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第八.五節 覚悟

 

「あ、秋光……様……」


 自らに掛けられるその声を、麒麟の背を下り、地面に膝を付いた状態で秋光は聞く。


 周囲に散らばるのは何か異形の生物の残骸。――恐らくは同じ鬼だろうが、下の階にいたものとは体格も形状も異なる。……より高位の鬼だったのだろう。下に比べて数は少ないが、位格の勝る分こちらの方が対処は困難だったはずだ。


「手古摺りましたが、ここにいた鬼どもは、何とか片付けました……」

「……そうか」


 腕の中から響く重い声。吹き抜けの様な広い空間に散らばるのは、何も鬼の死体だけではない。


 それらと重なるようにして横たわっている遺体。凄まじい力で打ち付けられ、見るも無残な姿となった骸。壁に残る鮮やかな血痕が、肉体が受けた衝撃の度合いをそのままに示している。


「ですが三千風様と仲間が、まだ中に……」

「……よくやった」


 衣服に染み込む血を省みることも無く、もう一度容態を見る。……両手足の裂傷。加えて内臓を深く抉り取られている。ここまで持っただけでも充分な奇跡と言えるほどの傷であり、レイガスであっても一命を取り留めさせることが精々だっただろう。傍らにいるのが秋光であるならば、それは尚更の事顕著になる。


「――ありがとう」


 秋光のその言葉を受けて、目を閉じた魔術師は微笑みを浮かべ――。


 そのまま眠るように、静かに息を引き取った。


「……」


 暫し目をつぶる。守ることしかできない自分が、それすらも満足に果たせなかった失態。そのことに対する悔恨の思いと共に黙祷を捧げ、再び立ち上がった秋光は前を見据える。


 ――視線の先にあるのは巨大な扉。一般の協会員、四賢者は愚か大賢者でさえ立ち入ることは普段滅多にない領域。幾重もの堅牢な封が為されていたはずのそれは今、見るからに強引なやり口で抉じ開けられている。……部屋の中。侵入した何者かと共に零たちがいることは凡そ必然と言えた。


 ――急がなくてはならない。


「……行こう」


 控えたままの四霊に促す。最後に一度だけこの部屋の惨状を目にして。秋光は、開いた扉の奥へと踏み込んで行った。



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