第十二.五節 補佐と支部長
「――」
並み居る鬼たちを苦も無く掃討し、目的の場所へと向かう葵。
その感知能力に、鬼とは別の強い力が検知される。――覚えのある魔力。
これは――。
「――吹っ飛べ! こんちくしょうがッ‼」
直後に聞こえてくる、盛大な打撃音と破砕音。
扉をぶち破って飛んできたその巨体を、葵は些かも動じることなく手にした鉄扇で受け流す。吹き飛ばされた鬼は部屋の壁面にぶつかり、一言も発さないままに昏倒、消滅した。
「ったく、疲れるわね……」
「立慧、余り他の部屋に被害が出るような戦い方は……」
「良いでしょ別に。これまでの鬼と違って少し手強かったし、鬼が跋扈してるこの階に残ってる奴なんて――」
――いないわよ。
そんな言葉が続くはずだったらしい二人の会話は、踏み込んだ部屋に立つ葵を見たことで続かなくなる。葵の側でもその正体を認め。
「誰かと思えば、あなたたちですか……」
「……だから言ったじゃないか」
少し溜め息を交えつつ言った葵に、同じく息を吐きながら言葉を発するのは上守支部長。
「……怪我も無かったんでしょ。なら結果オーライじゃない」
悪びれる様子を見せないのは范支部長だ。共に秋光より蔭水黄泉示たちの護衛を任されている二人。因みに先の鬼は支部長自身が言うように比較的大物だったので、一般の協会員であれば吹き飛んでくるそれに対応できずかなりの被害を受けているはずだった。言いたくなる言葉の幾つかを飲み込み。
「田中支部長は?」
「知らないわよ。いつも一緒ってわけじゃないし。異変があった時にたまたま別々に行動してて、それっきり」
「そうなのですか?」
「ああ。この階じゃ見掛けなかったからな。あいつも支部長だ。大丈夫だろ」
――そう。あくまで分かる範囲での比較にはなるが、この階には特に鬼の数が多い。
葵も残された協会員を保護しつつ此処まで来たが、この階に移ってからは生き残っている魔術師たちの数はほぼゼロに近い。数もそうだが、個々の質が上がっていることもその原因だろう。無論全員が殺されたわけではなく、上下の階に逃れた者たちもいるだろうが。
「……蔭水黄泉示たちはどうしました?」
葵にとって気になるのはそのことだ。鬼の掃討と協会員の救援は確かに急務。この二人もこの階が他より手強いことに気付き、ここまで進んできたに違いない。
それでも三人に関しては、秋光から直に言い渡されている黄泉示たちの保護が優先されると葵は考えていた。著しい成長を見せているとはいえ、あの四人ではまだ鬼の群れに対処できない。仮にそれを放棄してここに来ているなら、葵としては看過できない事態となる。
「上の部屋に押し込めといたわ。道中の鬼どもは退治したし、入口に千景が結界を張っといたから暫くは大丈夫でしょ」
「そうなのですか?」
「ああ。無事だとは思うが……」
「どうして一々千景に確認するのよ!」
范支部長を無視し、葵は懐から符を取り出す。慣れに従って手早く編んだ術式。
「――何を占おうってのよ」
「彼らの安否を」
卜占術。櫻御門の家系が得意とする術法でもある。鬼門の位置も既にそれにより探り当て、向かう途中だったのだ。簡易の占いでは結果はそれほど詳細には出ないため、このフロアのどこかにあるということしか掴んでいないが。
「相っ変わらずの慎重派ね。信用されてないって思うと気分が悪いけど」
「……っ」
悪態を無視して見つめる葵の前で、指に挟んだ符の色が黒を交えた赤色に変わる。……対象の吉凶を占うこの占術。大事無ければ符の色には変化なし。赤、若しくは黒色に変化した場合は――。
「……大凶兆」
上守支部長が呟く。元は同じ八家の出とあれば、多少なりの知識はあるか。
「――彼らの身に危険が迫っています」
「え――⁉」
当たり外れのある卜占ではあるが、ここまで色濃く出れば疑い様はない。真剣その物の声音で葵は二人の支部長に告げる。
「それもかなり悪い。命を落としかねないものです」
「そんな、嘘でしょ――⁉」
「――立慧」
恐らく予想だにしていなかった事態に一瞬范支部長は狼狽えたが。見つめる上守支部長の眼を受けて、頷く。
「私は鬼門の処理を受け負っています。――早急に対応を」
「――ッ分かってるわよ」
「行こう」
走り出す。猛速で遠ざかっていくその後ろ姿に一瞥を送り。
「――っ」
――自分の役割を果たす為。意気を漲らせて、葵は駆けた。




