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第十八.五節 過去 賢者の期待

 

 ――支部からの書状を受け取った、数時間後。


「……」


 永仙は特に問題に差し当たることもなく、当該の町へと辿り着いていた。……此処で自分がすべきことは何か。それを今一度頭の中で確認。――連絡を送ってきた支部から受けた説明は、大凡以下のようなもの。


 ――一週間ほど前。協会の領域内に存するとある町から、支部に向けて嘆願書が提出された。書かれている訴えが切実なものだったため、支部長の判断により直ぐに支部から数名の魔術師が選ばれ、その町へと派遣された。


 しかし訪れた町で、嘆願書の差出人に当たる人物が確認できなかったと言うのだ。住民たちにも聞き込みを行ったが誰もそれらしい人物に心当たりはないとのこと。派遣された協会員は首を捻りながら支部へ戻ってきたらしい。


 しかしその数日後、またも同じ内容の書面が届けられた。


 それに従い今度は支部長自らが町に赴いたが、事態は前回と全く同じ経緯を辿った。――そして今回。


 またしても同じ書面が支部に届いたのだ。最早事態の究明に当たり支部では力不足。ひいては四賢者に対応方針を決めて欲しい……とのことだった。


 説明だけを聞けばそれだけで納得してしまいそうなものではあるが、事態の本質は別なところにある。


 ――送られてきたと言うこの書面。同封されていたものだが、極めて異質な魔力の痕跡がある。加えて記されている文字自体にも何かしらの魔術作用があるようだ。見る者の心にこの手紙の主を助けなければならないと強く感じさせるような、そんな訴え掛けの力を感じる。魔術協会が言う魔術、術式と言う形で洗練されたものでは無く、その有り様は原始魔術に近い。


 しかも文面に依ればこの書面は計三度送られてきたと言う。偶然などでは無く何者かに依る意図的な行為であることは明らかだ。――極めて特異な才能の持ち主。永仙個人でなく、協会としても何かしらの処理が求められることは明白だった。


 そしてまた役所的な体勢もこの事態の中には潜んでいる。放置しては置けないがどう対処していいか分からない事態が起きたから、上に指示を仰ぐという次第。しかし今回そのことは却って、退屈な業務から離れる暇を探していた永仙には都合が良かった。指示を仰がれたなら何も馬鹿正直に指示だけを送ってやる必要は無く、本人が出向いてやれば良い。


 咎められたとしても言い様は幾らでもあるし、支部長にもその件は既に言い含めてある。最初は四賢者直の来訪に戸惑っていたようだったが、面倒事になるやも知れぬ事態の結果と責任を全て引き受けてくれるというのだから支部長にとっても悪くない話ではある。そのところを理解したらしく話し合いは比較的早急に片が付いた。支部長は手に余る案件として四賢者に事態の解明を依頼し、四賢者として永仙はそれを引き受ける。両者の利が見事一致した瞬間だった。


 それに――。支部に送られてきたという、書面の内容を思い返す。


〝此処から出して〟


 短い文だ。解釈の余地などほぼ皆無。その文面に、永仙自身が漠然とした興味をそそられていた――ということも大きい。


 四賢者たる永仙は文字に付着した魔力の影響を完全に退けることができたが、それでもなお、その文からは切実な何かを感じたからだ。


「……」


 さて――。永仙は思う。支部の報告に依れば、聞き込みをしたところいずれの住民からも帰って来たのは〝知らない〟という答えだけだった。


 だが果たして、それは真実だろうか?


 あの手紙に付与されていたのは実際のところかなり異質な魔力。それこそ何の適性も保たない一般人であっても、その異様さは本能的に感じられるはず。


 だとすれば――。


「――すまない。少しいいか?」


 道行く人間。農作業を終えた後らしく、農具を肩に担いで歩いている老人に尋ねる。


「おお。旅の方か? どうされた」

「私は、支部から派遣されてきた者だが」


 老人の眉が微かに動く。――支部。ただ言っただけでは何を指したものかも分からないだろうが、協会の領域でその語を使うならば意味は明白だ。


「おお、それは失礼を。……して、どうされました?」


 敢えて四賢者と言う立場は隠し、いかにも使い走りであるかのような雰囲気を出すように努めつつ、永仙は訊く。


「このような書状が今までに何度か届いている。事情を知らないか?」


 そう言って、携えてきたあの手紙を老人に渡す。見つめる前で老人は真面目な面持ちでその内容に目を通し、表、裏と幾度か見返した後。


「……分かりませんな。このような内容を書く者など、心当たりがない」


 やや眉根を寄せて、そう回答した。


「明確でなくとも良い。生活の中で何か違和感を覚えたことや、普段に比べ疑問に思ったことなどは無いか?」

「そう言われましても……私めに分かるのは、今年は例年に比べて畑の作物の取れが悪い、ということくらいですな」

「……そうか。ありがとう」

「いえいえ。こちらこそ、お役に立てず申し訳ありません」


 そう言って老人は自身の家があると思われる方角に去っていく。その後ろ姿を見送りながら、永仙の脳裏で一つの考えが結実を成そうとしていた。


 ――嘘だな。


 そのことを確信する。上手い演技ではあったが、あの老人は一般人ではない。間違いなく、魔術の心得がある。仮にこの手紙の主の様な異質な魔力の持ち主が潜んでいるならば、それに気付かないはずがない。


 無論、だからこそ老人の言うようにこの町には何もないとする考えもあるだろうが――。


「……」


 永仙は軽く意識を集中する。然程広くはない町の外れ。中心から大きくずれた端の方から、魔力の気配を感じる。……それなりに大きい。一般人も住んでいるようなこの町で、この大きさの魔力が感知されるのはどう考えても不自然だ。


 老人の反応から警戒心は読み取れたが、敵意は見られなかった。隠したい事実があるということなのだろう。


 永仙は歩を進める。魔力が伝わってくる方角に、何が待ち受けているのかを期待しながら。



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