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第四節 嵐の前の

 

 それからさらに二日後。


「――うっし」


 抜けるような白の患者衣から一転して。黒々としたスーツに身を包んだ、リゲルが右腕を叩く。引き締まった小気味いい音。


「良い調子だぜ。流石に少し、鈍っちまってる感じもするけどよ」

「それなりに快適だったな。今日からはまた自分で本を持ってこなければならないのかと思うと、少し残念だ」


 病室から出られた開放感を確かめるように身体を動かしている二人。送り出してくれた担当の治癒師が、実に晴れ晴れとした表情を浮かべているのが印象的だった。何はともあれ……。


 ――これで漸くいつもの、と言った感じだ。


 ここ何日間かは、どこへ行くにしても一人かフィアと二人きりだった。……やはりこの二人がいないと、少し静か過ぎるような気もする。単純に考えれば越してきたばかりの頃に戻っただけの事なのに、もうそんな時の事さえ忘れてしまっているかのような感覚。


「――で、何するよ?」


 治癒棟を抜け――戻ってきたところでリゲルが言う。


「見た感じじゃあ、まだ結構どこも忙しいみてえだし。手伝いでもするか? 瓦礫くらいなら退かせんだろ」

「いや――」


 二人がまだ治癒室にいる間、俺とフィアで既にそういった旨は申し出てみていた。あちこちに広がる破壊の跡を目にして、何もしないと言うのは違った気がしたからだ。しかし。


「私たちも言ってみたんですけど、どこでも断られてしまって……」

「なるほどな」


 曰く、これは自分たちの仕事だからと。一応まだ預かりということになっているらしい俺たちに手伝いを頼む人間は誰もいない。そう言われて無理に加わるわけにもいかず……。


「マジか。んじゃ、益々どうすっかだな」

「ああ……」


 ……今も。


 この数日である程度気持ちの整理が付いた後になっても。……俺の中では、父の事が未だに嫌な音を立てて燻っている。……なぜ。


 かつて自ら倒したはずの『アポカリプスの眼』に所属しているのか。本当に、本気で世界を滅ぼすつもりなのか。


 幾つもの問いが頭の中を巡っている。できれば今すぐにでも会って、訊き出したいことばかりだ。だが――。


「……黄泉示さん?」

「……あ」


 意識に入るフィアの声。此方を見つめる視線に気が付き、思考を切り替える。


「悪い。少し、ぼうっとしてた」

「流石に何もしない、というわけにもいかないな」


 俺たちの様子は気にしないように、先ほどからの話題を続けるジェイン。顎に当てられた手。


「なにか少しでも、できることがあればいいんだが――」

「――貴方たちにできることなんてありませんよ」

「――っ」


 不意。水を差すように斜め上から唐突に投げ込まれてきた声。この聞き覚えのある憎まれ口は――。


「――郭さん」

「お、よう郭」

「……馴れ馴れしく名前を呼ばないでもらえますか」


 郭だ。階段から降りてきたその顔は、俺でも分かるほどムスリとしている。普段の余裕綽々然とした表情はどこへやら、こちらを睥睨する目には今にも溢れ出しそうな不平不服の光。いつにも増して不機嫌そうだが。


「……どうしたんだ?」

「俺に分かるかよ。なんか今朝から機嫌悪そうだったんだよな、あいつ」


 その様子に思わず訊いたリゲルと話す声を潜める。というか、この機嫌で今日の朝も見舞いに行っていたのか。何だかんだ言って随分とマメな。


「聞こえていますから。下手糞な繕いは、されるだけ癇に障りますね」

「ええと、その……」

「――いい加減にしろ」


 適切な対応を選びかねているようなフィアのあとから。威嚇するように眼鏡を光らせて、鋭い言葉を放つのはジェイン。


「苛立ちのままに建設的でもない横槍を入れられるのは迷惑だ。朝から八つ当たりされた側としては――」

「あーあー、やめとけよジェイン」


 中途での思わぬ仲裁。素早く反論しようと口を開いた郭との間に入ったリゲルが、何やら口元に手を当ててひそひそと話す。


「……郭だって女なんだから、機嫌の悪い日の一つや二つあるだろうが。ああいう怒りっぽい奴と付き合ってくには、こういうところで気遣わねえと――」

「――死にたいんですか?」

「死ぬつもりなのか?」


 バッチリ聞かれた上に二人から突っ込まれている。同じ言葉を口にするその声の温度には、大分大きな違いがあったが。


「そんな下らないことで苛ついてるんじゃありませんよ。身体的な気分くらい制御できないようでは、賢者見習いとしての名が廃ります」

「んじゃ、なんでそんな苛々してんだよ」

「それは……」


 言い淀んだ郭は一瞬、ぶり返してきた屈辱に耐えるように歯噛みして。


「……今回のメンバー候補から外されましてね。彼と直接蹴りを付けられる、良い機会だと思っていたんですが」

「メンバー?」


 なるべく平静を保って口にした。……ものの、語られた内容に俺たちとしては覚えがない。フィアも、リゲルも。


「いや、なんの話だよ?」

「なにって……」


 そこで焦点を合わせ、疑問符を浮かべる俺たちの顔を見て、郭は気付いたように。


「……ああ。そう言えば貴方たちは一応は部外者なんでしたね。余りに長く此処にいるので、忘れ掛けてました」


 わざとらしく〝一応〟にアクセントを置いて言う。何やらイラッとくるような、これ見よがしな溜め息を吐いて。


「近いうち、『アポカリプスの眼』との決戦に臨むメンバーですよ」

「――っ⁉」


 その用意の出来ていなかった俺たちの間に、爆弾級の発言を落としてくれた。――『アポカリプスの眼』との決戦?


「……それは、どういう」

「――丁度そのことについて尋ねたいと思っていた」


 理解が追い付かないでいる俺の前で。ある程度その展開を予想していたように、冷静さを保つジェインが率直に訊く。


「三大組織と『アポカリプスの眼』を巡る情勢は、今現在どうなっているんだ?」

「……そうですね」


 話すかどうかを判断したのか。一瞬考えるような目付きをしたあと、郭は話し始める。


「まず初めに言っておきますが、事の詳細については僕も知りません。事件当時――」


 その時の状況を思い出したのか、口元に浮かんだのは僅かに自嘲気な笑み。


「僕は本山の外にいましたし、今回メンバーから外されましたからね。分かっているのは現状の『アポカリプスの眼』が近年ではトップクラスの手強さを持つ技能集団であることと、その目的がかつてと何ら変わってはいないこと」


 そこでやれやれと言う風に手を広げ。


「即ち世界の破滅です。――馬鹿をやる連中というものは、いつの時代でもいるものですね」


 呆れたように鼻から息が抜ける。……世界の破滅。父が言っていた……。


「相手方の場所は掴めているのか?」

「さあ。特にそう言った話は聞きませんが、上は何かしらの確信があるようですよ。期日をある程度明確化して動いていますし、討伐部隊も三大組織での合同です」


 ――三大組織の合同。あっさりと告げられる話のスケールの大きさに、思考が追い付いていかない。というか……。


「……郭が外れるって」

「――何か文句でも?」


 にこやかな脅迫にいや、と首を振る。……俺のイメージだと、賢者見習いである郭は協会の中でも上位の実力者であるはずだ。少なくとも支部長である先輩たちよりは上の位置。なのに、今回のメンバーには選ばれていない……。


「なら、誰がメンバーなんだよ」

「そこまで教える義理はありませんね。考えてみればある程度は分かるのでは?」


 それはつまり、討伐隊が相当の実力者で構成されていると言うことだ。郭が入り込む余地がないほど。それだけ父を始めとした『アポカリプスの眼』は、三大組織から脅威視されている……。


〝私はあと一度だけ、お前を迎えにくる〟


 ――脳裏に。唐突に木霊する父の言葉。


〝その時までにどちらに付くべきか、考えておくことだな〟


 その内容が急速に現実味を帯びてくる。薄れかけていた恐怖と焦燥に似た感触。それらが俄かに濃度を増して。


「――黄泉示!」


 そこへ飛び込んできた声に、反射的に顔を向けた。


「お嬢ちゃんたちも。――暫く振りだな。元気してっか?」

「……東小父さん?」

「え――」


 呼び掛けられた声の元に見止めた姿。ホールの向こうからこちらに近付いて来るのは、間違いない。東小父さんだ。珍しくいつもよりちゃんとしているような服装に、以前と違って髪髭が少し伸びているようだが。


「……どうしてここに?」


 その雰囲気は変わらない。唐突な登場に、嬉しさより疑問の方が勝った。


「どうしてって、そりゃ――」

「――あら」


 俺の問いに小父さんが答えようとしたところで、背後から別の声が響く。


「東も今着いたところでしたか。なんだ。てっきり私たちの方が早いと思っていましたが」

「意外と早かったね。私ももう少し掛かると予想していたから、残念だ」

「――神父」

「親父!」


 振り向いた先に見えるのはエアリーさんとレイルさん。神父服とスーツとをそれぞれ纏った二人が、並んで俺たちの方へ歩いてきていた。


「はいジェイン。大事はなさそうですね」

「やあリゲルくん。健康そうで何よりだ」

「なんだよ、お前らも今着いたのか?」

「まあね。機関が地下リニアの使用許可をくれてね。速いのは良いが、景色が見えないのは退屈だったね、あれは」

「私は聖戦の義が飛行機を手配してくれたので。久し振りに貸し切りで乗りました」

「……貴方たちに声が掛かったとは聞いていましたが」


 二人して何やら只事ではないような話をしている。自分から話し出す切っ掛けを掴めずにいる俺たちを差し置いて、声を発した郭。


「早い出動ですね。救世の英雄方」

「あら……」


 台詞を受けてエアリーさんが郭へ目を遣る。……なんだ? まるで、何かを思い出しているような。


「……レイガスの弟子でしたか? 確か」

「郭詠愛くんだね。賢者見習いの」

「覚えて戴けているとは光栄です」


 礼儀正しい所作で二人へと一礼した郭。――まさか。


「知り合いだったのかよ?」

「ええ。お三方が滞在していた時に、軽く手合せをして頂きましてね。あれは貴重で有意義な時間でした」

「そうだったんですか……」


 そうだったのか。以前というと、小父さんたちが俺たちに修行を付けてくれていた時期。……あのとき既に、郭と会っていたのか。


「次代の賢者候補にそう言って貰えるとは。とうに引退したロートルだが、お世辞だとしても嬉しいよ」

「とんでもない。以前の模擬戦で胸を借りさせて頂いたお蔭で、僕も自分の未熟な点に気付かせていただきました。これからの協会を担えるよう、より一層精進していきます」

「おう。あのときも言ったが、若いのに良い筋してると思うぜ。頑張れよ」

「いいですね。協会には良い後継者がいて」


 その模擬戦の内容がどんなものだったのかは知らないが、小父さんたちの中で郭は随分と好印象だったらしい。エアリーさんもニコニコしている。というか。


「……なんか、普段と態度違わねえか?」

「――僕は実力者には敬意を払います」


 俺と同様の疑問に、事も無げに返す郭。


「相応の積み重ねをしてきた証ですから。人格がアレな場合には、また話が変わりますが……」

「神父たちも今回の討伐に参加するんですか?」

「ええ。その件で呼ばれていますので」


 流れかけていた話題を元に戻すジェイン。小父さんたちが、『アポカリプスの眼』との戦いに参加……。


「……さっき郭さんが、日取りは大体決まってるって言ってましたけど」


 控えめに切り出すのはフィア。


「いつ頃なんですか? その……」

「大体二週間後だな」


 あっけらかんと答えられる。……二週間。


「遅けりゃ三週間って話だったが、早目に見といた方が何かと良いだろ」

「私たちもそう聞いているよ。流石にそれぞれの組織で認識に齟齬はないようだね」


 ――短い。いざ実際に突き付けられてみると、想像よりずっと。明日だなどと言われない分、最悪よりはマシだったのかもしれないが……。


「――そう言えば」


 何とも言えない感覚を抱く俺の前で。思い出したように言い出したレイルさん。


「此処に来る途中に面白い噂を聞いたんだった。――なんでも今回の襲撃時、魔術協会にてかの蔭水冥希と相対したグループがあったらしくてね」

「――」


 ニコニコ顔で言うレイルさん。多分に身に覚えのある状況。それは――。


「お――」

「逃げ切れず結局は戦闘になったそうなんだが、その中にあろうことか、自分から攻撃を仕掛けた人間がいるらしいんだ」

「……」


 ……それは。


「まぁ、そんな無謀で粗忽なうっかり屋さんがいるんですか」

「そうなんだよエアリー。世の中は私たちが思っているよりも大分広いんだ」


 驚いて見せる態度がわざとらしい。二人の小芝居は、だが少なくとも俺たちの中の一人からすれば、絶対に目を離せないだけの緊張感を備えているもの。


「――けどまさか、この中にはいないですよね」


 分かっていて言っているだろう――エアリーさんが、溜めを作るよう口にする。


「あれだけ忠告しましたもの。戦う相手は時と場所を選んで、勝てない相手ならできる限り戦わないようにすること」

「――自分たちの側から仕掛けるなど、どれだけ勝算があるように思えてもするなとね」


 二人の眼が俺たちを――正確には、その内の人物一人を捉える。……刈り上げたこめかみから、ダラダラと滝のように冷や汗を流しているリゲルを。


「何か言い残すことはありますか?」

「……ええと……その」

「早くした方が良いよリゲルくん」


 エアリーさんが服の下から何やら棍棒のような武器を取り出す。レイルさんが手を差し入れた懐で響いたのは、何やら聞き覚えのあるカチリとした音。……おいおい。


「え、ちょっと――」

「――す、済んませんでしたッ‼」

「ま、嘘なんですけど」


 即断即決。瞬時に見事な土下座をして見せたリゲルの頭の上を、振るわれていたと思しきエアリーさんの得物が掠める。レイルさんがそのまま懐から出した手には、ライター。もう一方の手で煙草を取り出し、付けた火に紫煙を燻らせた。


「へっ――⁉」

「冥希が相手ではどう転んでも大差はなかったでしょう。無謀であることには違いありませんが、一概に最悪手だったとも言えませんね」

「例外的な状況の上での結果論だがね。怪我の功名という奴かな」


 間抜けな声を上げたリゲルに他人事のように言う二人。殺意がないことを確認して、リゲルも立ち上がる。


「……冗談ならもうちょいそれらしくしてくれよ……」

「ま、良かったじゃねえか。あれで実際に殴られてたら、床に減り込むくらいじゃ済まねえぞ?」


 後頭部を撫で摩るリゲルにおどけるようにして言った小父さん。……口調と裏腹に内容は到底想像したいようなものではないが。


「流石は救世の英雄。脅しにも躊躇いがないですね」

「今の土下座は見事だったな。練習したのか?」

「うるっせえな‼」


 折角小父さんが目の前にいるのだ。今此処で訊かなければ、この先訊く機会は。


「――あの、小父さ――」

「おお!」


 決心して掛けようとした声が、響いてきた溌剌とした叫びに掻き消される。


「皆さんこんなところに! 探しましたぞ!」

「バーティンさん……?」


 郭が現われたのと同じ階上から俺たちを見下ろしているのは四賢者の一人、バーティンさん。小父さんたちの姿を見止めると、急いで階段を駆け下りてきた。後ろから早足で着いて来ているのは、付き人らしいあの少女。


「リア殿が呼んでいますぞ。此度の戦いについて、詳細をお話ししたいそうで」

「そうか。わざわざ悪いね」

「なんの! 『救世の英雄』の為でしたらこのバーティン、例え火の中水の中! 何処へでも参る所存ですからな!」

「……一応、協会の幹部なんだよな?」

「……ええ。そのはずです」


 ジェインの台詞に小さく答えた郭へ向けて、バーティンさんが振り返る。おや、と口にして。


「郭君。今回は残念だったね」

「……いえ」


 悪気はないのだろう。あくまで朗らかに言うバーティンさんに、答える郭は表情の裏側へ内心を押し込めているような何とも微妙な面持ち。……そう言えば以前もこんな感じだった。郭と雖も、流石に四賢者に不満をぶつけるわけにはいかないのか。


「まあ、まだまだ君は若い。チャンスはこれからも巡って来るから、気を落とさぬように、ですぞ!」

「……ありがとうございます」

「うむ。――ではではお三方、こちらへ! 案内いたしましょう!」

「ありがとう。ではねリゲルくん」

「ジェイン、ちゃんと休息を取るんですよ」

「おう、またな」

「大丈夫ですよ神父」


 それぞれの挨拶。先導するバーティンさんに続いて二人が歩いていく。その後ろから。


「じゃあな黄泉示」

「……はい」


 続いて去っていく小父さんの姿を目にして。訊き損ねた疑問を、胸の中へと飲み込んだ。四名が去り……。


「僕も行きますかね。そろそろ休憩も終わりますし」


 途端に静かになったホールの中で、郭がそんな事を言う。修行の合間に来ていたのか。


「……めげないんだな」

「それは当然。外されたということは、万が一を心配されたということでもありますから。僕の力不足のせいでもあります。……そんな懸念を感じさせないよう、力を付けなくてはならない」


 始めの苛立ちはなんだったのかと思うくらいに割り切った言葉。歩いていきながら紡いだ最後の台詞は、自分自身に言い聞かせているようでもあり。


「――休暇とでも思っておけばいいんじゃありませんか」


 矢庭に振り返った郭が、誰とは無しに俺たち全員を見渡した。


「今現在貴方たちにできることはありませんし。できることがないなら、悩む分だけ時間の無駄です」


 まあ、と一呼吸おいて。


「足掻いてみるのも面白いとは思いますがね。精々僕らに迷惑を掛けないようにだけ、頼みますよ」


 悠々と。縛った髪をなびかせ、歩き去って行った。


「……」

「……どうすっか」


 改めて顔を向き合わせる。四人だけになり、話が振り出しに戻った形。


「自主練でもしとくか? 郭もああ言ってたしよ」

「いや……」


 リゲルの提案だが、正直今は。


「悪い。……気分じゃない」

「そうか。そりゃまあ、仕方ねえよな」

「外に出かけてみるのはどうでしょうか」


 フィア。


「気分転換にもなりますし……」

「いいなそれ――けど、俺らって今外に出られんのか?」

「前に郭さんが言ってたじゃないですか。永仙さんたちの件は一区切りつきましたし、多分、大丈夫だと思うんですけど」

「どうだろうな」


 ジェインが慎重に答える。


「僕らを技能者として抱え込みたいというような話もしていたし、何かと慌ただしいこの状況下だ。協会としても、僕らを外に出したいとは思わないんじゃないか?」

「……そうかもな」


 どの道本山の外に出るにはゲートが必要だ。俺たちではどのゲートがどこへ繋がっているのかなど、その辺りのことが分からない。……迷う可能性もある。


「まあそれについては、それこそ郭か誰かに訊いてみないと分からないが――」


 止めておいた方が賢明だろう。そう考えを纏める中で、ジェインが俺の方を向いた。


「――蔭水」

「……どうした?」


 真剣な表情。それまでの話題とは少し違う雰囲気を感じ、身構える。……なにか。


「余り僕からは訊かないつもりだったが、僕らを取り巻く状況は今、予想以上に切迫してきている。三大組織や神父たちが戦おうとしている相手――『アポカリプスの眼』」


 ジェインの口にしたその言葉。その名前。


「その一員であり、君の父を名乗ったあの男についても。……僕たちは何も知らない。断片から推測することはできるが、知らなければどうにもできないこともある」

「おい――」

「――だから」


 制止と思しきリゲルの声掛けを振り切って。ジェインがはっきりと、俺を見た。


「話してくれないか? 君と、君の父親の事を」



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