第十七節 戦闘開始
「――」
――何だ?
訓練の最中の小休止。座り込んで休む俺の目に映った違和感。……今一瞬、談笑していた小父さんたちの雰囲気が変化したような――。
「どうしたよ?」
「……いや」
リゲルの問い掛けに、珍しく茶を濁すような返答をするレイルさん。……なにか、確かめて……。
「――なるほど。正面突破とは、中々に彼らしい手口ですね」
「やってくれるじゃねえか。あんにゃろうめ……」
「――どういうことですか?」
ジェインの言葉を無視し、レイルさんは立慧さんたちへと視線を向ける。
「気付かなかったかい? そこの二人」
「え? 私は別に、何も……」
「特にねえですが……なんかあったんですかい? 今」
「……支部長でこれだとすると、余程上手く魔力を隠しているね」
「ああ。気配も殆んど感じ取れねえしな。もっと近付きゃ嫌でも分かんだろうが……」
「秋光、それに在中の四賢者が気付いているはずです。――今この本山にいる四賢者は何名ですか?」
「……レイガス様とアル様は所用で出てるって話だったから、二人ね」
「二人ですか。まあ、いないよりは大分マシでしょうが」
息を吐くエアリーさん。会話の内容もそうだが、なにがあったのか――。
「――厳しくなりそうだね」
「……なにがあったんですか?」
「流れで分かんだろ。お前らを狙ってる敵――」
俺たちの共通の疑問に、肩を竦めて小父さんが答えた。
「――九鬼永仙と凶王が、この本山に侵入ってんだよ」
「――⁉」
「――え――っ」
永仙と、……凶王?
「それもかなりの大所帯です。……恐らく、凶王を連れ込めるだけ連れて来たのでしょう」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
信じ難い。突然の内容を立慧さんが塞き止める。……息を吸い。
「この本山には世界でも有数の龍脈と龍穴とを利用した【大結界】が張られてるのよ? 幾ら九鬼永仙と凶王だって、それを破らずに侵入するなんてこと――」
「――理屈は分からないが、現に強大な力の持ち主が五人。新たに本山内に現われたことは確かだ」
冷静に言い切るのはレイルさん。
「まああいつは元大賢者だし、後で利用できるように協会の結界に細工しとくぐらいのことはやってておかしくなさそうだけどな」
「ですね」
「そんな――!」
「……それが本当なら、今は議論してる場合じゃねえな」
顔色を青く染める立慧さんの隣で、田中さんが表情を引き締める。
「連中は真っ直ぐ此処に向かって来てるのか――分かりますかい?」
「そうだね。かなりの速度でこちらに向かっている。このままだと数分でこの部屋に辿り着くだろう」
「す、数分⁉」
フィアに続いて叫びを上げそうになる。そんな短時間で――‼
「私たちが集まっていることで、逆に居場所を気取られたのかもしれませんね」
「ちょっと、何暢気なこといってるの⁉ 早くこいつらを逃がさないと――」
「まあ落ち着けって。俺らが気付いたってことは、秋光とあの婆さんも気付いてるはずだしよ。直ぐに何らかのリアクションが――」
「――緊急警報。緊急警報」
唐突に辺りに響き渡る声。……いや。
「ゲート付近のホールにて敵性反応が感知されました。非常時の措置を取りますので、付近の協会員は直ちにその場を離れ、決して近付かないよう――」
これは。そのことを確かめる。頭上からではなく、頭の中に直接声が響いてくる――?
「なんだ⁉ 今の――ッ」
「……予め協会側に魔力登録されてる奴らにだけ聞こえるよう設定された、魔術警報よ」
辺りを見回すリゲルに対し、真剣そのものといった立慧さんの声。
「今言ってた非常時の措置ってのは、具体的には何なんだ?」
「――確か、建物を守るための緊急障壁、通路を遮断する魔力防壁、侵入者を閉じ込める捕縛結界の三種があったはず。……この様子だと、多分全部が発動されてるわ」
「となれば」
「少しは時間を稼げますかね――」
「――ぼやっとしてんじゃないよ! あんたたち!」
織り成される俺たちの会話に割り込むようにして飛び込んできた声。この声は――。
「リア様⁉」
「あんたらもここにいたのかい。そりゃ手間が省けた」
――リアさん。俺たちのすぐ傍に現れたその姿は変わらず壮健だが、小父さんたちを素早く見回した瞳、口早に急くような口調は、いつかと違い焦っているように感じられる。
「こいつらは支部長に任せて安全な場所に避難させる。秋光も今こっちに向かってるから、あんたたちは私らと一緒に――」
「――それは困るな」
――切り込む声。他の誰よりも早く、リアさんと小父さんたち三人がその方角に顔を向けた。
「そこの四人には奴が入り用らしい。手の届かない場所に連れ込まれてしまっては困る」
視線の先にある澄んだ深紅。目を奪われるような美しさの中にもどこか恐ろしさを秘めた瞳でこちらを見つめているのは、年端も行かないような一人の少女――?
「ちっ――!」
舌打ちと共に雰囲気を変えたリアさん。その姿が一瞬にして赤黒い血のような何かに包まれ――‼
「――⁉」
「おいっ――⁉」
――殺られた? 思わずリゲルが声を上げたその瞬間に失せた影。その中に確かにいたはずの、リアさんの姿はなく――。
「……えっ?」
――入口に立っていたはずの少女もまた、蜃気楼の如く姿を消していた。理解の追い付いてないフィアの声。……消えた。突然の事態に、言葉を失った直後。
「ッと‼」
刹那に動きを見せるのは目の前の光景。――空間を過ったと思しき煌めきは小父さんの携えていた刀。照明の光を受けて何かを切り裂くように宙を撫で尽くした。
「――ぬっ」
その後塵を追う鋭い蹴り。触れれば切れると思えたようなレイルさんの足刀は、しかして何者も捉えることなく空を切る。それがただの空振りでないことを、本能が直感的に感じ取り。
「おっと!」
中でも最も目を惹く変化は雷の如く跳び掛かってきた黒い影。得体の知れない猛獣のような何かを両の手で受け止めると、エアリーさんは素早い所作でそれを前方へ投げ飛ばす。――刹那の攻防。周囲で一瞬のうちに起こされた変化に、俺たちが意識を奪われた瞬間――。
「――〝新たな世界を〟」
崩れた陣形の中心。――ソレは静かに、俺たちの目の前に姿を現していた。
「ッ⁉」
「――黄泉示‼」
届く小父さんの声を認識したのはやや遅れてから。それと同時に、俺たちの視界を急速に広がる何かが包み込んだ――。
「……流石の腕前だな」
――静かな声。ゲートから各フロアへと繋がっているホールの一つ。そこに今、二人の人物の姿があった。……一方は年端もいかぬような少女。
――魔王。深紅の色を湛えた瞳は、現われたときと変わらぬ平静を保っている。その姿を目にしながら……。
「……やられたねい。あそこまで近付かれてるとは気付かなかったよ」
対峙するのは白髪の老女、リア。共に数秒前、黄泉示たちの前から忽然として姿を消した二人だ。
「賛辞として受け取っておこう、リア・ファレル。自身と私とを共に移動させる……」
あの一瞬。本来ならリアは蔭水黄泉示たちと支部長たちとを自室へとまず転移させ、彼らの安全を確保してから迎撃に出るつもりだった。
「合理的な判断だ。力量を見て取る慧眼も素晴らしい」
「……そいつはどうも」
だがそれはできなかった。この少女が現われた時点で、本来なら猶予であるはずの一瞬は致命的な間隙へと変えられた。あの状況下でリアに許されていたのは、彼らにとって最大の脅威であろうこの相手を遠ざけることだけ。……そして。
「――であれば、掛かっては来ないのか?」
リアの側方。緊急措置により展開していたはずの数多の術式の完膚なきまでの残骸を些かも気に留めずに、少女はその方角へ瞳を移す。
「当代の協会の長。――式秋光」
「……」
二人が対峙している位置より少し離れて。呼び掛けられた秋光は麒麟の背を下りる。……疾風の如き勢いでホールに降り立ち、決闘場までの道を一息に駆け抜けようとしたそのとき、突如として目の前にこの二者が現われた。それがリアの空間魔術に依るものであることは直ぐに理解できたが、問題となるのはその片方。
今現在秋光とリアは、時計の短針と長針の如く、角度を付けて魔王と相対することに成功している。……数の有利を生かしての挟み討ち。各々が同等の実力者であることも相俟って布陣としてはかなりの優位。そも二人が協会の四賢者であるならば、この状況に追い込まれた時点で大概の相手は敗北が決まると、そう言っても構わないほど。これがリアの刹那の判断に依る紛れもない最善手の一つであることは、秋光としても疑う以前に否定の仕様がなかった。
「……」
「……」
しかし。その優勢を勝ち得ているはずの二人は、魔王を前にして動かない。年端もいかぬ少女を前にして、既に壮年も過ぎ去ったような老人が二人して真剣な面持ちで動きを止めている様子。関わり合いのない者からしてみれば、実に滑稽な絵面と映ったに違いない。
――そう。深紅の瞳を持つこの少女を、眼前にしていない者からするならば。
「……」
秋光の優れた感知能力が捉える戦況。……掌から零れ落ちたかの如く掻き消えた一つの強大な力と、四つの気配。あの距離からでも伝わってきた魔力の脈動も踏まえれば嫌でも分かる。――形成されたのは【世界構築】。その中で、今黄泉示たちが九鬼永仙と対峙している。
そのことを重々承知しながらも、秋光は目の前の少女から目と意識とを離すことができないでいた。世界最大の特殊技能組織である三大組織に於いてさえ特別な脅威と見做される五人。その中でもかの《帝王》と並んで別格と称される技能者。
――それこそが《魔王》。今のところはまだ殺気こそ発されていないとはいえ、その風格と奥底に秘めた力とには底知れないものを感じさせられる。そしてそれとは別の視点においても、秋光は驚愕を禁じ得ないでいた。
三大組織にとっても確実な詳細を掴めることの少ない凶王とはいえ、それだけの脅威に対し見す見す分からなかったで済ませるほど協会の情報網は甘くない。数年前、『冥帝事件』に始まる一連の騒動のあと、今代には凡そ及びもつかぬほど年若い人物が即いたとの情報は、秋光とて当然事前に得てはいたのだ。
が、実際を目にしての驚きはそれとは比べ物にならない。……早熟どころの話ではなかった。目の前の少女の年齢は外見から察すれば十五にも満たないと思われるほど幼く、それでいて、《魔王》と認識するに充分すぎるだけの威厳と底知れなさを備えている。
事態は最早天才などという言葉で表されるものではなく、各々が稀代の才有りとされた秋光たちからしても異常である。……禁術師の長たる魔王として年月の摂理を捻じ曲げているとの可能性も考慮に入れる必要はある。しかし、老練さの不足は演技で補えるものではない。となれば……。
「――和平と、共存――」
思考と分析の最中。秋光の耳に、魔王の放つ声が響く。
「お前は確かそれを信条としていたな。式秋光」
「……その通りだ」
「無用な争いの無い世界。これ以上互いの血を流さぬ世の成り立ち――」
目の前の少女の口にされるのは。秋光が抱き続けてきたその理念。
「そんなことを、本気で口にするつもりか?」
「……」
胸の内に湧く。あのとき、レイガスに言えなかった言葉。
「……それでも」
その続き。抱く理想を、確かな決意を以て秋光は口にする。
「人は、いつか必ず分かり合える」
怖じ気ることなく。恥じることなく。己が命に掛けて、堂々と。
「私はそう、信じている」
「……なるほどな」
静かな声。先ほどまでの冷酷さを込めた声とはまるで違う。それはまるで、偽らざる本心を告げた秋光の言葉に、魔王と雖も動かされるものがあったのかと思えるほどで――。
「――ならば問おうか。四賢者筆頭」
――だからこそ。続く宣告の内には、歴戦の四賢者をも震わせるほどの迫力が有った。
「お前たち協会が、我らの同胞に何をした?」
一語一語。言葉が続く度に、魔王の纏う覇気が強まっていく。老練の二者でさえ呼応し、震えるような覇気。
「お前がその綺麗事を吐けるまでに、お前たちがどれだけの血と命を踏み潰してきたかについて、一片でも思いを馳せてみたことがあるのか?」
秋光に答える暇を与えないまま、修羅とも思える覇気を纏いながら、少女はあくまで淡々と言葉を紡ぎ出す。
「そんな大逆を冒してきたお前たちが、何の痛みも負わず共存を呼び掛けることに――」
暴れ狂うような殺気と覇気とが、収束し――。
「――果たしてどれだけの、理がある?」
――収斂した。目の前の少女のカタチへ。……最後まで保たれた問い掛けの形。だが魔王が返答など決して求めてはいないということを、秋光は向けられた瞳から十二分に汲み取っている。
「――秋光」
「ああ。――分かっている」
リアの忠告に秋光は頷きを以て返す。胸にどのような理念を抱こうとも、越えて行かなければならない現実がある。
「……」
老いた身体。極限の集中を以てして秋光は意気と緊張とを漲らせる。今は理想を叶えるのではなく、目の前の現実に、ただ潰されないために――。
「――さて」
派手な立て襟。いからすような眼光と風体とは、王と呼ぶにはまだ幾分粗野に過ぎる。
「思いのほか首尾良く行ったな。――これで、あとは俺の自由というわけだ」
「――半端者は控えておきなさい」
衣服を飾りたてる品格ある麗しい意匠。多種多様な色合いと模様とを優れたセンスを以て取り纏めた芸術品の如き衣装を纏うのは、陶器の如き白い肌、人形のような端正な顔立ちをした一人の女性。
「魔王が外れた今、私が指揮を執ります。――構いませんね?」
「……」
――沈黙。問いの飛ばされた先に立つのは影。黒法師の人影が静かに佇んでいる場所からは、何も感じない。確かに目の前に姿としてあるにも拘わらず、訴えて来ないその感覚が不気味さを呼び起こす。
「……凶、王……」
「――」
擦れる声へと流された一瞥。自分に向けられたのではない注意。だがそれだけでも立慧はその場から動くことができない。圧倒的と言える格の違い……。
「……こいつはヤベえな」
重苦しい空気の中で田中が呟きを零す。その表情が普段のような緩んだものではないことは、額に浮かぶ滴を見れば否応なく分かっただろう。……三大組織の幹部と同格以上とされる力量。
反秩序者たちを束ね挙げる五派の頂点。うち三人が今、田中たちの目の前に肩を並べているのだ。その荘厳とも言える光景に対し――。
「――やられたな」
「……やられましたね」
「ああ。してやられた」
まるで気負いのないように。普段と変わることのない落ち着いた声で、目の前の三名は息を吐きながら声を交わす。
「あの野郎、凶王を囮に使って来るとはまた贅沢な真似しやがって。遠慮がなさ過ぎんだろ」
「しかも腕が上がってませんでしたか? あれだけの速度で【世界構築】を使えるとは予想外です」
「やはり数上の不利は戦術での不利に直結するな。あれでは防ぎようがない。シンプルだが良い手だった」
「ちょ、ちょっと‼」
能天気。そうともつかぬ東たちの態度に、戦慄した立慧も流石に声を出さざるを得ない。
「っ状況が分かってんの⁉ あいつらが永仙に攫われて、凶王が……‼」
「……まあ、そりゃ嫌でもな」
再度息を吐いて。伏せた目線を遣ったのは東。
「ただ、正直手の打ちようがねえよ。――ありゃ【世界構築】だ」
かつての仲間だからこそ知り得る情報を口にする。
「永仙の固有魔術にして概念魔術。門外漢には言わずもがな、四賢者クラスでも意味不明に複雑怪奇な独自の術式と術理で編まれてやがる。生憎こっちにゃ破れる奴はいねえし……」
「四賢者二人も足止めを食っているようだからね」
「だよな。――でもなあ。敢えてあれを使って連れ込むくらいだから、単に殺すつもりじゃねえとは思うんだけどなぁ……」
「……ッこの状況で、んな暢気な――!」
「ええ。分かっていますよ」
立慧の憤りとも付かない声に対し、頷いたエアリーが顔を向ける。
「見るに一人は《賢王》、もう一人は《冥王》のようだが……」
「顔触れとしては《覇王》でしょうね。オレ様系とでも言うのでしょうか」
どこか腑に落ちないようなレイル。前に立つ若い男へと向けられたエアリーの視線を目にして、一瞬立慧は口を開き兼ねたようだったが。
「……『狂覇者』よ。前代の《覇王》が殺されたあと、血戦で暫定的にその座を受け継いだ反秩序者。歴代の中でも特に――」
「――おい」
遮り。無造作なその一声を受けただけでも、立慧は敵方の要望通りに言葉を止めざるを得ない。
「その名は余り好きではない。俺をそう呼んでくれるな、女」
「格下を相手に何をぬけぬけと。ただの事実ではありませんか」
鼻白みつつそう言って、仕切り直すように眼差しを向けた賢王。睥睨するように三人を眺めやると。
「――《執行処刑者》、《怒りの使徒》、《異端の最強》……」
薄紅の引かれた唇から呟かれるのは、かつての東たちの字名。
「かつて一世を風靡した《救世の英雄》……兎二羽と共に、今宵此処で死にますか」
「おーおー怖えなぁ……」
賢王の雰囲気に連れて東が切っ先を動かす。応じてピクリと指先を曲げたのは狂覇者。
「賢王の糸を切り裂いた剣の腕、冥王の仕掛けを弾く蹴りに、俺と張り合える女だてらに凄まじい怪力……」
はい? とにこやかに凄みつつ笑んだエアリーを無視して、狂覇者が子どものように無邪気な、それでいて獣のように凄惨な喜色を浮かべる。
「楽しめそうだ。問題はどう分けるかだが――」
「――あの美しいお嬢さんの相手は私がしよう」
宣言したのはレイル。相手方の声に割り込む形で、真っ直ぐに賢王を見据え。
「これはこれは。利発そうな偉丈夫からのご指名とあっては、断るわけにもいきませんね」
賢王もまたにこやかに応じる。対峙するように、軽やかな足取りで前へ歩み出た。
「――その裏にある醜悪な本性を刻んであげましょう。レイル・G・ガウス」
「勿体ないね。その隠しようもなく老いた魂さえなかったら、実に映える美貌だろうに」
「……どうするよ?」
「そうですね」
笑顔のまま睨み合いに入った二者を置いて、東とエアリーは残る二人を見る。
「影法師の方にしておきましょうか。これでも一応は聖職者ですし、東では手に余りそうですし」
「は? 適当ぶっこくなよ。大方あの若いのは手古摺りそうだからって、俺に押し付ける腹だろうが」
「まさか。私の方が東より強いですし。大体号から見ても分かるように、彼があの中では一番の小物では?」
「――言ってくれるな、救世の英雄」
エアリーの言葉に笑いを零しつつ、血気の乗った声で言う狂覇者。
「直に戦り合いたいところだが――まあいい。侮辱の借りは貴様で晴らさせてもらうとしよう、夜月東」
「……どうして他人がこれから戦おうって相手の意気を上げるかね、この単細胞ゴリラ女は」
「自業自得でしょうタマ無し男。生憎ですが、愚痴の相手をする暇はないですので」
「……」
構えた東の傍らにいるエアリーの視線の先。見つめられた影法師が、漣立つように微かな揺らめきを示した気がした。




