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舞香菜と帝王の夜Ⅰ

6月20日に改稿完了しました。

これにより一通り改稿作業が完了しました。

長い間お待たせしました。

 舞香菜は眠れないでいた。

ちょっと好意がある雪音が相部屋じゃないからとか、普段うるさいこはるがさらにうるさいいびきをかいているとか、少し憧れていた二段ベッドの上で寝られないとかそういうのは恐らく関係ない。

ただ、眠くないわけでもない。

"冒険者になる"。それが頭にこびりついて睡眠を阻害する。

知らない町への貢献か。それとも自らの安全確保か。

もうとっくに運命は決まっているのに中々受け止められない。

どこかで"逃げてしまえばいい"という感情が渦巻いていた。


ここで考えても何も出てこないと思い、少し外に涼みに行くことにした。


――――――――


 窓が無く暗い廊下を音を立てずに歩いていく。

廊下は完璧なまでに"闇"と化していた。もしかしたら自分は今浮いているのではないかと錯覚してもおかしくないほどだった。

舞香菜は暗闇に手を伸ばし、壁に顔が当たらないようにする。

とりあえず壁さえ見つければあとはどちらかに曲がれば階段があるはずだと思った。

その壁を探していると突如何かにぶつかった。


 「痛っ」


ぶつかった途端物音ではなく誰かの声がした。

――それは舞香菜には聞き覚えのある声だ。

ポケットから充電が残り32%のスマホを取り出し声の主がいると思われる方に向けた。


 「眩しいっ」


声の主は――なんとあの問題児こと帝王のかなただった。


か「……あなたは先程の」

舞「ええ、そうよ」

か「…なぜここにいるのです?」


少し嫌味っぽく聞こえたが舞香菜はそんなことはなかったことにして会話を進めた。


舞「ここに泊まることになったの」

か「はぁ…。ではなぜ部屋にいないのです?」

舞「少し風にあたろうと思って。なかなか寝付けなくてね」

か「…では屋上はどうです?私もご一緒でよければ」

舞「屋上ね…ええ、ぜひ」


そして私たちはスマホの光を頼りに屋上へ向かった。


――――――――


 少し冷えた風が、優しく吹きつける。

この世界に来たときには点いていたはずの街の灯りはほとんど消え去って、しーんとしている。

空には無数の星が輝いている。


舞「きれいな空ね」

か「でしょう?うちの自慢の一つなんです」


かなたは少し興奮気味に言う。

こう見れば自分と何ら変わらない普通の少女のようだ(年齢と地位はともかく)。

なぜ最初会ったときあのようなしゃべり方をしたのだろうかと舞香菜は疑問に思った。

かなたの爽やかな声に反して舞香菜の心の中はモヤモヤしていた。


か「そういえば…」

舞「え?」

か「なぜあなたはここへ泊ることになったのですか?」

舞「え、えっと…」


舞香菜は戸惑いながらもストレートに答えることにした。


舞「…一応冒険者になったからよ」

か「冒険者…そう、あなたが…」

舞「そうよ。さっきいた子たちと一緒にね。ちなみに私は舞香菜。よろしくね」


自らが冒険者になったことをついでにさりげなく自己紹介を入れた。

しかし"冒険者"になったことを伝えてよかったのかと言ってから後悔する。

明日には冒険者の集団から離れているかもしれないのに。

逃げて除名して恥さらしになるかもしれないのに。


か「…舞香菜…さん?」

舞「いや、"さん"はいらないわ」

か「はぁ…」


で、ここで気になっていたことについて聞いてみる。


舞「そういえばさっき大広間での口調と今の口調だいぶ違うけど…」

か「あっ…それはですね…」


かなたが言葉を切り出そうとしたその時、

彼女の瞳から涙が零れた。


舞「え、えっと…大丈夫?」

か「え、ええ…大丈夫…ぐすっ…です…」

舞「あ、いや、無理しなくても大丈夫だから…」

か「ごめんなさい…えぐっ…昔の事を思い出してしまって…ぐすっ」


どうやら聞いてはいけないことだったようだった。

過去――確か260年前に戦争があったとかなかったとか。

それだろうか。

しかしそれと口調の因果関係はわからなかった。いや、分かるはずがなかった。


か「えっと…」


涙を浮かべながらかなたは言う。


か「…今晩ここで一緒に寝てもらえませんか。怖くて寝付けなさそうで。でも冒険者さんが一緒なら安心して寝られる気がして…」

舞「…ええ、わかったわ」


戸惑いながら舞香菜は答えた。


かなたは目を瞑った。静かな寝息を立てて。

しかし、目からはいまだ涙が流れていた。


――――――――


 舞香菜は思った。

はるかが「胸騒ぎがする」って言っていたこと。

だから冒険者として私たちを雇ったのだと。この町の平和のために。


平和と言われるこの異世界。

…果たして本当に平和なのか。

舞香菜は膝の上で寝ている少女を見つめながら考える。

…これが平和なのか。

自分の膝上で眠る少女の涙をふき取りながら考える。


"平和なのか"が"平和ではない"と確信に変わった瞬間は舞香菜上を向いた。

そしてそっと心に誓う。

この世界を本当の"平和"にしてみせると。

そして彼女の心の闇を取っ払ってこの自慢の星空のような心にしてみせると。


それが冒険者の使命だからだと。

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