両片想いが爆発しました。
最初の夢は、占い師だった。けれども、夢を変えたのは、あの時だ。
ガキ大将風に威張っていた子ども達に、親から与えられた小さな水晶玉を割られて泣いていれば、彼が怒ってくれた。
隣の家に住んでいて、赤子の頃から一緒に遊んでいた勝くん。
涙目で見た私には、かっこいいヒーローに映った。
それからだ。誰かを守るヒーローになると決めた。そして、その時から勝くんを想い続けた。
日本でも、ヒーローという職業が脚光浴びていた。ヒーロー。それは悪者と戦い、人々を救う職業。
大昔から、魔法に溢れた。そして魔物。魔界から出没する魔物が、建物を壊し、人々を襲う。
ヒーローはそれを退治し、人を救う仕事だ。
昔は魔物討伐人なんて言われてらしいが、ヒーローの方が定着した。
うん、ヒーローの方がいい。かっこいいもの。
義務教育の中学を卒業した私は、当然のようにヒーロー志望科のある高校に入学した。勝くんもだ。
同じ学校、同じクラス。私は内心喜んだけれども、勝くんの方は違うようだ。
いつしか、勝くんには嫌われてしまった。
嫌われているというより、なんだか敵対視されている。
何かある度に、私達は競っていた。
中間試験や期末試験でも、そうだ。順位を競っていた。
私達は優秀だ。常に上位にいて、高校に入ってから一位の取り合い。
勝くんが一位を勝ち取ると。
「よしっ」
そうガッツポーズを決める。
私が一位を勝ち取ると。
「っ……!!」
ギロリと睨んでくる。
元々、勝くんは勝気な性格の持ち主。まぁ負けず嫌いなのは、私も同じなのだけれど。
憧れで追いかけている私としては、負けていられない。
でも、こうも睨まれてしまうと、恋心が痛む。
好きなのに。
どうしてこうなってしまったのだろうか。
昔に戻りたい。幼稚園に行く時は手を繋いでいたくらい、仲良しだった。
小さい頃から、つり目でやや怖い印象を抱かれていた勝くん。でも私には無邪気な笑顔を向けてくれる普通の子だった。可愛かったな。
逆に私は感情を表に出すことが不得意で、可愛げがなかった気がする。勝くんの笑顔を見て、つられて笑うようなそんな幼子だった。
そんな昔のピュアな思い出に浸りながら、窓の外を眺める。
代わり映えしない景色がある。私の席から、誰もいない中庭が見える。
昼休みになると、昼食をとる生徒達がたむろする中庭。
くねっとしたコンクリートの道が真ん中にあり、芝生と植木がある。緑豊かな中庭。そこでは、勝くんが親しい友だちと食事をしてはサッカーをしている姿を見られる。
いわば、私のお気に入りスポット。
そんな席とも、そろそろお別れ。席替えがあるのだ。
「はぁ……」
私はため息をついて、彼のいない中庭を見下ろし続けた。
「何ため息なんてついてんだ、お前」
振り返れば、密かに想っている人が横に立っている。
茶川勝くん。
つり目のわりには、やや大きな瞳をしている。色は赤茶。
ボリューミーな髪は色素の薄い茶色だ。
瑠璃色のブレザーを着崩しているスタイル。かっこいいと思う。
私の方は、瑠璃色のセーラー服。それに黒髪と黒い瞳。ありがちな容姿。でも顔立ちは整っていると自負している。愛想は足りないけれど。
「別に。勝くんが話しかけてくれるなんて、珍しいね」
「お前が……」
イラッとしたような表情をする勝くんは、言いかけて止める。
最後に勝くんに名前で呼ばれたのは、いつだろうか。
昔は凛ちゃんって、呼んでくれたのに。
無邪気な笑顔で。
悲しくなって、俯く。とはいえ、周りには無表情にしか見えないだろう。
「ボケッとしてっから話しかけてやったんだよ。移動教室だって忘れてるだろ」
「え。あっ」
周りが綺麗さっぱり消えていた。
教室に残っているのは、私と勝くんだけだ。
「ボケッとしてんなよ」
くるっと背を向ける勝くん。
私は慌てて教科書とファイルを持って、勝くんを追いかけようとした。二人っきりで教室まで歩くチャンスだ。ドキドキしてしまうけれど、一緒にいたい気持ちが上回る。
しかし、その時だ。
ゴーン、ゴーン、ゴーン!
鐘が三回、鳴り響いた。
私も勝くんも、バッと振り返り、窓に張り付くように外を確認する。
宙に歪みが生じて、開かれた。暗黒とも言える向こう側から、ぼとりと何かが次々と落ちてきた。
蜘蛛型の魔物だ。それも数え切れないほどの数。
「よっしゃ! どっちが多く狩れるか、勝負だ!」
ニッと好戦的な笑みを向けてきた勝くんに、密かにキュンとした。
首から下げていたドッグダグを、見せ付ける。
私も同じドッグダグを首から下げていた。
実技試験で魔物と戦える力量を判断された生徒に支給されるもの。魔物と戦う許可証だ。
もちろん、怖いなら戦わなくてもいいのだけれど、魔物と戦うための職業を目指す生徒が通う学校。怖気付く者は、多分いない。
私も感情豊かなら、勝くんのように好戦的な笑みを浮かべていただろう。
勝くんは迷うことなく、窓を開けて飛び降りた。
ここ、二階なんだけれど。まぁいいか。
私も先に降りた勝くんにぶつからないように、場所を選んで飛び降りる。
着地をする寸前で、風の魔法を行使。ふわっと浮き上がるスカートを押さえて足をつく。
ドンドドドン!
早速、勝くんが魔物に爆破魔法を向けていた。その爆音だ。
勝くんの得意魔法。
ちなみに、私の得意とする魔法は水と氷だ。
ちょろちょろと避けた蜘蛛型魔物を、水の魔法で捉える。もがき苦しむ姿が可哀想に思えたので、氷結の魔法を使う。急速に凍ったそれを、手で握り潰せば粉砕完了。
あとから他の学年の生徒達も参戦し、蜘蛛駆除が行われた。
教師陣も出ていたけれど、生徒で十分と判断したのか、ただ見守っている。
「かかってこい!! その程度か魔物!」
次から次へと爆発させて、仕留める勝くん。
私はその範囲から外れる魔物に限定して、水を出し駆使して捉え、氷漬けにして粉砕した。
そのうち、動く魔物はいなくなる。
魔物退治は、終わった。
こんな感じで、学校内にも出没するのだ。
例えるなら、私は氷。それで勝くんは炎。
元々、相性は悪いのだろうか。
しょんぼりしていたら、誰かが歩み寄って、胸もとのスカーフを握り上げられた。
「ふざけんなよ! お前!」
「!」
勝くんだ。
「勝負だって言っただろう!? なんで手を抜きやがった!! お前の魔力なら広範囲で仕留められただろう!?」
勝くんの怒った顔が、間近にある。
そう。私は手を抜いた。
言い換えれば、勝くんのサポートに回ったのだ。
でも勝くんが言う通り、広範囲で水を操り氷漬けにすることは可能だった。そう。勝くんが爆破を仕掛けるよりも先に、仕留められる。
「私は……」
また睨まれることが、嫌だった。
勝負に勝てただろう。でも負けず嫌いが発揮されるよりも、さらに嫌われることを恐れた。結果的には、本気を出さなかったことに、勝くんが怒ってしまったけれども。
言い訳出来ずに俯くと、バッと乱暴にスカーフを離された。
「面白くねぇ! なんなんだよ! お前はっ!!」
「……」
「昔は占い師になるって! 夢を語ってたのに! いつの間にか、俺と同じ夢を追いかけて、ライバルになりやがって!! 試験で競うくせに、なんでこの勝負は手を抜いたんだ!? 意味わかんねーよ!!」
勝くんには、わからないだろう。
私が君に恋をして、追いかけたくなってしまったことなんて。
表情にも出ないのだ。可愛くない女の子だろう。
「何考えているんだよ!? 如月!」
私はビクッと震え上がってしまった。
苗字で呼ばれた。
久しく呼ばれたのに、苗字。
昔は名前で呼んでくれたのに。
どうしようもなく、距離を感じてしまい、虚しさが襲う。
それから、だばーっと涙が溢れてしまった。
「えっ、なっ! 何泣いて……っ!?」
涙で見えないけれど、勝くんが動揺していることはわかる。
きっと、この場にいるであろう先輩方も、私達を見ているだろう。
「だって……勝くんが……名前で呼んでくれないくらい、私をっ……嫌ってるんだもんっ」
言葉にすれば、酷いほどの痛みが胸を引き裂こうとしてくる。
私は涙を零しながら、なんとか言った。
「はっ?」
きっと理由に勝くんは呆れているだろう。
「はぁ!? 嫌いじゃねーし!! 俺は昔からお前が好きだ!!」
え。
私は聞こえてきた言葉に、目を瞬いた。
瞬く度に涙が落ちるけれど、三回目くらいで、やっと勝くんの顔がはっきりと見える。
何故かびっくりした顔をしている勝くんはやがて、顔を真っ赤にした。
「っ! なんで、こんな時に告白させんだよ! ぶぁーか!!」
え。
告白?
私は理解出来ず、ひたすら涙目を瞬いた。
「わっかんねーのかよ!? 俺はお前がっ、凛が好きなんだよ!! だからっ、ライバルになっても負けたくねーんだよ!! 好きな女なんだから!!」
耳まで真っ赤になった勝くんの言葉が、ゆっくりと浸透していく。
勝くんは、私が好き。昔から。
ライバル視していたのは、負けたくなかったから。
好きな女の子だから。余計に。
ボン。
私も顔が真っ赤になったのを感じた。
「わ……私も……」
「はっ?」
「昔から、勝くんが好き」
ちょっと声が小さくなってしまったけれど、それでも想いを打ち明ける。
これ以上は無理なくらい、つり目を見開いた勝くんは、わなわなと震えたあと告げる。
「じゃあ、俺と付き合え!!」
ボン! と何故か爆発の魔法が発動。力んだのかな。
交際の申し込み。いや、強制?
「……はい」
私はへにゃりと笑みを溢す。
そうすれば、勝くんは久しぶりに無邪気な笑みを、私に向けてくれた。
仕事で忙しい中、今日見た夢を元に書き上げてみました。
しかし、連載で書きたい気持ちが膨れる内容です。
もっと設定を加え、二人の両片想いをもっと書き、
さらにはカップル成立後の二人も書きたいなぁ。
なんて思える内容です。
100作目に書くかもしれません。
ツンデレ……いえツンギレ幼馴染とクーデレヒロインと魔法学校もののお話。
読みたいと思ったら、感想に一言書いてくれたら嬉しいです。糧にします。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
20190807