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頼るべきもの

6月18日に改稿完了しました。


今回は誤字もあったのでそちらの修正もしました(一九三様 誤字のご指摘ありがとうございます!)

他に誤字が判明した際はご指摘していただけると幸いです。

雪「全く…こんなに殴らなくても…」

卯「先に危害加えたのは貴様の方なのによくもそんなこと言えたものね…」


相変わらずだ。殴り合いは私たちがなんとか収めたが、雪音と卯乃は仲違いしているようだ。


それにしても…


茜「…腹減ったな」

美「そうね…」

こ「何か食べるものはないのか…」


一同が黙り込む。

そして唸り、首を傾げた。


こ「…無いすね」

茜「おう」


私もそれなりに考えたが、やはり浮かばなかった。

森の中を通ってきた時、薄暗く、食べ物の事まで頭が回る状況ではなかったが、殺風景な森という感じで、素人が見て食べられそうなものがありそうではなかった気がする。


はぁ…飯は抜きか…。

一同は揃ってため息をつく。


美「どうするのよ。このままじゃ餓死しちゃうわ」

こ「雫はいいよな~(食べ物)あるから」

雫「…喧嘩なら茜に頼んであげるわよ?」

茜「いや、なんでよ!!」

雫「だって茜不良だったんでしょ?それくらいできるよね?」


私は確かに昔不良友達とつるんでいたことがあった。

教室のチョークを全て粉砕したり、自動販売機をバールで破壊したり、人の家の壁に見事な絵画を作ったり、ゲームを自作しているとかいう奴の家に勝手に忍び込んでデータ消したりしていた。

周りに不幸をまき散らしてばかりの大バカ人間だった。


だけど殴り合いの喧嘩とか、集団リンチとかそういうのはしたことは無い。

怖くてできなかった。仲間にもやれやれと言われた。だけどできなかった。

ただの大きな声。怒鳴り声。それらには慣れていた。

だけどあの悲痛で涙ぐんだ聞いただけで脳の中が犯されそうな声だけは聞くに堪えられなかった。


雫「…ねえ、茜…?」

こ「あれ~?茜ちゃんどうしたんですか~?そんなに怖いんですか~?」

茜「…あ、」


また自分の世界に入ってしまった。

この癖治らないのかな…。


茜「ああ、今日は腕が調子悪くてな。無理だな。アハハハハハ」


無理やり笑顔を作り慌てつつもテキトーな言い訳をする。


雫「まあいいわ。これ以上けが人出なくて済むし」

ち「とりあえず行動しましょう!動かなければ何も変わりませんよ」


ちさが立ち上がる。その時ポロポロと丸っこいものがちさのポケットから零れ落ちた。

それをこはるが手で拾い上げる。


こ「…なーんだ。どんぐりか。ちっ、お金かと思ったのに」

卯「そんな立体的なお金があるわけないでしょ…ってどんぐり?」

美「どんぐり…どんぐり…」


どんぐりホントに拾っていたのか…。

一同がポケットからどんぐりを取り出し、顔の前に持っていきそれを眺めた。

…って私はガk…子供と口喧嘩してて拾ってないんだっけ。

そしてよだれを垂らす。女子とは思えないほど下品である。

…ってまさか食べる気じゃないよな?

まあ確かにピーナッツみたいに外の殻を割れば白いの出てきますけど…。


雫「灯台下暗しよ!!これは食べるしかないわね!!!」


おいマジかよ…

雫が薬切れかけの時のテンションで言う。

ホントに切れたんじゃないだろうな…。さっきもおかしかったし。

本当だったら1日。いや、半日も持たないだろう。

酷けりゃその半分すら持たないかもしれない。


雫ち美こ卯雪舞「「「「「「「いただきまーす!!」」」」」」」


一同は裸になったどんぐりを笑顔で口に放り投げる。

私はそれをまじまじと見ていた。

あの時くだらない口喧嘩してないで大人しくどんぐり拾っておけばよかった。

…もとはと言えば舞香菜のせいなんだけどね。

私の事クリントンとか言うから。


舞「うっ…」


鈍い声と共に、突如一同の顔が青ざめる。


卯「な、なんだこれ…」

ち「不味いです~…」

雫「この世にこんなマズい食べ物があったなんて…」

雪「というか食いもんじゃないだろこれ…」

美「私はこれをスープのだしにしようとしていたのか…」

こ「誰か水寄越せ!!」


どうやらおいしくなかったらしい。というかマズいらしい。

流石森や林に落ちてるだけで食べられることのないものだけあるな。


あの時あいつと出会ってなかったら渋々どんぐりを拾って、今頃私もどんぐりの餌食にされてたかもしれない。

あの口論の末、私は見事一利を得たのだ。

ありがとう。クソガキ。

名前は忘れちゃったけど。


――――――――


美「ブーーーーッ。まだ舌に渋みが残るわね…」

こ「腹には全然来ないのにひどい目に遭った…」


結局誰の腹の虫もおさまらず、また振出しに戻った。

死ぬほどではないが、流石に何か口に入れたいものだ。


卯「で、どうするのよ」

雪「…とりあえずさ、街行ってみる?」

美「確かにいいわね。さっきっから町の入口っぽいところにずっと屯ってる訳だし」



 私たちはとりあえず元の世界に戻れるまで野宿をすることにし、それに必要な物品を取り揃えることにした。

雫と雪音が雑貨。卯乃と舞香菜が着替え。美涼とこはるが住処の確保。そして私とちさが食べ物をそれぞれ確保することになった。


――――――――


 異世界。とはまだ断言できないが、この異国の地でも秋なのか肌寒い。

断言できない。というよりは認めたくないという願望の方が強い。

だって森の奥で寝るだけで異世界転移なんてありえないでしょ。


私たちは一歩、また一歩とレンガで敷き詰められた道を歩んでいた。

心はまだ慣れていないが、足はとっくにここに慣れてしまったようだ。


ち「ところで何買いますか?」

茜「そうだなぁ…」


本当ならスープとかにしたいところだが、か弱い少女二人がお椀に入った液体を8人分持っていくのはほぼ不可能に近いだろう。

こうなればできたてのハンバーガーとか具だくさんの肉まんとかがいいだろう。

…考えていたら余計に腹が減ってきた。さっさと買って拠点に戻るとするか。


茜「とりあえず温かいもので」

ち「わかりました!」


そう言ってちさは辺りをきょろきょろ見渡す。

振り向く姿がホント愛らしい。


そして獲物を見つけたかの如く目を丸くした。


ち「あれなんかどうでしょう」

茜「え、どこ?」


ちさは「こっちですよ」と私の手を引っ張る。

そしてたどり着いたのは――


茜「ミ…ミネストローネ…?」

ち「はい!私の大好物なんです!」


ちさが目を輝かせながら言う。

確かに温かいものだが、よりによって懸念していたスープものだ。

私が"液体はなし"と言い忘れたのも悪いが、後輩の好物とはいえ流石に持てないのでは意味がない。

悪いが断ろう。


茜「…悪いがミネストローネは無理だ」

ち「えっ…」

茜「だって私たちだけで8人分も持てないだろ?」

ち「………」

茜「だからさ、他あたろう」

ち「……ぐすん」


ち「…私ミネストローネ食べたいです」


ちさは泣きながら言った。


茜「気持ちはわかるけど、無理なものは無理だろ…」

ち「あかねしぇんぱい…」


そう言って私に抱き着く。そして目をこちらに向けた。

…だめだ。逆らえない!


茜「わ、わかったよ。ちさの分だけだけど買うよ!!」


ちさの目に輝きが戻る。そして表情がぱっと明るくなった。


ち「ありがとうございます!茜先輩!」



そしてミネストローネの屋台に向かう。

私は店員にお金を突き出す。


茜「ミネストローネください!」


店員は困った顔をした。

流石にやりすぎたな。と思っていると。


店員「…ああ、それは構わないが」

茜「…?」

店「…その手に持っている紙切れは何ですか?」

茜「……??」


えっ。何ってお金ですけど。

正真正銘日本銀行で作られたやつですけど?


店「どこかの国の通貨かね?だけどうちはnol(ノルツ)しか対応できないんでね。」


nol…。どうやらそういう通貨があるらしい。

…ということは日本円は紙切れ同然ってこと?

じゃあここは本当に日本じゃないの?

今更な質問だが改めてこの疑問を呈する。


ち「茜先輩、ミネストローネまだですか~?」

茜「そ、それが…」


事情を一通りちさに説明する。

それを聞いたちさは目の光を失い、膝から崩れ落ちた。


茜「ちさ!」


だめだ。とにかく拠点に戻ろう。

私は放心状態のちさをおぶって森の方へ戻っていった。


――――――――


こ「おお!帰って来…って手ぶらかよ」


私たちの手元を見るやいなや、こはるは塩対応をする。


茜「しょうがないでしょ。それより大変なのよ」

こ「なんだよ」

茜「ここは日本じゃないの!つまり日本円が使えないの!」

美こ「「…えっ」」


2人は少し遅れて反応した。


美「日本語は通じたの?」

茜「あ、そういえば通じていたな」


確かに店員に日本語で話しかけて、日本語で返ってきた。

しかし、お金は日本円ではない。


つまり私たちは本当に異世界に来てしまったのか…?


卯「おい、異世界(ここ)クソだぞ。日本円が使えないんだとよ」

舞「卯乃ったら現金で2000万も持ってるのに何一つ買えないからって暴れようとしたのよ。全く、止めるの大変だったわ」


卯乃と舞香菜が帰って来る。

ってなんで小遣い全部、しかもそんな大金を現金で持ち歩いてるんだあいつは…


こ「ああ、さっき聞いたよ」

舞「というかこいつ私の胸勝手に揉んできて「小さいわねぇ~。でも私小さいのも嫌いじゃないわ♡」とか言ってきたんだよ!クズよクズ!!」

こ「"揉む"っていうより"触る"だろ」

茜「お前に揉むところないだろ」

美「胸大きいと大変よ~。肩凝るだけだし」


美涼が卯乃を煽ったところで雫と雪音が帰還した。


雪「…そんなに顔を赤くしてどうしたの?」


見てみると卯乃の顔が真っ赤に染まっていた。

相当なコンプレックスなんだな。

そう思い自らを反省させる。


雫「どうせ貧乳プレイでもしてたんでしょ」

こ「貧乳プレイってなんだよ」

雫「貧乳を煽ることよ」

雪「そうなのかー」

こ「とりあえず雪音も貧乳プレイしようよ」

雪「おうよ」

卯「…やめてね」


――――――――


何も買えず、何も食えずで途方に暮れた私たちはそのあともう一度森の中へ行き、食料を漁りに行った。

だが、食べられそうなものは何一つ見つからなかった。


美「で、どうするよ」

茜「って言われてもね」

雪「とりあえず市役所みたいの無いの?」

茜「わからないよ」

美「…って調べればいいじゃない」

茜「どうやって」

美「文明の利器スマホちゃんがあるじゃない」

茜「スマホちゃんってなんだよ」

こ「そんなんどうでもいいよ。さっさと調べよう」


こはるが話を遮ると皆が一斉にスマホを取り出す。

そしてマップを開く。


皆「……………」


しかし、いつまでたってもマップは出てこない。それどころか電波すら受信できていない。


皆「……………」


こ「んあああああああっ!!!」


こはるが叫びながら立ち上がった。

そしてスマホを地面に投げつけた。

それを見た雪音らが同じく地面に叩きつけた。


雪「クソが!!」

卯「この役立たず!!」

こ「何が文明の利器だ!ふざけやがって!!」


はぁ…と雫はため息をつく。


どんぐり、金、スマホ。私たちは完全に頼るものを失った。

この先どうしたらいいのか。どうなるのか。そんなことが頭をよぎる。


ち「…茜先輩」


私に膝枕されているちさが光無き目で私を呼ぶ。


茜「なんだ?」

ち「さっき立派な建物があったんです。市役所かどうかはわかりませんけど。

屋台があったところを真っすぐ行ったところです」


屋台を見つけるのに必死だったからそんなもの気にも留めなかったな。

あまり動き回りたくはないが、目的地は明確だ。

そこで何か援助があるなら行く価値はある。


私は再びちさをおぶり、立ち上がる。


茜「行くぞ。ついてこい」


私たちは屋台の方へ歩いていった。

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