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第十七.五節 気紛れ

 

「……」


 ――響き渡る粉砕音。割れ散ったガラスと共に室内へ吹き飛んだ敵の身体を追い、アデルは速やかに目前の教室へと侵入する。つまらぬ矜持を吹き飛ばすつもりで繰り出した靠撃。結果的には手間を増やす羽目になったか。


 当たり前のように踏み倒した扉を下に――落下音が聞こえた位置へと目を向ける。弧を描くように並べられた机上に被さる人影。僅かに身体が上下していることからまだ息があるようだ。捨て置いても何れ死ぬような重傷ではあったが、止めを刺しておくのが無難であり常道。


 最後に確実な引導を渡す為、その身体が間近に見えるところまで近付いたアデル。片手で苦も無く素首を持ち上げ、喉を握りつぶそうと――。


「……いや」


 ――した最中。それまで思ってもみなかったとある考えが、アデルの脳裏に浮かび上がる。


 自らの子息を勧誘すると言っていた蔭水冥希。説得の材料としてまず思い付くのは仲間、親しい人間の命であり、恐らく同様の手を使うだろう。……今行動を共にしているはずの者。同じ学園に通っていた技能者ならその候補として申し分ないだろうが……。


 一度拒まれていることを考えれば、それ以外。今までに少なからず親交のある人間の命も、そこに加えた方がより効果的なのではないか。


 そう。例えば今、アデルの目の前にいるような。


「……」


 暫し黙考する。無論アデルにとってはほぼ益体の無い行動である。蔭水冥希の子息が同志として加入しようが、しまいが、そんなことは全く以て関わりが無い。自身の目的さえ果たせるのであれば他の出来事に特別な関心を払うつもりは無かった。


 だが――。


「――偶には、か」


 世界が終わる以前でこうした機会は貴重。ならば慣れない行動も悪くはない。そう、アデルは笑みを零し。


「――」


 立慧の身体を掴んだまま、教室の窓へ向かって跳躍する――。



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