躱し切る賢者見習い。――威圧にはならずとも妨害にはなる。体力を奪うことが目的の今は動きを止めさせない事こそ何より重要。追わせた岩の杭をバックステップで後方へと交わす所作。その体躯を貫き通さんと現われた尖岩が、賢者見習いの身体を一瞬陰に隠し。


「っ――」


 岩ごと後方を砕き散らした――直後にバロンの目に映ったのは、背後から一斉に飛び出した十数の賢者見習い(ターゲット)。外見では見分けがつかないその全てが個々バラバラに動き回り各々魔力と気配とを発している。しかも。


「――【炎熱の壁・上級】!」

「――【永久の舞風】!」


 バロン目掛けて四方八方から放たれるのは紛うことなき魔術の群れ。――恐るべき手腕だ。【黒の凶荒】の影響と鉄塊、殺意による威圧を受けながら、これだけの精緻にして大がかりな魔術を構築してくるとは。岩杭で賢者見習いの姿を手当たり次第に追い回しながらもバロンはそう内心で舌を巻かざるを得ない。……だが。


「温い――ッ‼」


 ――見かけ倒しだ。


 表面の【属性同化】で炎と風とを潜り抜けつつ突き出した鉄塊にて一体を貫く。如何に賢者見習いと雖も、流石に【力の漏出】の制限下で全てに充分な威力を乗せられるわけがない。――多くは外形。中身のない見せかけだけの魔術。魔力感知の修練を積み、【黒の凶荒】により感覚の研ぎ澄まされているバロンにはそのことが看破できていた。……恐るるには足りない。己の為すことは本体を逸早く見つけ出すというただそのことだけであり、急激な魔力の熾りにさえ注意していれば致命的な損傷を受けることはない。このまま押し切れる――。


「フンッ――っ‼」


 二体、三体。次々に分身を蹴散らしていく最中で唐突に熾される動き。飛び退いた空間を賢者見習いの姿ごと水晶の如き巨大な球体が包み上げていく。――追尾する水の檻。囚われれば嬲り殺しにされるだろうそれを膂力を込めた鉄塊の一撃で粉砕。上がる飛沫が鉄塊とバロンとを濡らし――。


「ヌウアッ‼」


 地面ごと凍り付かされた瞬間に四方から接近してきた賢者見習いたち。氷を振り払う気迫と共に地を踏み締め、回転させた鉄塊でそれら全てを薙ぎ払った瞬間に幻影だと気付かされる。岩杭に追われながらも魔力を稼働させている残りの姿。周囲から高まる魔力にバロンが咄嗟に岩の壁を周囲に出現させようとした。


「――」


 瞬間を走ったのはこれまでになく細い灰色の直線。虚空を貫いたかと思しきその岩棘の先端が、見るにも鈍い赤色で染まった。










「――」


 痛み。走る激痛に抗い難く魔力と身の動きを止めさせられる。右足の中心を貫いている岩杭。紅く染まる灰色の枷が見下ろした瞳に映り――。


「ッ‼」


 間を置かぬ追撃。走らせた風の刃で杭を叩き切り、地面に血の足跡を付けながら岩杭の連打を回避するステップを踏む。痛覚を遮断。中級の治癒を使って出血を止めた直後に走る孔から風が通り抜けていく感触に、意志に反して背筋を冷たい物が通り抜けた。


「……っ……!」


 幻影は最早意味を成していない。時間稼ぎのつもりでぶつけさせた魔術の虚像を意にも介さずに距離を詰めてきたバロン。――振るわれる鉄塊の唸りが先ほどより大きく耳に響く。決めに来ている。機会を捉えた者の当然の判断として、郭にもそのことが痛いほどよく分かった。


 ――マズイ。


 消耗が激しい。傷を負わされた為に乱れた身体の制御。空けられた孔のせいか、普段より強めを意識して蹴らなければ思い描いた通りの動作ができない。自身の手綱を十全に握れない事実が焦りを生み、無駄な力みによって荒げられる息が更に体力を奪っていく。……見誤ったのか?


 自分でも遅きに失するとしか言いようのない問いが郭の脳内を駆け巡る。……元執行者だというバロンの感知能力。『アポカリプスの眼』としての力を使って来ていることを踏まえ、引き上げられた消耗を考慮し、本体を隠す隠蔽に掛けるべき魔力配分を弾き出した。古典の術理をベースに近代式の要素を組み込んだ郭の穏形。レイガスには遠く及ばないが、自身と同格の魔術の腕を持つ術者であっても易々と見破られることはないとの自負があり。


「……ッ」


 なのに見抜かれた。加えて攻撃を受けたあの一瞬、賢者見習いたる自らが感知し損ねるほど岩杭操作の魔力をバロンが押し殺していたことに郭は気付かされないわけにはいかなかった。……屈辱にも程がある。己が上を行ってると断じて疑わなかったその部分で、あろうことかまんまと裏をかかれたのだから。


 体力だけでなく魔力容量も残り少ない。元より魔力が許す限りの魔術全てを組み合わせた上で打ち勝つ算段。その締めに近い中途で全ての目論見を崩されたのだ。最早これは。


「――逃げるばかりか」


 バロンの声が響き渡る最中で郭は我武者羅に地を蹴る。迫り来る死の暴威を必死で躱す。


「貴公はよく戦った。――その年若さでよくぞここまで」


 だがそれも長くは続かないだろうこと、郭の頭脳は無情に判断を下していた。魔力体力が尽きるまで逃げ回り、最後には圧し潰されて。


〝――魔力容量は先天的に決まっている〟


「――ッ!」


  終わる――。無残な未来の光景で埋め尽くされそうになる脳裏に蘇った、かつての修行の光景。見慣れた部屋の中で。


〝修練で伸ばすことは不可能だ。……そこを嘆く魔術師は多い〟


 いつも通りの厳めしげな声で師は語る。記憶の中のレイガスが、郭を見た。


〝だが我ら魔術師がなすべきは己の非才を嘆くことではなく、魔術の運用を鍛えることだ〟


「――」


 ……そうだ。


 レイガスは魔力容量には恵まれてはいなかった。何ら然したる才能を持たず、それでもなお執拗なほどの厳密さと努力とで四賢者の称号を得るに至った。


 だからこそ郭には言える。あの人ができていたのなら――。


「讃辞に値する。……せめて、苦しまずに逝くがいい」


 ――自分もまた、できないと言えるはずがないと。


「……はっ」


 敢えて嗤う。震える声へ、必死で嘲りの色を混ぜる。


「――逃げ腰の貴方たちに言われても嬉しくないですね、『アポカリプスの眼』!」


 最早ただ躱すだけではない。ともすれば閉じそうになる目を凝らし、突破点を見極めようと懸命に視に掛かる。身を揺るがしていく風圧。数センチ先の空間を鉄塊が抉り取る恐怖に耐え。


「世界が気に入らないから逃げる! そう言うことでしょう⁉ 滅世とは!」


 叫ぶように言い出した台詞。突き付けられた舌鋒にバロンの表情が一瞬だけ顰められる。


「――貴公には分からぬことだ」

「その言葉そっくりお返ししますよ」


 言葉が効いたことに僅かばかり意気を戻して。ここぞとばかり郭は続けた。


「貴方たちが僕らのなんたるかを知ってるんですか? 僕たちが自分の生き方に待つ苦しみと困難に耐え切れないことを知っていて、滅びで以てその憂いを取り除いてくれると?」


 お優しいことだ、と。引きつった嗤いと共に皮肉を手向ける。


「そんなお節介は要らないんですよ。貴方たちが僕に待つ苦しみを知るはずもないですし、自分のことくらい自分でどうにかできる。――僕は」


 重い。挫けそうになるその言葉の重みを久しく覚えながらも、郭は力を込めて歯の根を押し上げた。


「賢者見習い。――師の跡を継ぎ、四賢者になる者ですから」


 迫る巨躯を捉えつつ郭は思う。……大まかな算段は立った。


 思えば正面から撃ち破るなど素直すぎて馬鹿らしい。――いつの間にか彼らの気概に当てられていたらしいと内心で零した失笑。……僅かな手数で如何にして隙を作り、守りを抉じ開け、防御を掻い潜って戦闘不能へと追い込むか。


 それこそが――。


「ぬ――ッ!」


 足の奇妙な感覚に耐えながら紙一重で空ぶらせた鉄塊の突き。一瞬だけ動きが居ついたところへピンポイントで指だけを凍結させる。――感覚が無くなればあの鉄塊を握り続けることはできない。右に続き、振り上げを放ってきた左も、潜り抜けた身体に破片を受けながら凍り付かせる。これで――。


「――」


 岩に変わった。固く握り締めた拳を岩塊へと変えて固定したバロン。凍結など構わぬという風に振り抜かれようとした。


「――ッ」


 目の前で弾けた電光。視覚認識の要である眼球は【属性同化】で岩化できない。一瞬でもタイミングがずれれば即座に鉄塊の餌食となっていた巧手を足掛かりに、反射的に顔を引いた相手の動きのずれを大きくしていく。顎、喉仏、脇、鳩尾、股間、膝裏。一つ一つは小さな衝撃を積み重ね、連動させ。


「ヌウッ‼ ――ッ」


 足元に敷いた氷にバロンが踏み止まろうとした足を滑らせる。両の手に括り付けた鉄塊の重さに釣られ、バランスを戻せず――。


 ――取った。


「ッ――‼」


 咄嗟に出現した岩壁の盾。バロンを囲み込むその合間を突風の補助を受けて擦り抜ける。乗りかかる形になったのは巌のようなバロンの体躯そのもの。自らを捉えた瞳に一瞬浮かべられた驚愕にほくそ笑んで。


「――【構築完了・生まれ落つ光星】ッ‼」


 その術式を紡ぎ出した。ほぼ同時に起こされた【属性同化】、だが放たれる魔力の光球がバロンの身を捉える方が僅かに早く。


「ヌウウウウウウウウウッッ‼‼」


 岩化の間に合わない部位を直撃した熱風と雷撃の乱舞が肉を焼き焦がし引き裂いていく。飛び散る鮮血の花に残酷な昂ぶりを覚えると同時に響くバロンが地に落ちた衝撃。それらの苦痛を――。


「オオオオオッ‼」

「――ッッ‼」


 物ともしない勢いで。振り回された拳撃を郭は両腕でガードする。障壁を貫通する威力。自ら飛び退いて衝撃を殺してなお、皹入ったような痛みが右腕の奥を走った。


「ふ――っ」

「……負けられぬ」


 息を吐く目先。……同化を解除した指で再び拾い上げた鉄塊に、腹部から滴り落ちている血液。身体の奥から岩と同化させたのか、傷は広いものの深部まで達してはいない。


「まだ……!」


 今ので更に魔力は削れた。まともな術法は残り一発。泣いても笑ってもその使い道が全てだと、郭が一層意識を集中させる。じりじりとにじり寄るバロン。


「オオオオオオオッッ――‼」


 吼える巨体の突貫。思うように動かなくなってきた右手足を抱えつつ。


「――ッ‼」


 郭もまた、応じる気概でバロンへと駆けた。



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