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※旧版につき閲覧非推奨 彼方を見るものたちへ  作者: 二立三析
第一章 新しい日々の始まり
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第十三.五節 秋光と葵

 

「――お疲れ様です」


 執務室に返ってくると同時に、聞き覚えのある声が秋光を出迎える。


「……(あおい)か」


 机の脇に佇む人物を見定め、秋光は言う。――櫻御門(さくらみかど)葵。


 秋光と同じく元日本の退魔機関『祓紋の八家』から協会に属している術者であり、若くして四賢者の特別補佐を務める身でもある。年若さとは裏腹にその魔術の腕が抜きん出ていることは言うまでもないが、何よりもその落ち着いた思考力と分析力を秋光は高く評価していた。流石、元は軍師の家系と言われる櫻御門家出身といったところだろうか。


 これであとは合理性だけでなく、情を含む大器を身に付けることができたなら充分に次代を担っていけるだろう……とは、秋光が声に出さないながらも日頃から抱いている感想であった。


「首尾はどうでしたか?」


 唐突にそんなことを訊いてくる。……直ぐにでも知らせようと思っていた事柄だ。補佐官である彼女に対してであれば隠し立てをする意味もない。


「概ね順調だ。執行機関は多少ごねたが、聖戦の義の賛同が存外に速かった。……早めに対処すべき問題と言うことで、協力体制の樹立を取り付けてきた」

「ということは、他の二組織も?」

「ああ。調べ通り、どちらも相応の被害を出しているらしい。やはり正体も掴めていないとのことだ」

「……」


 その答えに葵は押し黙る。――そう。


 先日魔術協会の支部長を襲った、姿の見えない襲撃者。そのあとの調べで二組織の行動を洗ってみたところ、両組織共にこの近日中、やはり準幹部級の構成員に被害を出していることが新たに分かったのだ。


 加えて覇王派の反秩序者による領域侵犯が三大組織共通の問題となっていたことが、今回秋光が緊急の協議を開く上での建前として機能した。ファビオが殺害されてから数日後、相次ぐようにして他の二組織も覇王派の技能者による強襲、或いは侵犯を受けたとの報告が入ったのだ。


 幸いにしてそちらの方では大した実害は出ていないらしい。……無論こちらも然るべき対処を要する案件ではあるが、危険度から言えば準幹部級に実害を出しているもう一つの方が優先順位が高い。


「彼らも調べでこちらに被害が出ていることを知ったのだろう。それで、比較的話し合いもスムーズに進んだわけだ」


 とはいえ、会議の場でそういった旨の発言が出たのは、あくまで秋光が情報を正式に開示してからの事。長らく互いを警戒し合うような関係が続いてきたことでこうした事態の際に迅速な協力体制の成立が望めないことは、秋光が憂えていることである。


「敵は、外部というわけですね」

「そうだな」


 秋光にとって一先ず安心させられたのはそのことだった。魔術協会の情報網を掻い潜れる組織、術者と言えば数えるほどしかいない。


 その中で最も近くにいるのが、魔術協会を含め『三大組織』と銘打たれる他の二組織。キリスト教勢力の集積たる『聖戦の義』と、表の国際組織としても名を馳せる『国際特別司法執行機関』。


 三大組織として共に秩序を保持する側に数えられてはいるものの、成立を問えばこの三組織は本来いつ矛を交えてもおかしくない間柄。支部長殺害に当たり、この二組織の関与を疑うのは当然と言って良い。とはいえ。


 あくまで可能性として疑うのであり、そうであって欲しいなどとは秋光も思っていない。組織力が同等なこの二組織のどちらか、或いは双方が相手となれば魔術協会とて苦戦は必至。


 凶王派を筆頭とした反秩序者たちの動向も視野に収めながらの戦闘となり、一言で言ってしまえば果てしなく複雑で面倒な事態になるのだ。それを回避できたことは魔術協会の舵を握る者として、取り急ぎ秋光にとって喜ばしい出来事であった。


 ――しかし、そうも言っていられないのが現状である。


 三大組織の内輪揉めによる事件でないことが分かった時点で、この事件の首謀者は自ずとかなり狭い範囲にまで絞られる。


 そしてそこにおいて想定できる相手のことを思えば……秋光とて、状況を楽観視するわけには到底いかなかった。


「誰だと思われますか? 今回の敵は」

「……」


 その問いに秋光は沈黙する。……可能性を考えるなら、挙げられる主な候補は一つしかないが。


「……その答えは、確証を得られてからにしよう」


 秋光としてはそう返すよりない。実質的に回答を先延ばしにした秋光に対し。


「……分かりました」


 珍しく。葵もまた緊張を以て頷いたように、秋光には思えた。


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