第二十五節 レイガスの戦い 後編
――瞬時。
「――っ」
僅かに目を見開く。ガイゲの口元から、直前まであった嗤いは既に消えている。
「……あら」
「……コレ」
二者もまた、その身に纏う雰囲気を変える。三人の眼前で起きた、あからさまな変化。
――消えていた。数瞬前まで彼らの目の前にいたはずのレイガスの姿が、影も残さず、何の前触れも発すること無しに。
「……ほう」
ヤマトと同じく辺り一面に視線を走らせた、ガイゲが声を漏らす。
「ただの老いぼれかと思ってた割には、少しはやれそうじゃねえか」
楽しむような口調。取るに足らないと思っていた玩具に意外な一面を見出した時のような、純粋さに溢れた期待がそこにはある。
「誰が行く?」
「私は見物させてもらいます。騎士サマのお手並みを見たいので」
「ドッチデモイイ」
「そうか。なら俺がやるぜ。……考えてみりゃ、魔術師を狩るのも久し振りだ」
特別やる気を示さない二人に代わり、抜身の剣を携えたガイゲが一歩前に進み出る。
「――あんた、あのガキの師匠か何かか? さっき見せられたのより数段上の技術だが――」
虚空に話し掛けるガイゲ。言いながら室内のあらぬ一点を見つめ――。
「所詮どっちも、子供騙しの張りぼてに過ぎねえ」
――反転。その所作を見止めることもできないほどの速さで、側方の空間を貫いた。
「ガハッ……!」
「上がりだな」
届く苦悶の響き。突き出した剣身に確かな手応えを感じ、ガイゲは目に見えないその標的を床に引き摺り落とす。聖宝具である『処刑者の聖剣』にガイゲの膂力を以てすれば突き通せぬ人体など存在しない。布が擦れるような音と鈍い衝撃。流れ出る血流と弱まる鼓動を剣越しに味わいながら、ガイゲは術が解除されるのを待ち――。
「……何?」
不意の消失感に、思わず声を漏らすことになる。……消えた。
肉を貫いている感触も、剣に纏わりついていた重みも。確かに標的を引き摺り倒したはずの場所には、始めから何も無かったかのように存在するものがない。
「あっはっは! ちょっとガイゲ、笑わせないでください――!」
「ガイゲ、シクジリ……?」
「うっせえな! ならお前らもやってみろよ!」
「くく……仕方ないですね……」
呆れ果てるような口調。しかし表情は変えず、死神はそのしなやかな指先を僅かに曲げ。
「――そこです」
その姿が揺らいだかと思った一瞬、目にも留まらぬ速さで繰り出された右手が枯れ木のような首筋を捉える。見えないはずの標的に断末魔の一声さえ上げさせることなく、それでも過つことなく首をへし折った死神の手。命の灯火を消し去されると同時に力を失った肉体が、硬い床に倒れ込むその音――。
「――あら?」
一瞬後。仕留めたはずの標的が消えた事実に死神は眉を顰める。……この距離でも分かる。老人の死体が出来上がっていたはずの場所には、既に何ものも在りはしない。絶命と共に飛び散ったはずの唾でさえも、その痕跡を徹底的に消し去っている。
「……エイ」
それとほぼ同じくして。新たに現われた標的に対し、ヤマトが手にした刀を振るったが――。
「……?」
壁ごと両断したはずの対象が床に落ちる瞬間まで残っていない事実に、やはり小首を傾げさせられることになる。今一度辺りを見回し。
「ほら見ろ。お前らだって外してるだろうが」
「……マボロシ」
「こっちの感覚を完全に騙すレベルの幻術ですか。意外ですね」
続けざまに自分たちの置かれた状況を認識したヤマトと死神。最初にその異変に掛かったガイゲも当然、その事態についての把握は済んでいた。
「五感を化かしに来る術師は多かったが、生命の気配まで誤魔化せるとは大した芸当だぜ」
楽しむようにガイゲは言う。――レイガス・カシア・ネグロポンテ。
現魔術協会でリア・ファレルに次ぐ古株であり、それでありながら四賢者の座に就いたのは最も遅く、望む大賢者に一度もなれなかった、そしてこれからもなれないであろう彼を人は力量を認めつつもどこか皮肉気な視線で見送る。
その無自覚の悪意はしかし、ある意味でレイガスという術師の根本を本人たちも気付かぬ内に捉えていたと言っていい。魔術師としての才覚で見た場合、レイガスは現行の他の四賢者と比べ明らかに一段格が落ちるのだ。彼の昔を知る者がいたならば、なぜ四賢者になれたのかを訝しんだだろう程度には。
特別な血筋を持って生まれた訳でもない。才能という点でも劣っている。そんな彼が、魔術師の集積地たる協会において日の目を見るに至ったただ一つの理由。
――それは、凡そ不断とも言える妥協の無さ。
魔導の道を志した頃。まだ少年だったその時から、レイガスは自身に才能がある訳でないことを自覚していた。特別に劣っている訳ではないが、しかし優れているわけでもない。極めて平凡な素質を与えられ、それでもなお魔術師として限りなく上に行きたいと願った。――ならば、どうすれば良かっただろう?
それについてレイガスの場合を言えば、彼はまず自らの得意を探すことから始めた。……山を張ることもなく一つ一つの分野を虱潰しに当たる愚直な作業。気の遠くなるような試行の果てに見つかったのは、治癒と幻術の二つだけ。そんな結果にも彼は落胆することなく、休むこと無しに次の段階へと脚を進める。得意と分かった二つの分野。そのあらゆる術式を知識として自らの脳に叩き込んだのだ。
知識として定着したとしてもその術式が扱えるようになる訳ではない。知識を技術として定着させるには訓練と実践が必要であり、彼は此処でも立ち止まることなくそれに着手した。……小さなものから少しずつ。
一片の誤りもないよう、誰の目から見ても完璧と呼べるように会得し尽くしてからより大きなものへと進んでいく。当然そんな態度に比して習得の速度は遅く、掛かる時間は他の魔術師と比較して限りなく長かったが、それも彼にとって然したる問題となることは無かった。自らの歩んでいるこの方法が正しいのだとの、強い確信があったためだ。
通り過ぎた後には微細な砂粒一つ残さない。異常と言えるまでの執念で自らの行為を徹底してその過酷に過ぎる道程を歩み続けた彼は、年月が経つに連れて他の魔術師から一歩抜きん出た人物となっていった。身に付けたものの正確性は段階が進むごとにその意義を少しずつ大きくしていく。――数十年の時を経て、彼は自分の選び取った道が正しかったことを証明するまでに至る。
そんな彼の魔術には、当然独創的な発想など込められているはずもない。扱う魔術も術式も全て既存という枠組みを出ず、術理を説明されて理解できない者は本山にはいないだろう。
――しかし特筆すべきなのは、他に類を見ないほどの正確性と厳密性。
得意が治癒と幻術であったからこそ、いや、それ故にその二つが得意であったと言う方が良いのかもしれない。培われた知識と技術は容態の分析と治療に於いてミスを犯さず、現実と何一つ変わらないかのような幻を構築するまでに至る。新たな分野の発展こそ行えないが――。
既存の魔術と術式の取り扱いにおいて彼の右に出る者は一人もいない。それこそがレイガスを四賢者足らしめ、その座を保たせている理由だった。
「……」
自らの居場所を悟られぬよう細心の注意を払いつつ、レイガスは標的の動向を窺う。……中核となっているのは【モルペウスの夢】。指定した対象と寸分違わぬ虚像を生み出す幻術に生命魔術のスパイスを加え、有機体が対象であってもその差異を見破られないように取り繕う。口にすれば容易いことだが実際にはそれを可能にするために千百を超える工程が存在し、各工程に髪の毛ほどの誤差も許さぬような精緻な魔力操作、制御が求められている。
見る限りレイガスのこの試みは効力を発揮しているようだった。……レジェンドたる三人に対し、少なくとも今のところは。
「――」
それを確かめてレイガスは次の手に取り掛かる。生存を確保した状態から、攻めの一手へと――。
「伊達に歳は食ってねえってことか……」
呟いたガイゲ。――刹那にその身を狙い別々の方角から放たれたのは、三筋の閃光。
「おっと」
「なんですか、これは――」
ガイゲに続き死神、ヤマトも閃光を避ける。魔導の道には凡そ縁のない二人だったが、その観察眼と直感は自らに向けて放たれた光に二種類のものがあることを明確に見分けていた。……そのどちらも、床や壁に当たりながら何の変化も及ぼしはしない。
「敵の息の根を一発で止める呪文だな。似たようなのを昔見たことがある」
「それは分かりますけど。もう一方は――」
「精神に干渉する術の類……精神破壊の術か何かじゃねえのか? んな感じがするしな」
「……コワイ」
事も無げにガイゲは言う。幻術については言うまでもないことだが……。
治癒魔術は基本的に対象に損傷を与えることは出来ず、攻撃に生かすには意図的な過回復によって対象の肉体を損壊させるくらいしか手段がない。それも本来治癒用に作られている魔術に余分な魔力を注ぎ込んで強引に攻撃へと転用する無理のある手法である。他の攻撃系魔術と比べて燃費と効率が著しく悪く、急場凌ぎの苦肉の策、意表を突く為の奇策としてでしか使えるような場面はない。つまり額面通りに受け取れば、治癒魔術と幻術を得意とするレイガスは単体での攻撃手段を持ち合わせていないことになってしまう。
しかしそれは、治癒魔術のもう一つの側面に気付かぬ者の犯す誤りだ。肉体を癒す術に長けているということは、多少の応用さえ利かせられればそれを逆の用途に転じることができるということでもある。他の魔術の様に外部からの破壊でなく、内部、生命機能根本の破壊を齎すことが。
そして肉体面と同時に、幻術を得意とすることから精神面での治癒にも長けたレイガスにとって、それを更に一段階発展させることは造作もないことだった。肉体的な死を与える魔術と、精神的な死を齎す魔術。その二つがレイガスの主要な攻撃手段であり、また唯一と言える攻撃法でもある。
「……」
幻術により自らの存在と生命の気配を完全に隠匿しながら、レイガスは標的たちを俯瞰する。術師の居場所を掴めず、完全に術中にある状態。凡そ誰の目からしても不利と言えるような状況に置かれながらも、黒騎士たちには一切の焦りがない。
その所以を求めるならば、即死に精神崩壊、現に齎す効果が字義の上では恐るべき内容であるにも拘わらず、これらの魔術は実際の戦闘においてそこまで有効な決定打となることは少ないという事実が挙げられる。――何故か?
外的に相手を殺傷する呪文と違い、これらの術理が及ぼす影響は内面、即ち術を受けた側の抵抗力が大きくものをいうことになる。相手の生命力が高ければ高いほど、精神力が強ければ強いほど、これらの魔術が退けられる可能性は高くなり、従って仕留められる可能性は低くなる。
格下が相手ならばそのことは大した問題とならない。人間の生命力や精神力など大部分は似通ったレベルのものであるし、レイガスの術式もまた当然ある程度の抵抗を想定して作られている。それらが相手ならばレイガスのこの呪文は正に悪魔的と言って良いほどの猛威を振るい、被術者が気付かぬ内にその生命と精神を破壊し尽くしてくしていただろう。
しかし、同格以上……特に今回のようなあからさまな格上が相手である場合、話は大きく違ってくる。
長年の経験からレイガスは対峙した相手の生命、精神面での強靭さをある程度見抜くことができた。――この三人の場合はそれが異常なまでに高い。先に干渉系統の幻術を試みた時に気付いたことだが、まず精神面に関しては全員がそれぞれ妙な護りを備えている。後の二人の詳細は不明として、黒騎士のそれは間違いなく最高位の加護……。鎧に付与されたものだろう。それによって精神に干渉する術の威力は大きく軽減される。
生命力に対しても同じこと。黒騎士は単純に値が馬鹿高く、直撃したとしても即死に追い込めるかは多分に怪しい。……残る二人については、やはり何かしらの特殊な護りが備わっているようにレイガスには感じられた。――自身の知識を以てしても看破できぬ特異な防護。生来的に会得した能力だとすれば破ることは困難を極める。最大限に効力を高めるため、見て取れる直線状の光線に範囲を限定した今であっても――。
「……」
基本の成功率は二割を切る。このまま続けたとしても果たして成果があるかどうかは疑わしく。
――いや。レイガスは自身の直感を追認する。……答えは、既に見えている。
「――」
魔力を完全に押し留めた詠唱。発動中の幻術に働きかけ、レイガスは周囲の造形を変化させに掛かる。――果てのない荒野、波打つ大海、闇の支配する洞窟――。止め処なく目まぐるしく映る光景を移し変え、回転し、傾け、揺さ振り、考え得る最適の箇所から紛れるようにして二種の光線を乱れ撃つ。
「ははっ! ちっとは面白くなってきたじゃねえか!」
「まあ、楽しくないこともないですけど」
「ガイゲ、ウルサイ」
それを球遊びでもしているかのように、事も無げに三者は躱していく。最初に有ったはずの僅かな揺らぎでさえ、今は欠片も見出すことができなかった。……望めるはずもない。先に見極めを終えた段階でこの状況は彼らにとって理解の範疇にあるものとなった。初見という最大の好機を逃した今、この三人に攻撃が当たることはなく。
「……っ」
それを理解していながら、レイガスは術を打ち出す手を休めない。……自らの愚かさを磔にするように、後先など考えることなく魔力を注ぎ込む。彼の目に見えているのは、ガイゲたちであってガイゲたちではない。
――悪い冗談だ。
心の内でそう呟く。九鬼永仙と凶王が手を組んだのは、三大組織を結託させ『永久の魔』の復活を阻止するため? ……些か皮肉が効き過ぎている。協会を裏切ったあの時から、既にそのことを見据えていたとでも言うのだろうか?
なおもレイガスは魔術を手繰り、閃光を撃ち走らせる。……同盟の誇示、不可解な襲撃。その全てが一つの真実の下に連なり、頭の中で否応なく繋がっていく。紛れもなくそれが事実なのだと、誰の目からしても納得せざるを得ないほどに。
「……」
だがレイガスはそれを認めない。認めるつもりも無かった。例え自分がどれだけ本当だと思おうが、間違っていることはある。そんな益体のない論理に思惟を委ね、レイガスは懸命にそれを拒絶する。
――いや。
今となっては。レイガスには最早、そうする他なかったのだ。
「ッ! グアッッ‼」
「やっと捕まえたぜ」
瞬時。魔力の制御が僅かに乱れた隙を逃さず、黒騎士の剣がレイガスを捉える。――背面を走る激痛――。久しく味わっていなかった痛みと血の感触も、レイガスの心をそれ以上に動かすことはない。
「……おいおい。焙り出してみりゃもう死に体じゃねえか。余程てめえの魔力を削ってたと見える」
床面に頭をぶつけ。額からボタボタと垂れ落ちる血溜まりの中に、反響する黒騎士の声。
「ま、短時間とは言え俺たち全員を幻術に嵌めてみせたんだ。それくらいの代償は必要だろうがな」
それでも強化法を用いて可能な限り素早く動こうとした――レイガスを切り付ける剣閃。脇腹から流れ出す緋色。鮮烈なその痛みにまたしても動きがぶれる。
「……ぐっ……!」
冷たく硬い床を無様に転がりながらレイガスは必至で距離を離す。……まだ幻術が完全に解けた訳ではない。幾許かの猶予さえあれば、魔力を補充し直ぐにでも――。
「させねえっての」
「――ッ‼」
目にも留まらぬ挙動で距離を詰め終えた黒騎士から放たれた蹴り。展開していた数枚の障壁を薄板でも割るかのように突き破り、一撃を難なくレイガスの身へ届かせた。
「――ゴハッ……!」
打ち付けられ、喀血と共に昏倒する。ボールの如く吹き飛ばされたレイガスを迎えたのは堅固な石壁。激突と数メートルの高さから落下した衝撃とで、視界が眩む――。
「……ッ」
――それでもなお、レイガスは立ち上がった。激痛に震え、辛うじて身体を支えている状態ではあるものの……確かに己の脚で、真っ直ぐに。
「……これまでの奴もそうだったが……」
そんなレイガスの様を見て何を思ったか、やや呆れたような仕草で問い掛けてくる黒騎士。
「そうまでして俺たちの前に立ち塞がって何がしてえんだ? 勝ち目がねえなんて、とっくに分かり切ってることだろうが?」
「……」
「弟子どもは無事逃げた。もう、守るようなものもねえじゃねえか」
「……黙れ」
「あ?」
不意に告げられた暴言に、ガイゲが眉を顰める。
「――ここは、魔術協会の総本山だ」
年老いた身を起こし、レイガスは手負いの身とは思えぬほど朗々と語る。
「九百年の長きに渡り魔術師たちが己の拠り所としてきた場所……お前たち如きが、土足で踏み入って良い場所ではない」
「……何だ? 突然妙なことを言い出しやがって」
黒騎士の面持ちにあるのは怒りや嘲りと言うより困惑。
「血を流し過ぎて頭がどうにかなっちまったか? よく見てみろよ!」
剣を逆手に、大仰に手を広げた。
「お前らは俺たちと『アポカリプスの眼』に壊滅させられる。てめえが後生大事に守ってきた場所なんざ、とっくのとうに崩れ落ちてんだよ」
「……それでも、だ」
レイガスは、背負うその重みを噛み締める。
「それでも私は、この場所を守る」
思い起こされるのは、あの時リアと合わせた拳の感触。
「それが私の、約束だからだ」
「……」
「……話にならねえな」
押し黙る死神の横で。黒騎士が、舌打ちするように吐き捨てた。
「もうちょい遊べるかと思ったが、そろそろ限界らしい。耄碌した哀れな爺に……」
再び順手へ。構えられた剣身が殺意に光る。
「引導をくれてやるとするか」
――自分の道が、間違っていたとは思わない。
レイガスは思う。……自身の行いは確かに真実の一面を突いていた。秋光のそれは結果として真実であっただけに過ぎない。彼の考えは何処までも甘く、己の思惑はどこまでも現実的。どれだけ揺るがされようとも、その点はやはり否定しようのない事実だ。
だが、それ故に――。
可能性を捨て、その先に別の道があることに目を瞑った。嫌悪と怒りで瞳を独りでに閉ざしていたことに、今此処に至るまで気付けなかった。
気付こうとすらしていなかったのだ。自分にとってはそれが全て。それだけを信じて、自分はここまでやって来たのだから――。
「……っ」
襲うぐらつきに踏み止まる。血を流し、よろけそうになる身体を、二本の足で支えながら。
……郭。
思い起こされるのは生涯でただ一人関わりを深くした弟子の姿。出会いからこれまでの修行、模擬戦の寸前までが唐突に脳裏へと蘇る。
――自分は、間違えていなかっただろうか?
支えとなる何かを少しでも与えられただろうか? これから彼女の歩む道のりを歪めず、正しく照らすことができただろうか?
どうか、願わくば――。
「……」
自らの敵を見据える。そんな感慨にふける余地すら、今のレイガスには残されていない。……周囲に充填される魔力。確かめずとも分かる。ここが、自らの死に場所であると――。
「……さあ、行くぞ」
止めようのない血を流しながら。レイガスはそれに向かい、歩を進めた。




