表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

相談屋1

第9話です。

どうぞお楽しみください。

「おい、あそこ。誰か倒れてなぇか?」


「ほんとだ!お、おい。あんた、大丈夫か?」


 2人の木こりが森の中を歩いているとき、1人の男が倒れているのを見つけた。


「だめだ、目ぇ覚まさねぇ」


「仕方ねぇ、連れて帰るか」


 2人の木こりは男を担いで帰路につく。


 木こり達が家に着いてから約1時間、男は家の寝具に寝かされたまま、一向に目覚める気配は無い。


「やっぱり、医者呼んでくっか」


「まぁそれがいいだろうなぁ。身体中に切り傷があっからなぁ」


「死にはせんだろうが念のためなぁ」


 倒れていた男の身体には無数の切り傷があった。しかしそれは命に届くようなものではなく、刃物で軽く撫でられたような傷であった。


ーーバァン!!ーー


 大きな音を立てて扉が開き1人の少女が飛び込んできた。


「大変よ!!」


「おいおい、扉は優しく開けてくれ、壊れちまう」


「そんな事より!兄貴達ちょっと来て!!」


「なんだ、そんなに慌てて」


「いいから!!街の広場よ!!早く!」


「やっかましいのぅ」


 2人は少女に連れられ街の広場へ。そこには街の住人にとって見知った顔があった。


「なんでぇ、領主様の秘書じゃねぇか」


「広場に居るってことはなんかお触れでもでたんけ?」


「静粛に!領主様からの御達しである。今日より1週間後の定期納税についてである。次回の納税より税率の引き上げを行う。納税額は前月の給与40%とする。以上」


 秘書の読み上げた文言に集まった人々はざわついた。


「え、嘘でしょ?」


「本当に?」


「40%!?いきなり今までの8倍だと?」


「ふざけるな!」


「何考えてんだ!」


 不平不満が投げつけられるも秘書の顔色は1つも崩れなかった。


「それでは私はこれで失礼いたします」


 それだけ言うと秘書は護衛を連れて広場を去った。


「ここに居ても仕方ねぇ、とりあえず帰ろうか」


 2人の木こりと少女は広場の騒ぎを背に、木こりの家に帰った。

 3人は家に帰るなり領主への文句を連ねていた。


「何考えてんだ領主様は」


「40%も持って行かれたら生活が破綻しちまう」


「やっぱり前の領主様の方が全然よかったわ」


「そればっかりは仕方ねぇ、俺らが言ったって変わりゃせん」


「なんで急に領主様が変わったんだろ……」


「前の領主様は本当に良いお方だった。領民の事を第1に考えてくださってたからなぁ」


「懐かしんだって仕方ねぇ、これからどうするか考えようや」


 そんな事を話していると少女はベッドに横たわる男の存在に気がついた。


「え?ねぇ2人とも?ベッドに誰か居るんだけど」


 事情を知らない少女から見れば知らない男がベッドに居た訳である。少女の声は震え、顔は青ざめていた。


「おぉ!税の事で忘れてた。この男はな、森で倒れていたのを見つけてな、手当のために連れて来たんだ」


 それを聞いた少女はホッと安心したようだった。


「そういやさっさと医者呼んでくるかな」


「医者はもう大丈夫です。手当していただきありがとうございます」


 医者を呼びに行こうと木こりが立ち上がった時、男はゆっくりと体を起こしながら弱々しい声でそう言った。


「あんた、目ぇ覚めたのか」


「えぇ、おかげさまで」


「とりあえず茶でも飲むか?」


「ありがとうございます。いただきます」


「目が覚めたばかりの所をすまんが少し話を聞いてもええか?」


 お茶を手渡し、木こりは男にそう聞いた。


「勿論です、なんでも聞いてください」


「じゃあ早速ですまんが、お前さんはなぜ森で倒れてたんだ?」


「長くなりますがお聞きください。私は先日まで領主様のお屋敷に勤めておりました」


「なんと、そうじゃったか」


「私は領主交代と現領主について調べておりました」


「確かに急な領主交代だったけどそんなに調べるほど不思議な事なの?」


「ええ、領主交代自体はあり得る事ですが、我が国での領主交代とはそもそも、領主としての能力に欠けると国が判断し、注意通告を受けた上で尚、改善が認められない場合に交代させられます。にも関わらず、前領主様は通告無しにいきなり交代させられたのです」


「そうだったんだ、知らなかったわ」


「さらに、私はある日聞いてしまったのです。現領主が部屋で誰かと話しているのを」


「何を聞いたんだ?」


「そのとき現領主はこう言っていました『前領主からこの領地を奪えたのはお前のおかげだ。お前に騙せない奴はいないのだろうな』と」


「それって!まさか!」


「はい、前領主は誰かに騙されたのでしょう」


「それが本当なら大変なことだぞ」


「ですので私は領主を探っていました。しかし、先日それが領主にバレてしまい、どこまで知ったのかと拷問を受けました。私は隙を見て逃げ出すことに成功し、森へ逃げ今に至ります」


「それなら聞いた事を国にリークすればいいんじゃない?」


「いいえ、そうしたいのは山々なのですが、証拠は何もありません。おそらく私が虚偽の報告をしたという事で終わってしまいます」


「なるほどな……こればかりは領民だけではどうしようもできんな」


「まさかそんな事になっていたとは……あんたはどうするつもりなんだ?」


「私は少し休ませていただき、また情報を集めようと思います。前領主様には本当にお世話になった身です。前領主様が騙されて領地を奪われたのなら私は取り戻して差し上げたい……っ!」


 男の目には涙が滲み、震える声には強い意思が感じられた。

 そんな男を見ていた少女は何かを思い出したような声を上げた。


「あ!なら町外れの相談屋に行ってみない?」


「相談屋?なんだそれ」


「私も行ったことは無いんだけどね。なんかなんでも相談していいんだって、場合によっては解決もしてくれるらしいよ」


「怪しくないか?それ」


「いやいや、かなり評判いいよ。結構解決率も高いらしいし、凄い切れ者なんだってさ」


「……そうですね、何もしないよりはマシでしょう。とりあえず行くだけ行ってみましょう」


「あんた、もう動いて大丈夫なんか?」


「ええ、歩くぐらいなら大丈夫です」


「なら行ってみるかな」


「なら私が案内しまーす」


 こうして4人は町外れの相談屋に向かった。

 その頃、件の相談屋には男が1人椅子に腰掛けていた。


「ーーっクシ!誰か私の噂でもしているんでしょうかね」


 独り言を呟き、テーブル上のティーカップを手に取り紅茶を一口。


「さて、今日はこの世界に来てから初めての大仕事。そんな気がしますね」


 男は不敵に笑った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ