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おしまいの地でまた会おう  作者: 秋月
第三章 おしまいの地で――
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エピローグ おしまいの地でまた会おう

 かつて、魔と人との争いがあった。


 魔王が生まれては魔族の時代に、人の中から勇者が生まれては人間の時代に。


 そうして歴史が繰り返されていたある時、一人の勇者が生まれた。名をレイルという。生まれは凡なるものの、優しき心と誰よりも強き剣の腕を持ち、聖剣の名の下に魔族軍と戦った。


 しかし戦いの末、魔族と人間は互いに酷く疲弊した。


 レイルはその間を取り持つべく、魔王との間に同盟を取り付け、人と魔族が同じ世界に生まれついてより続いてきた人魔大戦にとうとう決着を打った。


 長らく続いた戦が終わっても、いきなり和解というのは難しかった。


 幾度となく問題が起きた。人魔問わず反乱がおき、問題がおき、軋轢も根強く残っていた。


 それでも、互いに憎みあっていても始まらないのだ。言葉は分かるのだからと、歩み寄る者たちも居た。戦いを通じて分かり合った戦士たちも居た。純粋な興味から遊びにさそう子供達も居た。


 いつまでも憎しみや怒りを忘れられないものもまた居た。


 しかし、戦が終わった事に代わりはなく、それを喜ぶものは多く居た。無論、軍需で儲けていた商人の一部は残念がっただろうが、それならそれで、また別の商売は出来た。


 なにせ、人だけでなく、魔族という新たな商売先を得たのだ。魔族の商人達もまた同じくである。


 すぐさま何もかもが改善したわけではなかったが、分かり合おうという意思がどちらにもあった。人魔戦争はここに終結を迎え、新たな時代――遠く後に、"太陽の時代"と呼ばれる、人魔共栄の世界が広まり始めたのだ。


 その最もたる功績者、勇者レイルは、しかし、その後あまり多くの伝説は残さなかった。残された伝説もまた、捏造の色が濃いものであった。


 何をしていたのかといえば、なんらかの理由で追放した勇者隊員、"狂戦士(バーサーカー)"を探して居たというのが通説である。


 というのもその後、人間の国々で栄誉を受けることなく、そのまま辺境の地を巡って居たという話が残っている為だ。傷だらけの男を見なかったかと、各地で聞いて回って居たという。


 結局、その男が見つかったのかどうかは、誰も知らない。


 レイルは五年の旅の末に、ユーベルハイド古戦場へとたどり着き、それを最後に放浪を終える。そして、辺境の小さな町に剣術の道場を建て、その後歴史の表舞台に立つことは一つも無かった。


 勇者レイルの物語は、そこで終わっている。ただのレイルとなったその手には、見事な銀の光を宿した剣が、何時でも握られていたという。




 辺境の間である伝説があった。


 それは、人魔大戦の終戦より一年前ほどに流行った噂話で、内容は、"襤褸を着て大剣を担いだ男が、何の見返りも求めずに悪魔や怪物を殺して回っている"というものである。


 あまりにも荒唐無稽な話だが、しかしこの伝説は信憑性が高い。それはまったくの同時期に、何匹も異名持ち(ネームド)の怪物がその男に次々と仕留められているが、その報奨金が払われた形跡が一切ないからだ。


 ギルドの不正という説もあったが、その報奨金は長い間宙を浮かんだ末、始末に困り、最終的に国庫に入れられた事が判明している。


 しかも同時期、その近辺の長耳族(エルフ)の森でその男が確認された形跡もある。悪魔襲撃事件を戦士たちと協力して鎮め、その後いずことも無く姿を消したという記録が残って居たのだ。


 また、こちらは口伝だが、稀代の鍛冶師と呼ばれた石人族(ドワーフ)のルイ、その作のうち一本を貰い受けたという話もあった。


 では肝心のその男はといえば、まるで最初から居なかったかのようにその痕跡を断っている。


 最後の目撃情報によれば、その男は自分は騎士ではないとだけ言い残し、赤いローブの男を追ってユーベルハイド古戦場へと向かったという。


 男が名乗らなかった為、本名は残って居ないが、彼の二つ名である"襤褸の騎士"という名前だけが後世にまで伝わった。


 彼の行方は知られていない。しかし、ユーベルハイド古戦場では、人魔大戦によって出来たものではない激しい戦いの痕を見ることが出来、そこで彼が戦ったのだろうという推測は立っている。


 彼がなんの為に戦っていたのか、誰にも知る術は無い。故に、幾つもの憶測が起こり、"襤褸の騎士"は都合の良い物語の題材と化した。


 魔族から離反した戦士という説、復讐に駆られたという説、戦いに飢えていたという説。無数のありがちな理由やら説やらが唱えられ、そして時代の流れにつれて、不思議と一つの説だけが残った。


 騎士ははじめ、苦しみから逃れる為に剣を振るい、最後は誇りの為に剣をふるって死んだ、という説である。


 なにが本当の事なのか、証明するものは何一つとしてない。あまりに昔のことだからだ。


 そして、証明する必要もまた、存在しなかった。少なくとも、後の時代を生きていく者たちにとって、名も無き"襤褸の騎士"はそういう存在であったのだから。


 英雄足りえなかった無名騎士の伝説は、今も尚、その形だけが語り継がれている。




 これら二人の人物は何らかの共通点や関連性が幾つも見られ、それらを追う学者は多く存在する。


 一体レイルは、何故、一度は追放した"狂戦士"を追っていたのか。どうして"襤褸の騎士"は誕生したのか。そして、二人の間にどういう関係性があったのか。


 何百年とたった世界で、それらの解明、立証は難しい。それだけの時間を隔てれば、文献の正確性とて定かではないからだ。


 しかし信頼できる文献だけを見て言うのであれば、レイルと"襤褸の騎士"、二人は友人の様に近しい間柄だったのだろう事が判明している。


 そしてある文献にはユーベルハイド古戦場跡地で発見された銀の剣と勇者の関係について記されており、勇者レイルはそれを見て涙し、それきり勇者と名乗る事をやめたという。


 そんな銀の剣はレイルの老死以降もその子孫に代々受け継がれていたという記録があるが、ある時期に大規模な騒動があり、その際に手を離れ消息不明。故に、今は存在すら不確かな剣である。


 だが、その銀の剣について詳細に示した文献によれば、その剣の刀身にはこう刻まれていたのだという。


 "約束の地にて(おしまいの地で)再び(また)相見えん(会おう)"と。



 "おしまいの地でまた会おう"を最後までお読み頂き、誠にありがとうございました。

蛇足的なエピローグで申し訳ない。


 いかがだったでしょうか。


 苦しんで、傷ついて、戦いの中に閉じこもり、その果てに誰かの救い主になったアラン。

けれど結局、後の世に名前を残す事はありませんでした。


 それは偶然で、けれど名にこだわりが無かった彼だからこその必然でもあります。


 しかし、彼の物語は、形を変えて、誰かの口から、"襤褸の騎士"として語られることになります。

そういう意味では、「何も残さず散っていく」とは少し違ったかもしれません。


 なにはともあれ、終わり行く彼の物語にお付き合いただき、改めてありがとうございました。


 また何時か、ご縁があれば、どこかで。

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