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第二.五節 冥希たちのやり取り

 

「――皆、お疲れ様」


 壁際に灯す炎で照らされた洞窟内に、明朗な男の声が響く。――ヴェイグ・カーン。


「……」


 その声を耳にして黙したまま……蔭水冥希は岩壁に背を持たれ掛けていた。見る者が見ればその佇まいが決して疲れや寛ぎから来るものではなく、牙を研ぎ澄ませた獣のように張り詰めた気に満ちたものであることが分かるだろう。


「『アポカリプスの眼』と『伝説(レジェンド)』」


 居並ぶのは見知った面々。冥希を始めとしたアポカリプスの眼のメンバーに、ヴェイグが喚び寄せた三人のレジェンド。共にヴェイグの下に集う同志。


「君たちの協力のお蔭で、この時代の大勢力を壊滅させることができた」

「……」


 それでも両者の間に流れている空気は決して心地の良いものではない。……自分たちとて決して雑兵ではないが、それでもやはり比較して異質な存在感を放っているのはレジェンドたちの方だ。仮に戦闘になった場合、実質的に対抗できるのは自分を含めた半数だろうと冥希は予測していた。そのような事態が起こるとは考えていなかったが、起こり得る可能性である以上、想定しておく必要はある。


「そして予定通り――」


 冥希たちを目にして話していたヴェイグの視線が、そこで自らの隣へと移る。


「――彼、『永久の魔』を復活させることも」

「……」


 示された当人。『永久の魔』は沈黙したまま。ただ其処にいるだけ。――それだけでも充分過ぎるほど明瞭に発せられている威圧感こそが、伝承と寸分違わぬ特大の脅威であることをこの場にいる全員に告げている。


「ここまでの計画は全て順調だ。これから僕は鍵を手に入れに行ってくる。いつ戻るかは未定だけどなるべく遅くならないようにしよう。その間の仕事だけど」


 再び戻されるヴェイグの視線。


「アポカリプスの眼には残った抵抗組織の排斥に動いて欲しい。目ぼしいところを潰して行ってくれればそれで充分だから」

「……分かった」

「レジェンド……君たちには、法陣の設置を頼みたい」

「……ああ?」


 告げられた内容に黒騎士が不満げな声を上げる。


「そっちの連中には処理を任せといて、俺たちは邪魔者の排除じゃねえのかよ」

「もうこの時代での大敵は斃してあるからね」


 隙あらば噛み付くような視線にもヴェイグは一切動じずに答える。


「残っているのは万が一を考えれば消しておきたいくらいの技能者だ。三大組織の幹部でも物足りない君たちには、そっちの方が詰まらない仕事だと思うよ。法陣の設置は地味だけど、一つ一つを確実にこなしてもらう必要がある」


 語る目つきは穏やか。そこでふっと頬の力を抜き。


「もし本気で僕たちの邪魔をしたいと思っている人間がいるなら、まずそっちを狙ってくるだろう。少しでも不備があってもらっては困るし、だからこそ君たちに頼みたい」

「――ならしゃあねえな」


 全てを話し終えられると、黒騎士はあっさりと掌を翻した。


「……私たちの意見は訊かないんですね」

「お前らはどうせやるだろ?」

「まあそうですけど」


 不満を零した女性。艶やかなその出で立ちにそぐわぬ中身を持っていること、冥希は既に知っている。


「実際の行動はヤマトが戻ってからでいいよ。――よし、こんなところかな」


 最後に一度、質問がないかと言うように全体を見回して。


「じゃあまた。次会う日まで全員、どうか元気で」









「――三千風はどうした?」


 一人。姿が見えなかった人物に、冥希は尋ねる。


「あのお坊ちゃんならホテルにいるわよ。腕を失った痛みで、今頃は悶え苦しんでるんじゃないかしら?」


 ――そう。


 三大組織との決戦。幸いにしてというべきか、アポカリプスの眼のメンバーの殆んどが重傷もなく帰還する中、一人、三千風零だけが違っていた。……左腕の消失。


「腕さえあれば直ぐにでも治してもらえたのに。離脱を急いだせいで、手痛い失態を犯したわね」


 補佐官によって切り落とされたと言う傷を冥希も目にしたが、切り口は滑らか。セイレスの言う通り、落とされた腕さえあればヴェイグによって再び繋ぐことは充分可能だっただろう。……三千風零はそれをしなかった。できなかったのかどうかは問い質さなければ分からないことだったが……。


「――おや」


 冥希たちの間に、割って入ってくる声。


「失態だなんておかしいね。君の方こそ、そんなこと言えたものじゃないんじゃないかな?」

「ッ、媛神……っ」


 静かな足取り。声の主を目にした、セイレスの顔が憎々しげに歪む。


「そんな怖い顔をしないでおくれよ。役に立ったんだろう? 僕の送ってあげた魔獣は」

「……っ」


 言葉もなく口を閉じたセイレス。黙るしかない彼女に、冥希は内心で冷ややかな視線を送った。


 ――島での戦いにて機関の№1を相手にしたセイレス。前回の翻弄から勢い込んで臨んだ対決だったが、内容はあからさまなセイレスの敗北。相手方に立てられた対策と後衛との連携。対峙して詳らかにされた力量差に、セイレス一人では『アポカリプスの眼』の力を借りてなお如何ともし難かった。


 本来ならば五体無事で此処にいられたかも分からず、死んでいた可能性さえ濃厚。それが叶ったのはヴェイグによる迅速な永久の魔の出現と、それまでの間を稼いだ文の魔獣のお蔭。


「……この借りはいずれ返すわ」

「できれば僕個人じゃなくて、皆の為に返してくれると助かるね」

「まあ、まずは休息だな」


 結果として自らの格の低さを露呈した形になる。それでもここで意固地になって言い返すほど愚かではない。舌戦の決着を目にして、執り成しに近付いたのはアデル。


「流石に組織の相手をするのは労苦だった。二日三日ばかりは休みが必要と思うが」

「賛成だ。私も、武器の手入れをしたい」

「いいね。――零には折を見て、僕から訊いておくよ」

「任せる」


 続けざまにバロン、文が賛同する。年代が近く、その辺りの手心を分かっている文ならば伝達役には適任だろう。ひとまずはこれで――。


「――何やら面白そうな話をしてるじゃねえか」


 一区切りだと。そう判じた冥希の思考を耳障りな鎧の音が遮る。


「俺も混ぜてくれよ。退屈してたんだ。こっちの時代に来てから、雑魚ばっかでな」

「ガイゲ――!」


 黒騎士。抜かりなく応じようとした寸前、セイレスが仕出かしたいきなりの失態に舌を打つ。……このレジェンド相手に叫び声を上げるなどと。


「……おいおい」


 冥希の推測に違わず。セイレスの発言を聞き咎めたような黒騎士は、芝居がかった大仰な身振りを展開。


「なってねえな。――誰がてめえに、俺を呼び捨てにして良いっつった?」

「……っ‼」

「――」


 威圧感を伴った殺気。後ずさりしたセイレスを庇うように、前に出たバロン。


「……貴公たちの実力は存じている」


 言葉通り。力量差を理解しているバロンの、その対応は慎重だ。


「その武勇も。だが思う所はあれど今は同志。互いに任せられた仕事に掛かるべきだろう」

「なんだ? んな(なり)して良い子ちゃんかよ。デカいのはそのガタイだけってか、木偶の坊が」

「――止めておけ」


 続けて言葉を発したのはアデル。警戒の中にもやや笑うような声音を含みつつ。


「我々の目的は滅世だ。その悲願を果たす為にも、今は仲間内で争っている場合ではないと思うが」

「大抵の障害を片付けちまった今がか? てめえも教会の関係者みてえだが、そんな理屈が俺に通用するとでも――」

「――アデルの言う通りだよ」


 なおも止まることをしない黒騎士に対し、文が手厳しい表情で叱責を放つ。


「実力に差があるとはいえ、僕たちはヴェイグの下に集った同志だろう? それとも騎士団を率いていたはずの《誅滅の黒騎士》さんは、そんなことも分からないのかな」

「――ああ?」


 効果は覿面。黒騎士の視線がギロリと文へ向く。


「ガキが随分と嘗めた口利いてくれるじゃねえか。ちっとはマシなようだが、果たしてそれでどこまで――」

「――止めたらどうですか? ガイゲ」


 一触即発まで緊張が高められたところで。――漸く、レジェンドの身内から制止の声が掛けられた。


「貴方のお目当ての人間は、始めから動くつもりがないみたいですよ」

「……《死神》」

「はぁい、お嬢さん」


 何時の間にか近くに現われていたのは若々しき殺し屋の姿。瑞々しいその肢体から香り立つ、衣服を身に付けていても隠しようのない艶めかしさを前にして、文が構えを取る。ガイゲと相対するより以上に警戒したような態度に構わず手を振ってくる死神。同志のそんな素振りに軽く目線を遣った黒騎士の。


「――そうみてえだな」


 注意が自分へと向けられていることに、事の始めから冥希は気が付いていた。……故に、下げた刀の握りに手はやらず。


「とんだ腰抜けだ。戻って寝るとするぜ」

「クールですね貴方。――嫌いじゃないです」


 興味が失せたように呆気なく背中を見せて去っていく。その後ろに続く死神から遣られるのは蠱惑的な視線と笑み。長い睫毛。潤んだように光を放つ瞳が、半ば強制的にある種の情念を掻き立ててくる。自らの魅了にも動じないさまを目にして。


「でも、もう少し熱があった方が魅力的なんじゃないですか?」

「……」


 送られた含み笑い。――去っていく死神。大きく開けられた背中から目を逸らして、冥希もまた踵を返した。



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