第二十七節 残り火 前編
「……意外に早かったな」
現われたヴェイグ――『永久の魔』の姿を目にし、冥希は呟く。戦局を確定させる要素。
処理した後は手古摺っている他へも参じようと思っていたが、あの二者が出て来た以上役目はないか……。
「――待てよ」
二人の方向へ歩み出そうとした矢先に届く一声。予測はしていたその声掛けに、躊躇うことなく冥希は振り返る。
小太刀と直刀を手に構えているのは、東。先に負わされた損傷を今の間に回復したのか、その全身からは再び傷が消え失せている。『永久の魔』による波動の影響も見受けられない。……足下の地面に刻まれた裂傷。あの小太刀は有機物だけでなく、無機物に対しても傷を移動させられるということか。
「どこ行こうとしてんだ? ……まだ、勝負は付いちゃいねえ」
戦いの大勢が既に決した――。そんな状態でなお気概を喪わない猛獣のような瞳に、咎武罪装状態である冥希は一切の起伏を伴わない視線を以て答えと成す。
「……お前たちの命運は既に尽きた」
抑揚のない台詞。東と違い元より一片の汚れさえ負わされていない身が物語るのは、両者の間に横たわる力と状況の差。
「私が手を下すまでもない。『永久の魔』によって、お前たちは全滅する」
先の一撃で半壊したとはいえ、決して組織側が壊滅した訳ではない……その程度の事は手に取るように分かっている。下は定かではないが、少なくとも幹部クラスならあの攻撃だけで絶命に至るということもないはずだ。
尤も冥希の目の前にいる東がそうであったように、無傷という訳にはいかない。……生き残ってはいるだろう。但しそれなりの手傷と消耗を負った上での生存であり、その点は自分たちと比べて明白な格差。そもそも『永久の魔』とヴェイグが戦線に現われた時点で、勝ちの目など消えていて当然なのだ。
「『永久の魔』が、どうしたって?」
その宣告を東は、どこまでも気丈な態度のまま切り捨てる。
「俺とお前。この戦いの決着は付いちゃいねえ。……そう言ってんだぜ、冥希」
「……」
この戦い。冥希と東のそれに焦点を絞ったとしても、既に勝敗は決したも同然。
状況の変化は『永久の魔』とヴェイグの出現に依るものだけではない。……《赤き竜》の力を受け、【咎武罪装】を発動したその時から――。それまでは大方同格と言えただろう東と冥希との間には、圧倒的と言えるだけの差が横たわっている。気概や運などでは埋め様のない、決定的過ぎる力の差が。
「――ウラッ‼」
東が踏み込む。迎え撃つその無意味さに嘆息しながらも――。
「……」
迫る東の姿を一瞥して。冥希は、手に持つ黒刀の切っ先を上げた。
「チィ――‼」
撫で切るように放った【壱の閃】。それを寸前で回避する東の動き。即座に攻撃へと転じる東を、冥希はどこまでも感情のない目線で見遣る。
「お前とて、理解くらいはできるはずだ」
鬼気迫る渾身の攻め――。それを今や、冥希は世間話でもするかのような平然さで話し掛けながら、完璧に撃ち落とすことができるだけの力を持っている。
「この世界は犠牲を必要としている。かつて救えなかった命や、あの戦いで死んだ紫音のように」
魔術で行動域を狭め、そこに【弐の薙ぎ】を加えた【絶花】を繰り出す。複数の斬撃で勢いを殺し、魔術に身を掠らせながらもその一刀を躱す東。だが刀身が当たらずとも、最早その身を撫でた風圧だけで身体には浅くない傷が刻まれる――。
「それらを消し去るために私はこの道を選んだ。――お前が本当に私や紫音に責任を感じているなら」
七重八重と撃ち放つ風雷の矢。螺旋を描くそれが数発、東の身を抉っていく。
「邪魔をするな、東」
「……っ」
即座に振るわれる小太刀。一振りで大半の傷を癒し、移し終えた後にもう一振り。計二回の所作でその身から完全に損傷を消し去って見せた。……やはり効力の回数に限界はないのだろう。次までに時間を要するということもなく、それ一つで継戦能力を大幅に上げられる性能は正に夜月の宝刀の名に相応しい。
東は退き、冥希は手を止める。――両者の間に再び生まれる間合い。暫しの沈黙が、二人の場を支配していた。
「……あいつらはどうなる?」
荒い呼吸と共に。東はあくまでも問い掛けてくる。
「黄泉示や俺はともかくとして。……エアリーや、レイルたちまで殺すってのかよ?」
「――そうだ」
用意していた返答は間髪入れず。その言葉に東は一瞬、吃驚したような面持ちを見せて。
「……そうかよ」
飲み込んだ。次の瞬間に起きた変化を見止め、冥希の脳裏の内で嘆息とも付かぬ響きが零れた。
――漸くか。
宣告を受けずとも。戦いの初めから、東に自分を殺すつもりがないことを冥希はよくよく理解していた。攻撃に含まされた殺気こそ本物であるとはいえ、それはあくまでも戦いの場に立つ者が携える自然な気迫。東の真意はどこまでも、自らを止めることにあると。
レイルとエアリーにしてもそれは明らか。東たちはまだ、自分を仲間として扱おうとしている。……十年も前の昔。とうに過ぎ去ったはずの日々を拠り所として。
「……お前も私も、あの頃とは違う」
――断ち切らなければならない。
自らの意図を確認しつつ、冥希は思い描く其処へ向けて全てが動くように言葉を紡ぐ。一片の緩みもなく。
「本気で来い。――東」
「……」
殺気と共に送った眼差し。応じるのは深く、噛み締めるような面持ち。
「……なら本気で行くぜ。冥希」
東の纏う覇気が変わる。……その決意も遅過ぎるほどだ。十年前のあの日から、自分はとうに殺すつもりで事を進めているというのに。
「――」
冥希は粛々と東を注視する。その目に宿るのは確かな闘志。……ここまでの力の差を体感しながらも東が戦意を失わない、その態度の理由は分かっている。
――残された切り札。六刀の最後の一振りであるそれを、東はまだ抜いてはいない。敢えてこの時まで切らなかったのだとすれば、それは東が一縷の勝機を託すに相応しい能力を持つものなのだろう。今の自分に対し、勝機を見出せてしまうくらいには。
先の読める戦況ほど虚しいものはない――。内心でそう独り言つ。それでも、可能性がある限り東は挑むことを止めないことを。感情を抜きにしたただ単純な事実として、冥希はよく知っていた。
――良いだろう。
心の機微無くして思う。この期に及んでまだ勝機があると信じるならば。
無きに等しいその希望に全てを託し、この身に向かって来るがいい――。
「――フッッ‼」
その思考に応えたかの如きタイミングで東が動く。妖刀に依る強化を後押しに、全身を発条として撃ち放つは『銀蘭』の投擲。幾重に張り巡らせた障壁を貫通して突き進むそれを、【弐の薙ぎ】を用いた【絶花】により冥希は正面から迎撃する。……【咎武罪装】に加え強化魔術を用いた今の一刀の威力はそれ以前の比ではない。許容量を遥かに超える衝撃を受けて、切っ先から微塵に砕け散る『銀蘭』――。
――一つ。
「――」
その陰から『夢桜』の刃が迫る。不可視、猛速。とはいえ、今の冥希にはその変則的な軌道さえ手に取るように分かっている。生み出した光弾を矢の如く飛ばし、比較的脆い可動部を寸断。注意を引く意図で投げ放たれたと思しき柄は光弾の一つと衝突し、その複雑な機構を全て火炎の中へと葬り去っていく。
――二つ。
「――ッ‼」
その間に弾幕を断ち割りながら接近する東――。諸手にて繰られるのは最剛の一太刀である『紅桔梗』。巨大なその刃が魔術を切り裂く度、秘められた力が増大していくのが伝わってくる。――必殺を期すに相応しい威力。
「【壱の閃】――」
全霊を掛けて繰り出された六刀最強の一刀。数十の斬撃を重ねた【無影】によりその刀身を両断し、力が乗り切る前に無力化する。――刃が鋼を通過する手応え。……三つ。落ちる『紅桔梗』の刀身を意に介すことなく、冥希が残る妖刀へ視線を向けた――。
「――」
瞬間。見慣れぬ一振りの刀身が、その冷めた視野の中に映り込む。刀身には幾つもの傷が見え、最も覇気を感じない刀身。
――来たか。
同時に東の手に取られるのは先ほどの妖刀。瞬時に起こした爆炎の内に姿が飲まれる。……背に突き刺された小太刀。
その力で常の回復状態にあるようだが、その回復に限度があることはこれまでの観察から知れている。――致死を二度重ねればいい。焼き尽くすほどの火炎を切り開いて突貫する東――‼
「――ッッッ‼‼」
浴びるほどの血を重ねたことにより最大限度まで強化された身体能力と切れ味。妖刀が魔力を帯びた両の刃と刹那に打ち合い剣花を散らす。――五合七合。得体の知れない左の太刀にはその刃すら触れさせぬまま、鬼神もかくやのその猛連撃を完全に捌き切り。
「グ――ッ‼」
刹那に披露したのは片手打ちによる【夜霧】。崩しを含んだその一刀が頑強なはずの手甲を容易く断ち割り、血飛沫と共に走る手首の痛みに東が妖刀を取り落す。――ここ。
「――」
流れるように移る技は決まっている。……微かな憂慮すら残さぬよう、放つのは今の自らにおける最高の一太刀――。
――【終の刃】を以て蹴りを付ける。
「――っ‼」
目を覚ます。飛び起きるように上半身を上げ、辺りの状況を見回す。
整えられた調度品。清潔さの保たれた寝具に、辺りを満たすどこか厳かな雰囲気。その何れも東には見覚えが無かった。ここは一体……。
「――お目覚めになられましたか」
「!」
カーテンの向こう側から現われる女性。反射的に構えを取ろうとするも、得物がない事に気付いて動きが止まる。素早く走らせた目線。見渡せる範囲にそれらしき影はなく。
「……誰だ?」
結果としてそう問い掛けるしかなかった。……とはいえ、その数瞬で東はある程度落ち着きを取り戻していた。姿を見せたその女性の出で立ちに、見覚えがあることを思い出したからだ。
「聖戦の義所属の、しがない一信徒でございます」
やはり――。東の記憶を裏付ける言葉。頭を下げた女性が身に着けているのは、初めて会った時のエアリーが着ていたものと酷似している。
「ここはどこだ? どうして俺はここに?」
そのことに多少の安堵を覚えながらも、警戒は完全に解かないまま重ねて問いを投げ掛ける。フリーの技能者である東は本来三大組織と良い関係とは言えない。今回は組織側の要請に応じて動いていたといえ、それだけではこの状況下で警戒を解く理由とはならなかった。
「ここは聖戦の義の治療室。『アポカリプスの眼』との戦いで瀕死の重傷を負った貴方様をエアリー様がここまで運び、今日まで治癒を施していました」
「……そうか。礼を言う」
謝辞を述べつつ、内心意外な事実に驚く。……エアリーが自分を運んだ? そんなことをするのは秋光か、精々永仙辺りだろうというイメージがあるが……。
「……! 今は何日だ? あの戦いからどんだけ経った?」
「『アポカリプスの眼』との戦いの後、貴方様は四日間眠り続けていました。世界の敵を討伐されたことに我々としても感謝と賛辞を――」
「んなことはどうでもいい」
女性の台詞を遮り、東は訊く。組織とやらは相変わらず面倒だ。舌を打ち掛けた脳裏に浮かび上がってくる光景。……そうだ。確かにあの時、紫音に乗り移った『十冠を負う獣』が自分を――。
「他の奴らはどうした? 俺以外に、討伐に参加した――」
刻々と鮮明さを取り戻す情景に、半ば突き動かされる様な心境で問いを重ねた――。
「――全く」
――その中途。部屋のカーテンが開き、呆れたような声と共に見知った顔が姿を現す。
「漸く起きたかと思えば、何でもかんでも質問ばかり。子どもですか、貴方は」
「……エアリー」
口を突いて出るのは目の前の女性の名。――エアリー・バーネット。東と共に今回の討伐に参加した一人であり、ここ聖戦の義の幹部、十二使徒に名を連ねる一人でもあった。
「下がって構いません。後の経緯は私から話します」
「はい。ヤコブ様」
「ご苦労でした」
エアリーの言葉を受け、女性は礼儀正しい所作でカーテンの向こう側へ去っていく。……遠ざかるその気配が完全に消えるまで。東もエアリーも、互いに一言も発することはない。
「……さてと」
完全に二人きりになったことを確かめて。緊張を解くように、エアリーが息を吐いた。
「――心配しましたよ? あれだけの大怪我を負って、しかも治った後も四日も目を覚まさないんですから。……本当に、一時はもう駄目かと思いました」
「……悪い」
そう返す。普段何かにつけて言い合っている間柄とは思えぬ反応だが、瀕死の身をここまで運び入れて貰った借りがある以上、強くは出られない。感謝すべきことでもあり、その点を茶化すような真似はしないと東は断じていた。
「……今はお前だけなのか?」
「聖戦の義ですからね。『救世の英雄』と雖も、許可が無ければそう簡単には立ち入れません。各々事後処理や何やらで忙しくもあるみたいですし」
「……『救世の英雄』?」
場違いな単語に眉を顰める。
「今回の一件で、私たちに授与された称号ですよ」
聞かされて漸く、あの戦いが終わったのだとの実感が湧いてくる。――文字通り世界の危機を救う偉業を成し遂げた者たちに贈られる称号。世界三大脅威を退けた人間の証として今までにも知識として幾度か耳にしたことがあった。まさかその称号を自分たちが名乗ることになるとは思いもしなかったが。……負傷して今更目覚めた自分が、そんな大層な号を持つとは何とも言い難い感触ではある……。
「――そうだ。紫音はどうした?」
そこまで会話を進めて。当初信徒にぶつけていた疑問を思い出す。
「俺が此処にいるってことは誰かが紫音を止めてくれたんだろ? ……永仙辺りか? 下手撃ったせいで済まねえが、そいつに礼と、紫音、冥希にきっちり詫びを――」
「――」
「……?」
エアリーの表情に射した影。自分の知る彼女ならば滅多に見せないであろうその気色に、疑問が先立つ。
「……東」
重い声が自身の名を呼ぶ。
「気を確かにして聞いて下さい」
痛みに耐えているような面持ちを崩さないエアリー。……疑問が不安へと変わる。彼女が自分に対し、何を告げようとしているのか――。
「紫音は、命を落としました」
「――は?」
間抜けな声が上がる。……紫音が、死んだ?
あの紫音が――。
「……っ」
思わず何かを言おうとして――言葉に詰まる。……目にしたエアリーの悲痛な面差しが、語られた内容が紛れもない真実だということを明確に伝えていたからだ。
「……誰だ?」
内容の真偽を問う代わり。東の口からは、それに付随するもう一つの問いが零れ出ていた。
「誰が、紫音を受け持った?」
――受け持った――。覆い隠した言い方に自分でも皮肉気な感想が浮かぶ。……受け持った、などと。何が起きたのかは、告げられた言葉からだけでも充分に理解できることだろうに。
「……」
暫し。エアリーは口籠る。――聞いてはならない。仲間が見せた態度に、脳裏で直感がそう警告してくる。その名を耳にすれば間違いなく、自分は今まで通りではいられない。
だが、聞かなければならない。同時にそうした強い確信があった。そうでなければ、俺の――。
「……」
東と視線を合わせ、なおも躊躇う様な素振りを見せたエアリーだったが。
「――冥希です」
何かを思い切るように。一瞬の溜めの後、一度にその名前を吐き出した。
「――」
思考が止まる。意識が、真っ白に塗り潰されたように感じられる。
言葉を失うとはこういうことなのかと言う下らない感想が、頭の片隅で弾けて消えた。
「貴方が紫音を乗っ取った敵に殺され掛けた時、その場に駆け付けることができていたのは彼だけでした。……私たちは自分の戦いに手一杯で、冥希と共に戦いを終えた永仙も私たちの方に――」
目の前で続けられる説明も、今の東には届かない。……予想できていたはずだ。既に心のどこかで分かっていたはずだ。だがそれを現実に、誤魔化しようもなく突き付けられたという事実。それが如何ともし難い衝撃となって、東そのものを揺さ振っている。
「……っ……」
「……東?」
押し黙り――蒼褪めた表情に異変を感じたのか、話を止めたエアリーから掛けられた声。
「――俺の、せいだ」
膝上で強く組み込ませた両手の指。堪えるという選択肢すら浮かばないまま、包み隠さぬ心境が口を突く。
「……俺があの時、蹴りを付けた気になって気を抜かなけりゃ」
「……」
掌の空洞に叩き付けた言葉に応答はない。端から応えなど期待してもいない。数秒の沈黙の後――。
「――」
顔を上げた東は立ち上がる。……四日間眠りこけていた影響か足はふらつくが、歩けるなら問題はない。
「――東?」
掛けられた声を無視し。カーテンを潜り抜け、着のみ着のままで部屋の外へと出る。目の前にだだ広く続く廊下。人気のないそこを、風の流れを感じる方向へ歩き出そうと――。
「東!」
その間際で。追い付いてきたエアリーに、道筋を塞がれた。
「……退けよ。エアリー」
「どこへ行くつもりです?」
――通さない。眼差しからあからさまな意図を突き付けられ、東は不本意に足を止める。
「――あいつに会う」
先ほどと同じように。その言葉は意外なほどすんなりと、自分の中から口にすることができた。
「会って、謝らねえと……」
譫言のように。エアリーの身体を押し退けて。なおも進もうとした東の腕を。
「――待ちなさい」
力強い掌が握り締めた。暖かく柔らかな、エアリーの左手が。
「……離せよ」
反応はなく。指に込められた力だけが、回答を示している。
「……貴方が今会ったところで、それが彼の助けになると思いますか?」
「んなことは分かってる」
「なら――」
「分かってんだよ‼ んなことは‼」
行き場を無くした思いを破裂させるように。肺腑が張り裂けるような声量で、東は叫んだ。
「当り前だろうが‼ 俺がどれだけ取り返しの付かないことを招いたかなんざ、俺みてえな馬鹿でも嫌ってほど分かる‼」
掴まれた腕を振り解くように払い除け、それでも離さないエアリーに、忌々しい激情を込めた眼を向ける。
「それでなんだ? それだけのことをやらかしといて、綺麗なベッドで気持ち良くおねんねしてろってのか⁉」
エアリーは一言も返さない。目を逸らさないまま、東を見つめていた。
「あいつらは俺のダチだ‼ それなのに、そんだけのことをしでかしたなら――!」
声が止まる。いつの間にか喉の奥から吐き切っていた息は、なおも胸を突く思いを言葉に変えることを許さずに。
「……何が何でも、謝らねえといけねえだろうが……」
「……」
静かに垂れ下げられた腕は力なく。エアリーの手を振りほどくだけの余力は、最早残されていなかった。
「……」
「……東」
沈黙する東に対し、エアリーが腕を離す。
「……彼は私たちに、一人にして欲しいと言いました」
エアリーから告げられた友の言葉。それでもなお、東に返す言葉はない。
「信じて待ちましょう。謝罪や贖罪は、その後でも遅くないはずです」
……分かっているからだ。自分のこの衝動がどうしようもなく身勝手で、強引で、それ故にどうしようもないものなのだと。
「……っ」
「……東」
再び。腕でなく手を取ったエアリー。正面から見つめる彼女の前で。
――東の目元から。一粒の、涙が零れた。




