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第一節 顛末

 

「う……」


 瞼越しに照らす光を感じ、目を開ける。重たい泥の中から引き上げられたような感覚。……ここは。


「つッ……」


 身体に乗せられている柔らかな感触から穏やかな温もりが香ってくる。腕を動かそうとして、走る痛みに顔を顰めた。


「……」


 ……ゆっくりと。慎重に力を込め、どうにか上体を引き起こす。――至るところに残る鈍痛と疲労。心なしか熱があるような気もする。……部屋か? ここは……。


「――黄泉示さん?」


 覚えのある声に首だけを動かしてそちらを向く。開いた扉の中に立っているのは。


 フィア。白い衣服。手にしたトレイのような容器から、白い包帯がするりと零れ落ちた。


「……フィア? ここは――」


 ――どこなんだ? そう訊こうとした瞬間。


「――ッ!」

「……⁉」


 僅かな距離を詰め寄り、覆い被さるようにして抱き付いてくる動作。突然の挙動に不意を突かれ、反応することができない。


「良かった……」


 至近から覗き込むように見つめられる。澄み切った翠緑に芯まで貫かれているかのように動けずにいる中で、辛うじて気付くことができたのは、目元に浮かんでいる雫。


「本当に、良かった……!」


 回された腕に優しくしっかりと抱き止められる。……耳元に聞こえてくる微かな嗚咽。心の奥に、静かな温かみが広がった。


「……フィア。悪い」

「あっ――」


 俺の声を受けて気が付いたように離れる。瞳は先ほどより潤み、頬は少しだけ紅くなっていて。


「す、済みません。私……」

「いや……」


 居住まいを正して坐り直したフィアに言葉を濁す俺。……正直なところ、痛みと柔らかさとで色々と不味かった。


「……ここは? 俺は、確か……」


 脳裏に蘇る、学園を襲った『アポカリプスの眼』との戦い。エリティスさんに俺たちは助けられ、戦場から脱出した。記憶はそこで途切れているが、そのままならエリティスさんの家に運び込まれているはずだ。


「協会の治癒室です。黄泉示さんは重傷だったのでここに運び込まれて、治療を……」


 続けて話される事の顛末。……手助けを受けて一旦エリティスさんの家に俺と立慧さんを寝かせたこと、それからエリティスさんが再び学園へと向かって行ったこと。郭たち、賢王たちが続けて戻ってきたこと。俺と立慧さんの治療のために、協会へ戻ることを決めたこと。


「……そうだったのか」


 頷く。あの戦いは正しく俺たちと『アポカリプスの眼』との総力戦だった。フィアも殆んど力を使い果たしていたし、賢王や先輩たちでも治し切れないほどの重傷を負っていたのだろう。


「……立慧さんは?」

「大丈夫です。黄泉示さんと同じで、治療が終わって、今はまだ寝ていますけど」

「……そうか」


 一抹の安堵に連れてあの痛ましい姿が思い返される。……回復できたのなら良かったと、努めてそう思うしかない。今は――。


「――」


 不意に重ねられた掌に、思考が止まった。


「……フィア?」

「……本当に、良かったです」


 柔らかいフィアの手が、繋ぐように俺の手を握る。


「黄泉示さんが魔術を受け止めたとき、……本当に、怖くて」


 訥々とされる告白。


「初めは治癒も効かなくて。本当に、黄泉示さんが、し――……」


 そこまで来て耐え切れなくなったように、肩を震わせた。


「……済まなかった」


 握り締められた手を、力の籠らない手で握り返す。――守ることができた。


 そのことは確かだ。絶体絶命の窮地を乗り越えることができたのは、手に入れた力と重ねた訓練があってこそ。確かに俺は、今までよりも前に進めている。


 だが、まだ足りない。


 始めからあれだけの力が発揮できていれば。窮地に陥ることも、ここまでの傷を負うこともなかったはずだ。……もっと、強くならなくては。


「……黄泉示さん」


 目元の涙を拭い、フィアが俺を見る。その眼差しに、これまでとは違う吸い込まれそうな何かを感じて。


「私――」

「――おーうフィア!」


 威勢の良い声と共にドアが開け放たれたのは、俺とフィアが見つめ合っていたその瞬間。


「こ、困ります。棟内では静かに――」

「見舞いに来たぜ! ほれ、これ差し入れの林檎!」

「せめて部屋の中では静かにしろ。――カタストさん、蔭水の具合は――」


 紡がれた言葉が、止まる。


「――あ」

「お?」


 ぎこちなく振り返るフィアの目に映るのは、入口で動きを止めた二人。その後ろで同じく固まっている、治癒師。


「……済まない。取り込み中だったな」

「ああ……悪いな邪魔しちまって」


 バツの悪そうな顔を残して扉が閉まっていく。次第に二人の姿が見えなくなっていき――って。


「ち、違うんだ二人とも……!」

「ジェ、ジェインさん! リゲルさんも!」


 か細い俺の抗議の声を、飛び降り立ち所にドアを跳ね開けたフィアの挙動が掻き消す。――凄まじい勢い。


「お見舞いありがとうございます! ほら、黄泉示さんが起きたんですよ二人とも!」

「あ、ああ」

「見りゃ分かるって。そんくらい」


 中に入ってきた二人。俺とフィアの間で視線を行き交わし。


「……二人が恋仲なのは知ってんだからよ、そんなに慌てなくても良いんじゃねえか? 今更――」

「何か言いましたかリゲルさん⁉」

「――いやぁ、なんでもねえっす」

「ジェイン、リゲル」


 やり取りをしている前で一つ深呼吸。声を掛けることで気持ちを切り替える。……二人ともいつもと変わらない。


「蔭水。目が覚めたんだな、良かった」

「声が聞けて安心したぜ」


 まずそのことに安堵する。俺以外はどうにか無事で……。


「ま、いきなりフィアとあんな密着してんのを見たときは、正直びびったが――」

「――あ、私お水組んで来ますね! 少なくなっちゃってますし!」


 宣言して勢いよく部屋を飛び出して行く。〝お水の場所何処でしょうか⁉〟〝あ、案内します! こちらです!〟などと言った会話が扉越しに聞こえて来るのが、どこか生々しい。


「……リゲル」

「悪い悪い。なんか二人が揃ってるの見たら、嬉しくなっちまってよ」

「カタストさんも元気になったようでなによりだ。君が眠っている間、相当落ち込んでたみたいだったからな」

「……そうか」


 今更ながらに自覚させられる。フィアにもリゲルにもジェインにも心配をかけてしまっていたこと。寝ている間のことについて尋ねようとし――。


「……っ」

「おい、大丈夫かよ」


 少しくらつく感覚がして、頭を押さえる。駆け寄ろうとしたリゲルの厚意を手で差し止めて。


「……ああ。大丈夫だ」

「……騒ぎ過ぎたか? 済まないな……」

「いや、良いんだ」


 そこまで重い感覚でもない。予想通り、座ったまま楽な姿勢を保っているとくらつきは直ぐに収まった。


「……単にまだ体力が戻ってないだけだと思う。休んでれば治る」

「まあゆっくり休めよ。林檎食うか?」

「……いただく」

「うし、食欲があるってのは良いことだぜ」


 椅子にどっかと腰を下ろし、ナイフでスルスルと皮を剥いて行くリゲルの手際。……上手いな。俺のようにスパスパと皮が途中で切れたりすることがない。一繋がりの線のようになって、空から地へ下ろされていく縄梯子……。


「……そう言えば」


 盛りつけられた林檎を受け取って咀嚼しつつ、先ほどの疑問の続きを投げ掛けた。


「例の……『落陽』との交渉はどうなったんだ?」


 願わくば上手くいっていて欲しい。この状況下では、とにかく少しでも味方が増えて欲しかった。俺の言葉を受けて。


「そうだな。それも含めて、幾つか話しておくことがある」


 ジェインが腰を据える。今から語られるのは、俺が寝ている間に話されたこと。


「まず、落陽との交渉の件についてだが――」











「――どうしました? 葵さん」


 後方から投げられた声に応え、受話器を取った人物――櫻御門葵は身体を反転させる。


「治療練からの連絡です。蔭水黄泉示が、目を覚ましたと」

「本当ですか?」

「ええ」

「それは何より。一応の手間暇を掛けた手前、こんなところで死なれては困りますからね」


 頷いた葵の前にいるのは、賢者見習いである郭と二人の王。本来ここにいるべきでないはずの凶王も、二度目となればどことなく部屋の景観に馴染んできたような気がしてくる。……つくづく皮肉なものだ。秩序の柱であるはずの協会が瓦解し、滅世という最大の危機を迎えた後になって初めて、彼の理想の一部が実現されることになるとは。


「――話を戻します」


 再び郭に目を向けつつ、葵はソファーに腰掛ける。


「『アポカリプスの眼』は依然として全員が健在。対してこちらは二人が重傷を負い、一人が失踪」


 正面から合わせる双眸は、一入れで布地を裁断する鋭利な鋏にも似ていた。


「事情の方は分かりましたが、軽くない損害を出したことには自覚を持って下さい」

「……済みませんでした」

「子どもの言い分に踊らされて道を譲るようでは、指導者としては失格ですね。一層精進に励むことです」


 賢王の追い打ちに視線を向けたが、言い返すようなことまではしない。この辺りは以前と比べて本当に変わった。そう葵は内心で評価する。


「ですが良かったではありませんか。幸運にも一人の死者も出ることなく済んだのですし、被害も少なく抑えられたのでしょう?」


 打って変わった賢王の口調はどこか、愉しげだ。


「力無き民を守るのも協会の務め……組織の理念に殉じただけの話です。私たちからすれば至極下らぬ事柄とはいえ、一概に責められることでもないのではありませんか?」

「庇いだてしてくれるとは随分お優しいんですね。賢王」

「今なお無様振りを披露してくれている道化相手に、重ねて鞭打つのは酷というものでしょう。次回の余興も楽しみにしていますよ」


 火花を散らす二人に一人、溜め息を吐く。とはいえ賢王の言うことにも一理あった。魔術が一般人に害をなす形で用いられている場合、それを正し解決に導く責務が協会にはあるからだ。二人の支部長が当初は反対していながら結果として賛成に回ったことも、恐らくはそうした理念を理由にしてのこと。


「今の我らの肩には協会だけでなく、世界の命運が掛かっています」


 だから敢えて、少し卑怯な言葉を葵は選んだ。


「それだけは失念なきように。郭賢者見習い」


 ――結果だけを重視して見るならば、此度の郭たちの判断は正答に近い。


 事件に際し一早く行動して被害を押さえ、全員で死人を出すことなく帰還した。遂げられたのはその場にいなかった自分には為し得なかったことであり、それは協会の、延いては秋光の理念の体現でもある。……責められるはずもない。行動してくれたことに葵としても内心、感謝している部分があるほどだ。


 それでもやはり幸運によるところが大きいということを考えるならば、手放しで褒め称えるわけにはいかないと葵は考えていた。加勢が間に合ったことに必然性は皆無。同じようなことを繰り返す事態が、このさき万に一つでもあってもらっては困る。


「了解しました。葵特別補佐官」


 ――本当に変わった。


 一語も反論することなく頭を下げた郭の態度にやはりそう思わざるを得ない。レイガスの下にいた頃の郭ならばそんな判断は切って捨てていただろうと、葵には簡単に想像が付けられた。あの頃とは違っている。より大きく、強く、深く。……四賢者に相応しい器に。


 ――ならばその変化の危うさを諌めるのが、せめてもの自分の役目というものだろう。


「まあ叱責はその辺りにして。得られた成果について話し合おうではありませんか」

〝そうそう〟


 そろそろ飽きたのか、降ってくる冥王の紙片と共に賢王が取り成してくる。


「《十冠を負う獣》の意思確認に加え、情報が齎されたのは大きいことです。『アポカリプスの眼』についても、素地であれば此方の有利ということが確認できたのですから」

「蔭水冥希、アデル・イヴァン・クロムウェルのうち、どちらか一人は仕留めておきたかったところですがね」

「全くです。どこぞの誰かが《十冠を負う獣》を引きつけておかなかったせいですね」

「どこかの誰かが本気も出さずに遊んでいたからでしょう。全く困ったものです」

「……」

「……」

〝……ごめんなさい〟


 救援に入った学園での戦いにて、賢王と冥王は交戦相手の二人を取り逃がした。


 自供によれば実力的には不備はなかったが、中途で参戦した《十冠を負う獣》及びバロンの術技により盛大に横槍を入れられ、結果として逃げることを許したのだという。事情は理解できる。しかしやはり、そこで仕留めておければと思ってしまう感情があることは確か。


「全く……此方側に着く気があるのなら、せめて華やかに、堂々と裏切って欲しいものです。なぜあの場で反旗を翻さなかったのか、理解に苦しみますね」

「相手方を捉えて尋問すればいいなどと言っていたのは。一体どこの誰でしたっけ」

「何か?」

「空耳でしょう。齢を取ると増えますから」

「――貴女から見て、《十冠を負う獣》の実力はどうでしたか?」


 益体のない遣り取りを葵は切る。問いを受けて、〝凄かったよ〟と返した冥王。


〝例の変な鎖も持ってたし。まともにやりあったら、殺すのに苦労するかも?〟

「まあ、それについて言うなら追い風でしょう」

「そうですね」


 賢王と共に郭も頷く。内通者が相手方で上位の実力者であったことは率直に喜ばしい事態であり。


「これで落陽の協力を取り付けられていれば、言うことなしだったんですが」


 ――そう。


 葵たちが向かった『落陽』との交渉。冥王の手引きもあり手早く邂逅には漕ぎ着けたものの、肝心の交渉は敢えなく破談に終わらされた。


〝――悪いけど、パスかな〟


 話を聞いた相手方、『落陽』の首領の、それが第一声。


〝組織と凶王とは実に面白い依頼人。冥王の案件ともあれば、個人的には是非受諾したいところではありますが〟

〝……い、今は色々あるんです。依頼は無理です……〟

〝そうですね。今は僕たちも忙しい。それだけの金額を逃すのは惜しい話ですが、仕方ありません〟

〝――以上だ〟

〝お引き取り願おう。冥王ら殿〟


「想像以上の偏屈者たちでした。誰ですか。金で動く輩などと適当なことを並べ立てたのは」

「……」


 当然の如く葵は賢王の台詞をスルーする。郭もここまで見え見えの釣り針に対しては、敢えて掛かりに行く気も失せるようだった。


「放っておけば自分たちも死ぬと言うのに、何を考えているのやら。暗殺者の考えは良く分かりませんね」

〝私にも言ってる? それ〟


 舞い落ちる紙切れを賢王はスルー。とにもかくにも落陽との交渉は失敗したのだ。その線は望めない。現状で残る気掛かりなことは――。


「あの男についてなら考えぬ方が利口ですよ」


 黙考し始めていた葵に対し、賢王から飛ばされた一言。


「『逸れ者』の考えなど読めぬものです。増してやあの男ほど奔放な人間を、私は他に知りません。どうせ――」


 いつもの放浪癖が出たのでしょうと。ソファーに深く背を預けながら言う賢王に、葵は静かな瞳を向けて。


「気が向けば戻って来るでしょうし、向かなければ戻って来ないでしょう。今はただ、いないという前提で話を進めればいいのです」

「……」


 小さく息を吐く。エリティスがいるのといないとでは取れる行動の幅に大きな違いが出て来る。できれば知古である賢王の方に何か名案があればと思ったのだが。


〝メモの内容だけど〟


 フラットに戻した視界の端では、冥王が郭に話しかけている。


〝確認は進んでるの?〟

「一つ一つについて当たっています。他組織の承諾も取れましたのでね」


 十冠を負う獣のメモに書かれていた情報はどれも重要。裏が取れるまでは鵜呑みにして動くわけにはいかない。


「何があろうと悟られないようにとは頼んでおきました。時間はそれなりに掛かるかもしれませんが、背に腹は代えられませんから」

















「――決裂か」


 話を聞いて息を吐く。……味方が増えてくれればどれだけ心強かったことか。多少の期待があった分、思っていたより気落ちが大きいことに気付かされる。……まあ。


「仕方がないさ。最も可能性のある冥王が行って駄目だったなら、端から見込みは無かったと言うことだからな」


 それはそうだ。どちらにせよその場にいなかった俺がとやかく言えることでもない。この件については切り替えるしかないか……。


「あと、エリティスさんがいなくなった」

「――」


 そう思っていた矢先。衝撃的な内容に耳を疑う。……エリティスさんが?


「……どういうことだ?」

「覚えているか? 負傷した僕たちを、学園からエリティスさんが家まで運んできてくれたんだが……」


 頷く。ぼんやりとだがそのことは覚えている。問題は。


「その後学園の様子を見て来ると言ってエリティスさんはもう一度出て行った。その少し後に郭たちが戻って来たが、エリティスさんは暫く待っても戻って来なかったんだ」


 そのあとのこと。注意して耳を傾ける俺の前で、ジェインの口から話される事情。


「書き置きは残してきたんだが、まだ連絡のないところを見るとそれも読まれてはいないんだろう。……行方はおろか、安否も分からない」

「……そんな」

「一応賢王の話じゃ、殺られてるようなことはないだろうってよ。あの人は存在感を消せるわけだからな。その気になればこっちからだって見つかりようがねえ」


 そうかもしれないが。言いようのない不安が胸に湧いてくる。果たしてエリティスさんの身に、何があったのか……。


「単なる気紛れかもとも言ってたしな。ま、今気にしてもしょうが――」

「……僕が始めた話でいつまで話しているつもりだ? 貴様」

「一々みみっちいこと言ってんじゃねえよ。次は林檎じゃなく、てめえのそのうっすい髪の毛でも剥いてやろうか?」

「は? 見ての通り僕はふさふさなんだがな。やれるものならやって――」

「止めてくれ二人とも」

「あ、黄泉示さん――」


 ジェインから立ち上る闘気。リゲルの手のナイフが洒落にならなくなってきたところで、水差しを手にフィアが戻ってくる。時間を空けたからか、既に落ち着いた様子だ。


「治癒師の方が、説明があるって……」

「はい。――それと、そろそろお時間ですので」


 静かに入って来たのは馴染の白衣を着た治癒師。その目がリゲル、ジェインへと向けられる。


「よし、そんじゃここらでお暇するぜ」

「もう時間か。案外早かったな」


 二人して当然のように立ち上がる。……今更だが、面会時間が区切られるような重傷者と見做されているのか今の俺は……。


「またな、二人とも」

「おう、また来るぜ」

「次は別々にだがな」

「はっ、望むところだぜ」


 いつものような掛け合いと共に二人が歩いていく。去り際――。


「――あんま無茶すんなよ」


 首だけ振り向いたリゲルから飛ばされる、声。


「怪我はしっかり治して、病院内では安静にな」

「誰もお前に言われたくはないだろうが……とはいえ早い回復を願っている。蔭水」

「……ああ」


 フィアに言われたことが脳裏に響く。やはり二人にも相応の心配を掛けてしまっていたのだろう。思いと共に頷いて。


「じゃな! また来るぜ」

「失礼する」


 最後に軽く片手を挙げて。今度こそ、二人は扉の向こうへと姿を消した。


「……そういえば、フィアは良いのか?」

「え、あ、はい。私は――」

「カタスト様には治癒の心得がありますので。他の方より幾許か、面会時間は長めにしております」

「そうなんです」


 なるほど。治癒の心得のあるフィアなら、治癒師が付いているのと幾分似たようなものと言うわけか。


「では、蔭水黄泉示様の容態と今後の治療方針について説明致します。まずは――」



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