第十一.五節 捜索者たち
「ふー……っ」
「――進展の方はどうだい?」
岩に腰を下ろした姿。疲れたような声を上げているその人物に向けて、中年と思しき男は声を掛ける。人の好さそうな丸眼鏡の奥から覗く瞳。
「……駄目だな。中々に上手く隠れてやがる。今回も収穫は無しだ」
「そうか。まあ、この時代では最高峰の力を持った相手だからね。期日までに仕留めてくれさえすれば、急ぐ必要はないよ」
「ハッ。まあ、そっちに関しちゃ心配してくれなくて良いぜ」
ガシャガシャと鳴る異音。血気盛んな若々しい男の声が、中途で嘲りを含んだものへと変化した。
「この時代の奴らなんか高が知れてんだろ。あいつらに引っ掻き回されて充分に警戒してるってのに、俺らが動いてることに気付けねえ時点でお粗末なもんだ」
「……今日は、そのお粗末な連中の一人に見付かったばっかりだと思うんですがね」
響いたのは艶のある女の声。吐息交じりのその声音は、過分に男に対する戒めを含み。
「三大組織のメンバーと接触したのかい?」
「あー、まあな。大した事態じゃなかったが……」
「……ソウ」
少し驚いたような中年男への回答として、静かで幼さの残る女性の声が上げられた。
「ヒトリ、フタリ、サンニン、コロシタ」
「……それはまた大勢だね」
「全くだぜ。俺は目立つと不味いっつって止めたんだが、こいつら二人が聞かなくてな」
「元はと言えば、ガイゲの余計な行動のせいで見付かったんですけどね」
「うっ」
「……何をしたんだい?」
苦笑いするような男の問いかけに、鎧姿の男はやや、極まりを悪そうにして。
「……余りに見付からねえもんだからよ。背後に回って肩を叩いたりだとか、息を吹きかけたりとか色々とちょっかいを掛けてみたらだな……」
「あんな無駄な行動をする騎士サマがいますか。間抜けにもほどがありますね」
「顔を見られたわけでもねえのに殺しに掛かってたテメエもどうかと思うがな」
「いや……まあ確かに、それでも確信にまで至るというのは中々だね」
睨み合う二人の間に、やんわりと仲裁に入った男。
「一応聞いておきたいな。どんな相手だったか覚えているかい?」
「あれだ。火器とか言う玩具を振り回すしか能のない、単純な奴らだ」
「――機関の執行者か」
鎧の男の言を受け、理解したと言うように頷きを返す。
「あそこは技能者に対抗するために色々と変わった発明をしているから、それで見破られたのかもしれないね。何にせよ、大事にならなくて良かった。――次からはもう少し、慎重になるように頼むよ」
粗野な口調を窘めるでもなく、失態を責めるでもなく、あくまで穏やかに。
「どの綻びから堤が崩れてしまうかは分からない。事が成るまでは慎重に、間違っても標的の側には勘付かれないようにね」
「分かってるって。そこんとこはちゃんと俺も弁えてるさ」
肩を竦めつつ応じるのはしっかりとした頷き。
「成果はなかったが、場所は絞り込めてきてる。言われた期日までには達成できんだろ」
悪びれることなく言ってのけた口調に溢れている自信。例えその素性を全く知る由のない者であるとしても、信じて任せたくなる強者の風格が男にはあった。
「――そういや、向こうの方は上手くいってんのか?」
思い出したように尋ねる鎧の男。
「あんな奴らで。しくじったらマジイんだろ?」
「心配は要らない。今は時期を待つだけだし、彼らも優秀な技能者だ」
迷いなどない。答える男の声は真っ直ぐな確信に満ちている。
「全員ね。君たちからしてみれば、そうは思えないのかもしれないけど」
「別にいいさ。割を食うのはあんただからな」
それに対して更に異を唱えるような野暮を鎧の人物はしなかった。一応の忠告を口にするに留め。
「俺から言えんのは、悔いのないようにしとけよってだけだ。特にチャンスが一度しかねえんなら――」
「……ガイゲ」
「あ、どうした?」
会話を遮った少女。感情のない瞳が騎士を見つめる。
「ハナシ、キキタイ」
「……ったく、しょうがねえな……」
いいか? と了解を取る所作に、もちろんと。眼鏡の男は快く頷きを返す。重々しい音と共に立ち上がり。
「ガイゲ、ヤマトちゃんには甘いんですね」
「別に甘くはねえよ。相手によって相応の態度を取ってるだけだ」
「なるほど。それで私相手だと、つい緊張して乱暴な言葉遣いに――」
「――なわけねえだろうが」
話しつつ歩いて行く一向。壁際近くにまで着いたとき、発光と共にその姿が消える。
「……」
三人の消失を見送って。男は一人、暗闇の中へと向きを変えた。




