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第三節 合流 後編

 

「……ふう」


 後ろ手に扉を閉めて、一息吐く。……後は時間の問題だ。体調が良くなるまでフィアにはゆっくり寝ていて欲しい。そう思いながら、話の続きを聴くため元の部屋へと戻ろうとした――。


「――よっ」

「っ、――リゲル」


 足が。ホールまで出てきたところで止まる。向こう側に見えるのはリゲルとジェイン。二人が既に、部屋の方にまで歩いてきていた。


「どうした? 話は――」

「あの後すぐ一段落してな。賢王と葵さんはまだ何か話すことがあるらしいが、それ以外の面子はひとまず解散することになったんだ」

「……そうなのか」

「おう。部屋割りも決まったぜ。俺らは前と同じくそこで、郭は自分の個室、賢王と冥王は別にそれ用の部屋を用意するってよ」


 言うリゲル。聞けば、出発の用意を整える為に一日だけこのまま本山に滞在することにしたらしい。賢王と冥王、エリティスさんがいれば大抵の強襲はどうにかなる。それでも居場所を特定されているのは不味いため、なるべく早めにエリティスさんの自宅へ移動するらしいが。


「フィアは大丈夫だったのか?」

「ああ。……今は中で寝てるはずだ」

「それなら安心だな。二人に続けて賢王も、大丈夫なような事を言っていた」


 なら猶更問題はなさそうだ。今一度安堵に胸を撫で下ろし。


「ところで――」


 一番気になっていたそのことを訊く。


「賢王たちは凶王派を上手く説得できたのか? さっきは三人だけだったけど、エリティスさんの家に――」

「――黄泉示」


 遮るジェイン。


「それについて賢王から話があった。良くない知らせだ」







「――全滅?」


 その後にジェインから聞いた内容は、にわかには信じたくないような話。


〝私たちが根城に到着した時には、既に事は終えられた後でした〟


 稀に見るような。いつになく苦々しい顔でそう言っていたという賢王。


〝私たちを追い切れなかったので別の方向から詰めを掛けに来たのでしょう。……私たちが不在で対処に集まっていたところを打尽にされたようです。ついては――〟


「増援は望めない……か」


 呟く。……数人であれば残っている人間もいるらしいが、目ぼしい人間は粗方死亡が確認できたということ。


「僕らと分かれていた間に葵さんも別の『逸れ者』や国家機関に連絡を取ろうとしていたらしいが、協力してくれないところがほとんどだったらしい。連絡が付かない所もあったそうだ」

「……それは」

「恐らくだが、『アポカリプスの眼』かレジェンドに潰されたんだろうということだ」


 告げられた中身に頭がくらつく。……完全に後手に回らされている。辛うじてそうか、と声を絞り出した俺に。


「ただそれでも一応方針は決まった。今後は――」

「――こっちから攻めることを考えてかなきゃいけないって話ね」

「――立慧さん」


 はい、と軽く手を挙げるのは立慧さん。どうしたのか。


「どうしたんだよ」

「入り用な物がないかの確認。あんたたちが脱出した後から触ってないわけだから大丈夫だとは思うけど、一応ね」


 ――ありがたいことだ。


「確認したのはフィアの部屋だけですけど、特別必要な物はないと思います」

「僕らがいなくなった時から変わっていないなら、ないな」

「だな」

「ならいいわ。あとあの娘の容態も確認しておきたいんだけど、どんな感じ?」

「――今は部屋で眠ってます。本人も横になったら少し具合がよくなったと言っていたので、多分大丈夫だと」

「そ。なら良かったわ」


 どことなく安心したような雰囲気。ついでのように言っているが、此方の方が本命だったのかもしれない。


「――あんたたち、凶王に、あの変質者と一緒にいたのよね」


 何だかニュアンス的に、凶王よりも後半の方に重きが置かれている気がするが。


「大丈夫だったの? あの娘とか特に」

「大丈夫です。……賢王と冥王が見張っていてくれたので」

「……なんか大分慣れてるのね。相手はあの凶王だっていうのに」


 ちょっと羨ましいわ、と口にした立慧さんに、気になっていた事柄を尋ねる。


「……それでその、こっちから攻める、って言うのは?」

「ああ、そのこと?」


 何でもないと言った風に立慧さんは軽く応じ。


「単純な話よ。いつまでも攻められてばかりじゃどう考えても不利じゃない。こっちは毎度毎度不意打ちされて、相手はゆっくり体勢を整えてから攻勢に出られる。それを覆すためには、私たちの方からも仕掛けてく必要があるんじゃないかってこと」

「敵の拠点が分からない現状では厳しいがな。攻めようにも攻められない」


 それはそうだ。攻め込まれる側が不利だというのは分かるが、改善は……。


「それでも時間制限があるのはこっちの方だし、現状だと相手に守りに入られたら負けになるから。それまでに敵の居所を探して叩かなきゃならないのよ。協会のネットワークでも探し出せない相手を」


 ジェインの言葉にそう言って、立慧さんは深く息を吐いて。


「全く勘弁してほしいわ。昔『永久の魔』に挑んだ連中だって、多分ここまで理不尽な状況に置かれてた訳じゃなかったわよ。賢王は釣り出した相手を一人でも捕まえて吐かせればいいって言ってたけど、そう簡単に事が運ぶとも思えない。世界を滅ぼそうって連中よ? 捕まりそうになったら死ぬくらいのことは平気でしそうだし」


 ……そうか。口にされた内容に思わず息を飲む。そこまで考えが及んでいなかったが、相手はそこまでの覚悟を持ってきているかもしれないのだ。……父も。


「それにまず捕えるってのが並大抵のことじゃないわよ。あんだけの力を持った連中を生かして捕まえるのがどれだけ難しいか、あいつらに分かってるのかしら……」


 呆れ果てたように頭に手を当てる。……賢王の事だ。他のメンバーの事は大して考えず、自分たちならそれができる、くらいのつもりで言ったのかもしれない。


「……『アポカリプスの眼』に、俺たちに協力的な人間がいるって言う話は、どうなったんですか?」

「……本当にあいつが味方なら心強いわ」


 実際に戦ったからこそ力量が分かるのか。渋い顔をした立慧さんは思案しながら言う。


「でも、今の段階じゃ本当にあいつがこっちの味方なのかどうか判断できない。もし罠だったりしたら逆に一網打尽で全部終わりよ。……リスクが高過ぎると思うわ」

「《十冠を負う獣》が本当に僕らに好意的だったとしても、積極的に働きかければ却って動くのが難しくなる。向こうから何かしらのコンタクトを取ってくるのを待つしかないだろう」

「ま、早い話――」


 リゲルが、総括するように。


「今までと何も変わんねえってことだろ? 要するによ」

「そうね。変態……エリティスのお蔭で安全な拠点を築けるようになったのは大きいし、賢王と冥王が味方に付いたのも大きいんだけど」

「なら、今は力を蓄えとくしかねえだろ。いつ襲われても大丈夫なようにってな!」


 バシリと胸の前で手と拳を打ち合わせたリゲル。その動作を、立慧さんはまじまじと見つめ。


「――あんたたち、なんかちょっと変わった?」

「……え?」

「雰囲気とか、気配とか。前よりちょっと、落ち着いてきた感じがするんだけど」


 ……どうだろう。


「賢王たちに、色々と修行を付けられたので……」

「そのせいかもしれないな」

「ん……そうね」


 自分では今一つよく分からない。戦えるだけの力を身に付けたことで、何か変わっているのだろうか?


「ま、取り敢えず今日は休みましょ。あたしらもあんたらも一戦交えて来たばっかりだし、あんたの言う通り、英気を養っといた方が良いわ」


 そういえばそうだった。他に考えることが多々あったので気にならなかったが、言われると思い出したように痛み始める身体の各所。『破滅舞う破滅者の円環』により引き出した力の後遺症、初の実戦で受けたダメージは決して軽くはない。動かした腕に、鈍痛が走る……。


「そうだな。僕も久々の実戦で、少し疲れた」

「俺も必殺技を使っちまったからな……。あの大男との戦いも中々良い運動だったしよ」

「そういうこと。早く休みなさい。私もそろそろ部屋に戻るから」


 ヒラヒラと手を振って去っていく立慧さんを見送りつつ。俺たちも、部屋の方へと歩き始めた。












「ふう……」


 終月を脇に置き、ベッドの上に一人転がる。視線の先には、真っ白な天井。


「……」


 やはり存外疲労が溜まっていたようで、横になった途端身体が重さを増したような気さえしてくる。特に予定は無いと言っていたし、このまま寝てしまっても問題ないだろう。そう思って目を閉じた――。


「……」


 しかし。


 ――直ぐには眠れない。疲れているはずなのだが、それ以上に頭に浮かんでくる様々な考えが眠りに落ちるのを妨げている。……これからのこと、先輩たちのこと、そして――。


「……」


 あの時の。セイレスに向けて【一刀一閃】を放ち、刀身がその身に届き掛けた時の事が思い返される。


 ――そうだ。


 力が入ったことで浮かれていた。視界が眩み、他の事へ気が回らなくなっていた。戦えるだけの力を得る。それはつまり――。


 ――傷付ける選択肢を、得たということ。


 あの男にも、永仙にも、父である蔭水冥希にも。


 俺の刃は届かなかった。届いたとしても、命を奪うだけの威力を喰らわせることはなかった。……相手は常に圧倒的な格上。俺が相手を殺すという、そんな可能性は万に一つもありはしなかったのだ。


 だがこの呪具。『破滅舞う破滅者の円環』を手に入れたことで、その差は多少なりとも縮まった。……今の俺が振るう終月は、時と場合によっては相手の命に届く。届いてしまうかもしれない。


 ……人を、殺す?


「――」


 一瞬。己の打ち込んだ刀身が血に塗れている様を幻視する。……両手が震え出す。俺のこの手で。【一刀一閃】で。終月で、誰かを――。


「……っ」


 ――考えるのは後にしよう。


 殺すか殺さないかなどすっぱりと決め切れるものではない。それに。


「……」


 フィアの身に起きたあの現象が今は気になる。当人ですら覚えていない強力な力の行使。永仙を前にして固有魔術に目覚めた時でさえ、フィア自身の意識ははっきりしていた。いや、寧ろ当人の意識があって、強い思いを抱いたからこそその力に目覚めたはずで。


 しかし今回の件に関しては、フィアは自分の使った力に対して自覚がない。覚えてさえいなかった。呟くような形で言葉こそ発していたが、だとすれば半ば無意識か、夢遊病に近いような状態であれだけの魔術を撃ち放ったことになる。セイレスを圧倒するような力を……。


「……」


 ――眩い光だった。


 柔らかな印象を持つフィアの固有魔術とは違っていた。なにもかもを白一色で塗り潰そうとするような、そんな只々凄まじい輝き。


 ……成長なのか?


 これまでに上がれなかった階段を一気に駆け上がるような。若しくはフィアが秘めていた才能が、ここに来て更に開花しつつあるのだろうか。


 どちらにせよ喜べないことではないはずだ。今俺たちが置かれている状況では力はどれだけあっても足りず、フィアがあれだけの力を秘めていたとすればそれは素直に頼もしい。そう感じて良いはずなのに。


 どこか薄く掛かる霧のような、不安に似た曖昧な感情が消え去らない。……フィア当人に自覚がないというたったそれだけで、こんなにも得体が知れなくなってしまうものなのか。


「……」


 ――とにかく。


 努めて自らに言い聞かせる。今は先輩たちと無事合流できたことを喜ぼう。特別補佐官である葵さんも加わり、俺たちも『アポカリプスの眼』の二人をどうにか撃退できた。状況は少しずつ、しかし着実に良くなっている。これからも良くなっていくはずだ。きっと――。


「……」


 瞼が次第に落ちてくる。手製の希望で心境を照らしつつ。


 俺は、徐に眠りへと落ちて行った……。


 

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