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※旧版につき閲覧非推奨 彼方を見るものたちへ  作者: 二立三析
第四章 魔術協会での生活
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第二十九節 死地 後編

 

「――ジェインッ‼」

「――ッ」


 ――間一髪。頭上から落ちてきたソレに、俺たちはきわどいタイミングで反応する。一瞬対応の早かった俺は急な負荷に足を軋ませながらもなんとか倒れることは免れたものの、リゲルを背負っているジェインはそうもいかなかった。辛うじてソレを躱すことには成功したが、中途でバランスを崩し、背負っていたリゲル共々地面に投げ出される形になる。


「ジェイ……!」


 地面に転がった仲間の姿。――だが気遣いの声を上げている暇はない。直前まで俺たちが立っていたはずの場所に、新たに姿を現したモノ。その姿がはっきりと視界に映り込んだからだ。


「……やれやれ。久の労働は思うより骨身に響きました。これは是非とも追加の手当てが必要ですね」


 田中さんと同じようなことを呟きながら立ち上がったのは、一人の女性。行動もそうだが、纏う雰囲気が明らかに常人のそれとは異なっている。言葉の端々に表われるのは、王と呼ぶに差し支えないような、威厳の如き何か――!


「まさか……」


 最悪の想定が震え声となって唇から零れる。


「……済んだのか?」

「ええ。思っていた以上に愉しめました。腕も二、三本捥がれたことですし、虎の子も一機使いましたから」


 後方から飛ばされる永仙の言葉に、女性はいとも軽く答えを返す。――捥がれた? 何の話だ? 目の前の女性の両腕はどちらも健在で、傷を負っているようには思えない。


「――おや……」


 そこで初めて目の前の俺たちの存在に気が付いたのか。俺たちを順に見た女性の目が、何かを見定めるように細められる。


「――どうしたのですか? 嘯いていたことと行動の結果とが、釣り合っていないように見えますが」


 問い掛けの先は、九鬼永仙。永仙の側は問いに答えることなく沈黙している。……相当の実力者であるはずの永仙に向けてのこの言動。やはり、目の前のこの相手は――。


「凶王⁉ 嘘でしょ――⁉」

「大盛況だな。泣きたい気分だぜ」

「手が塞がっているのでしたら、特別に私がやってさしあげてもいいですよ? 勿論、その場合には貸し一つということになりますが――」


 俺の推測を裏付ける、立慧さんと田中さんの反応に、二人を一瞥した女性――凶王の声。この場にいる者の思惑が入り乱れて聞こえてくる中――。


「……」


 俺たちを逃がしてくれたはずの先輩が、再度俺たちの前に出る。……凶王の前に、立ちはだかるようにして。


「先輩――!」

「……何があっても私の後ろから出るな」


 届いてくる声は真剣そのもの。……いや、それは寧ろ真剣さを通り越して、ある種の覚悟を固めているように思えなくもない。気付けば見える先輩の手は、怯えるかのように微かに震えていた。


「……なるほど」


 自らの前に出て来た先輩に対し、凶王は微かにその整った眉を顰めたかと思うと。


「良い備えですね。その齢でこれだけの芸当を熟せるのは、積み重ねてきた修練の成果」


 不自然なほどにこやかに表情を変える。喉から響かせるのは猫撫でるような声。


「その心意気に免じて、退けば貴女には構わないでおきましょう」

「……」


 笑顔の凶王に対し、先輩は動かない。数秒間、緊張に満ちる対峙が続き。


「……流石は支部長。使命に身を捧げる覚悟も既にしている――と」


 息を吐いた相手。真顔にした面から、今一度自然体で微笑んで。


「――分を弁えなさい。雑兵が」

「――ッ‼」


 ――刹那。目の前に立っていた先輩の身体が何かに弾かれたように吹き飛ばされる。小柄なその体躯は飛ばされながら地面と壁に数度ぶつかるようにして、先輩が作り出した障壁に激突したところで漸くその動きを止めた。


「か!……はっ……!」

「――先輩ッ‼」


 耐え切れない衝撃に身体全体を押し潰されたような声を上げて、受け身も取れない姿勢のまま先輩が地面へと落下する――! ……路地に響くのは、肉が石畳の地面にぶつかる鈍い音。


「――‼」


 ――そんな――。余りの光景に目の前が暗くなる。あの先輩が、何の抵抗もできずに一撃で――⁉ 一体何を――。


 見えなかった。分からなかった。何をしたのかも、何が起きたのかでさえも。


 第一あの吹き飛ばされ方では、先輩は――!


「……既に創痍ではないですか。この程度の輩に、何を手古摺るものがあるのか――」


 ――我に返る。既に先輩はその眼中に無く、呟いた凶王が見つめるのは紛れもない俺とフィアの姿。硝子細工のように透き通る二つの瞳に見つめられた、俺が全身で走る死の悪寒を感じたとき――。


「【重力……二倍】……っ」

「――ッ‼」


 掠れた声と共に、後退した俺の鼻先を何かが撫でる。


「おや?」


 眼を微かに見開く凶王。その反応と自分たちの現状で、何が起きたのかを理解する。――躱した。

 

 何かは分からない。だが間違いなく死に繋がるような何かを、ギリギリで。無論俺の反射神経が優れていたというわけではない。――今の一瞬の間に、俺たちの元に跳び出してきた影。


「――リゲル――!」

「……悪いな。今はこれが精一杯だぜ……っ」


 リゲルの【重力増加】。それが掛けられたことで恐らくは相手の動きが多少なりとも鈍っていた。それともう一つは――。


「……っ。これは、骨身に染みるな……」


 僅かに上体のみを起こし、俺たちの側に掌を翳しているジェイン。――その【時の加速】が攻撃を受けるコンマ何秒か前、俺に向けて掛けられていたのだ。


「――なるほど、そういう次第ですか……。少しは合点がいきました」


 何かに納得したような凶王の仕草。……だが、俺としてはその言葉の意味を推測する余裕もない。攻撃を躱したことに安堵している暇も無かった。


 外の時間の流れ方からして、先ほど俺に掛けられたのは恐らく三倍速の【時の加速】。通常の三分の一にまで送らされた中で全てが動く、その中にあっても凶王の攻撃を完全に見切ることはできていなかった。


 それでも先ほどの攻撃を躱せたのは、凶王の意図が俺とフィアをピンポイントに薙ごうとしたものだったからに他ならない。仮にもう少しでもあの攻撃の範囲が大きければ、咄嗟に立ち位置をずらしたとしても躱し切ることはできなかっただろう。……良くて体の一部。悪ければ全身を吹き飛ばされ、先輩と同じようになっていたはずだ。


「……っ‼」


 再び凶王の目が俺を捉える。背中のフィアを片腕で支えたまま、終月を構える。リゲルも、ジェインも。恐らくは今の行動で限界だ。【魔力解放】は先ほど永仙に突撃したときに使ってしまっている。


「……はあ」


 そんな俺の姿を女性は一瞥したかと思うと、何を思ったか残念そうに溜め息を吐く。


「困りましたね。そう意気込まれては、私としても相手をしてさしあげたいのも山々ではありますが――」


 そして次にその目を、再度細めた。


「その猶予もどうやらないようですから。忙しないことです」

「――何を――」


 不明瞭な女性の言葉に俺が何かを言おうとした、そのとき。


「ッ‼」


 ――突如として俺たちの周囲に吹き荒ぶ、駆け抜けるような暴風。……俺たちの周りだけではない。立慧さんたちがいる位置、俺たち全員がいるこの路地全体に、台風の如き突風が吹き込み渦を巻いている。到底自然に起こり得るとは思えないような急激な気流の変化。これは――。


「あんたたち、無事かい⁉」


 焦りの含まれた声と共に路地へと降り立つ、一人の人間の姿。見覚えのある白髪に、それとは不相応とも言えるような張りのあるその口調。


 ――四賢者の一人、リア・ファレル――!


 それを意識した瞬間に安堵感が込み上げてくる。良かった――これでひとまずは――!


「……冥王が抜かれたか。変わらず壮健なようだな、リア」


 気のせいか――どこか楽しむような口調で、暴風を前に平然と佇んだままの永仙は言う。見れば回転するように吹き荒れる突風は、俺たちを囲むように――永仙と凶王から守るように吹いている。分厚い風の塊が壁として間に置かれているかのようだ。


「凶王、それに永仙……! あんたまで出向いてたとはね」

「――まさか四賢者が此方に来てしまうとは。これは困りましたね。どうしましょうか?」


 いつの間に動いていたのか、永仙のすぐ横に位置取りを移している凶王。傍耳にも分かるわざとらしさで言ってのける。


「……今は退く」

「そうですか。まあ私としては元々興味のない事柄ですので、それは一向に構いませんが――」


 ――退く?


 永仙のその発言に胸が高鳴った直後に此方を向く女性。リアさんの肩越しに投げ掛けられるのは、意図の読めない気色の浮かべられた視線。


「私との約束、覚えていますね?」

「ああ」


 先ほどと同じように永仙は首肯を返す。……それが、何か俺たちにとって不吉な宣言のような気がしてならない。


「流石は音に聞こえし大賢者。ではそうですね。邪魔立てされては困りますし、そこの四賢者を抑えておいてもらいましょうか」


 静かに歩み出る永仙。その姿に思わず後ずさる。……永仙は自らと四賢者との対立図式を作り出そうとしている。そして凶王は――。


「連れ帰るつもりか?」

「ええ。気に入りました。今はまだ若いですが、時が経てば一端の使い手にはなるでしょう」


 俺たちの側へ歩み寄ってくる。間に立ち塞がるはずの風の渦を、まるで気にも止めることなく。


「――させると思ってんの?」


 間隙を埋めるように俺たちの前に立つのは立慧さんと田中さん。だが先輩を文字通り一瞬で吹き飛ばした凶王を相手に、立慧さんたち二人では――。


「……貴女たちでは掛ける手間にもなりませんよ?」

「止めておけリア。いかにお前とて私と凶王とを同時に相手取る真似は出来まい。……素振りを見せれば、勝敗は決する」


 一瞬此方を向いたリアさんの視線に、刺さる永仙の声。


「徒に抗えば犠牲が増えるだけだ。それはお前とて望むまい?」

「……そりゃそうさね。ただでさえ歳を食ってガタが来てるし、冥王の奴との遣り取りで疲れちまった。婆が無理するもんじゃないね」


 言葉通りリアさんは動けない。凶王は歩みを止めない。――絶望的。そんな表現が脳裏を過り。


「ただ、そんな婆にも希望を見出させてくれるのが――」

「――ッ」


 悠然と俺たちに迫っていた、凶王の眉が顰められる。弾かれたように見上げた視線の先にあるのは――。


「――仲間ってもんさ」

「――‼」


 ――空。リアさんの言葉に、俺も気付く。天から彗星の如く降りてくる、何かの影――!


「チッ」


 その出現に焦りを覚えたのか。凶王がこれまでには見せなかった険しい表情で、何かをしようとしたとき。


「っな⁉」


 突如として地面が割れる。中から姿を現したのは、巨大な――亀? 背中に何か小さな山のようなものを背負っている、亀のような生物だ。現われた大亀は、まるで俺たちを守るように……その黒い双眸で、眼前に立つ凶王と相対する。


「――霊亀――!」


 凶王が何かを口走った次の瞬間。


「ッ!」


 後方宙返りのようなアクロバティックな所作でその身を翻す凶王。――服の裾を掠めていったのは、大きな鳥のような何か。――いや。


 よく見ればその姿は俺が知る鳥の姿とは掛け離れていた。様々な動物のパーツを合成して作られたような奇異な肉体に、その身体を彩る五色の色。今までに見たことのない、しかしどことなく見覚えのあるような気もする、そんな印象を受ける生物。


「……」


 そちらに気を取られていた俺たちの背後からのっそりと現われたのは――何だ? 一見すると日本や中国で言う龍のようだが、四本足で地面を歩いているその姿はやはり俺が知る一般的な龍のイメージとはどこか違っている。前足から蝙蝠のような翼が生えているのもこれまた奇妙だ。


「――四霊、か」


 その場に出現した生き物たちを目にした永仙が何かを呟いた、その直後。


 俺と凶王が注意を向けた空から、円を描くような軌道で何かが飛来する。――一見して馬のような外見。


 だが龍にも似た顔立ちと、額に突出する雄々しき一本の角。何より地を踏みしめるかの如く勇壮に空を駆けるその姿が、やはり俺の知る一般的な動物とは何か異なった生物であることを明確にしている。そしてその背に跨っているのは――!


「ー―」


 ――秋光さん。呆然とする俺たちと状況とを一瞥すると、一言跨る生き物に呟き、急速でこちらへと降りてくる。その自動車もかくやと言うほどの速力にも拘わらず、静かに俺たちの前に降り立った生き物。その背から素早く秋光さんが降り。


「……」


 先に曲芸師のように身を翻し、既に永仙の近くまで退き下がっていた凶王と対峙する。女性の華美な衣装には、先の大鳥の強襲によって加えられたと思しき一筋の裂け目が入れられていた。


「……乙女の着物に傷を付けるとは。噂通り無粋極まりない応対ですね。式秋光」

「……」


 凶王の言葉に反応を示すことなく、秋光さんは深刻そうな面持ちで状況の中に身を置いている。――四賢者筆頭にして現在の魔術協会の長、式秋光。


「秋光様、どうして……」

「葵が知らせてくれた。凶王が、お前たちの身に迫っていると」

「……あの堅物ですか。生娘の如くに初心な相手かと思っていましたが、存外裏では強かなところもあった、ということですか……」


 息を吐く凶王。――葵さんはこの凶王と相対していたのか。しかし、中途で凶王がこちらに足を運んだと言うことは、つまり……。


「……」

「……さて。どうしたものですか」


 四霊――そう呼ばれた四体の生き物が睨み付ける中、凶王はどこ吹く風といった体で困ったように頷く。


「衆目前で私に恥をかかせた無礼者に、今この場で処罰を加えるというのも吝かではないですが……」


 低い声音。身に纏う覇気に、思わず後ずさる。――四賢者二人を前にして、まだやるつもりだと言うのか?


「止めておけ。あの二人とまともにぶつかれば、お前とてただでは済むまい」

「知った風な口をききますね、九鬼永仙」


 不安も束の間。永仙の側は秋光さんが参入した事態を重く受け止めているらしく、撤退を促す言葉を掛けている。極めて面白く無さ気な声目付きを返す凶王。あの二人は元はと言えば敵同士。現に行動を共にしている今でも、仲は余り良くはないのか……?


「……まあ、この場は矛を収めてあげるとしましょう」


 そう言った途端、文字通りスイッチをオフにしたかの如く、凶王の纏っていた覇気が消滅する。


「久々に動いたので疲れました。貴方の顔を立てる、という名目もあることですし」

「そうしてくれ」

「――永仙」


 苦笑しながら言った永仙に向けて飛ばされる、秋光さんの声。その声を受けて、永仙が秋光さんの方に向き直る。


「久し振りだな。秋光」

「……」


 ――睨み合いのまま、どちらも互いに仕掛けようとはしない。リアさんもそれは同様だ。四体の生き物たちも俺たちを守るように立っているだけで、攻撃の姿勢は見せていない。あくまで威嚇と牽制にその行動を留めているようだ。


「――賢明だな」


 一拍のあと。こちらの体勢を見て、永仙が言葉を口にする。


「お前たちがここで力を振るえば此方もそれに応じざるを得ない。そしてその結果失われるのは、我々の命ではなく」


 手で指し示し。


「大勢の、無力な人々の命だろうからな」

「――」


 その言葉で気付かされる。――そう。俺たちが今立っているのは、決して日常から離れたどこか異質な場所でも、堅牢な壁に囲まれた魔術協会の敷地でもない。


 ごく普通。その気になれば誰でも入り込めるようなただの路地裏にいるのだ。風を操り、不可思議な生き物を四体も喚び出すリアさんと秋光さんの実力は今正に眼の前で見せ付けられている通り。相手方もそれは同様だろう。ここで彼らがぶつかり合えば、その余波がまず誰を傷付けることになるのか。


 ――そんなことは、改めて考えてみるまでもなかった。


「……」


 そんな俺の心境、永仙の言葉を肯定するように、秋光さんは黙ったままだ。何かを声に出すこと以上に。その黙したままの姿勢には、声にならないような何かが込められているようにも思える。互いに更に数秒の沈黙が続いたのち――。


「――っ」


 ――不意に。永仙の隣に、何か黒い影のようなものが姿を現す。……あれは何だ?


「……もう帰って来たのかい。健脚もいいところだね、ったく」

「遅かったですね。冥王」


 冥王――⁉ ならあれが、リアさんが相手をしていた凶王の一人――。


「ああ。もう良いのですよ。――では、行くとしましょうか」


 そう言って闇の中に身を翻した――凶王が、僅かに、視線だけ送るような形でこちらを振り返る。


「貴女がゲートまで彼らを飛ばしていれば、大層愉快なことになったでしょうに……残念です」

「――っ⁉」


 リアさんへと向けられた言葉の意味を理解して戦慄が走る。……あの黒い影のようなものは、俺たちが来るだろうことを見越して、ずっとゲートの前で待ち構えていたというのか?


 もし、リアさんが隙を見て俺たちをゲートの近くまで送っていれば――!


「……では」


 闇の中に姿を消す凶王。それに続き、永仙も踵を返して闇の中に入っていく。


「――待て」


 そのタイミングで掛けられたと思しき声に、永仙が歩みを止めた。 


「……あのとき以来だな。永仙」

「……」


 この場に来て初めて口を開いた秋光さん。対する永仙は黙したまま。こちらに向けられたその瞳には何の感情も浮かんではいない。一瞥し。


「なぜ彼らを狙う? なぜ、こんなことを――」

「……」

「――待て、永仙!」


 一言も答えることなく去って行こうとする所作。聞く者の心を震わせるような、強い叫びを以てなお、闇の中へ進める歩みを止めようとはせず。


「……これは、協会の長としての問いではない」


 その背中を見止めた秋光さんから、声が零れる。


「かつてお前と共に並び戦った、一人の友としての問いだ」


 秋光さんの感情の込められた呼び掛けに、永仙は再度歩みを止める。……だが、振り返るには至らない。


「……答えろ。永仙……!」

「……」


 様々な思いを感じさせる、喉奥から絞り出したかのような声。それに応じるようにして振り返った永仙の瞳には――。


「――それは、お前の知るところではない」


 あくまでも感情の読めない光が映っていた。秋光さんの込めたであろう諸々の感情。それを永仙はただの一言で切り捨てると、再び前を向いて。思い出したように付け加える。


「楽しみにしているぞ、秋光」


 そのときだけ微かに笑むような口調で。


「何れまた、お前と相見えるときを――」


 決然とした秋光さんの視線を背に、ただそれだけを言い残し。


 凶王、そして九鬼永仙は、今度こそ完全に俺たちの視界からその姿を消した。




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