初の魔物退治…だよね?
美「私の今思いついた魔法!くっ、くらえ!」
美涼が杖を両手で構えた。
そして魔物に向かって叫んだ。
美「ふっ、フリーズ!!!」
フリーズ。恐らく氷結魔法だろう。
美涼は魔法を放った。
…と思われたが、何も起こらなかった。
唯一変わったことと言えば、美涼の顔色くらいだろう。
しもやけしたように赤くなっていた。
氷結魔法はもしかして美涼本人にかかったんじゃないかと一瞬疑ってしまった。
美「えーい!もう一回!フリーズ!」
美涼はもう一度魔法を放とうと試みる。
当然だが、何も起こるはずはなかった。
美涼はその後も唱え続けた。
美「ふっ、フリーズ!ぐすっ、フリーズ!ふっ、ふり…ううっ…」
美涼は恥ずかしさからか、とうとう泣き出してしまった。
そしてこはるの方へ飛び込むように走った。
こ「わっ!バカバカ!私は今刃物を持って――」
言い切る前に美涼の体重でバランスを崩し、こはるは押し倒された。
美「刃物なんていつも持ってるじゃ~ん!うわ~ん!」
こ「ば、バカ!そういう意味じゃねぇよ!離せって!魔物が目の前にいるんだぞ!」
そういえばそうだった。寝ぼけていた私は今更のように思い出す。
私だって武器は持っている。ならば私も戦わなければ。
茜「おりゃー!」
剣を手に持った私は魔物に切りかかった。
ただ、剣を振るのはは思った以上に体力を消耗し、すぐにばててしまった。
私は一目散に魔物から離れた。
…だけどこの魔物さっきからちっとも動いていない気が。
もしかしてだけど、さっきの美涼の魔法、魔法が出てないように見えて実は魔物にはしっかりダメージ入っていたんじゃない?
雪「そんなんでへばってるんじゃ茜もまだまだだな。私が手本を見せてやるよ」
なぜか雪音がドヤ顔で魔物に切りかかった。
…ちょっとムカつく。
雪「ん?剣が入らなくなったぞ。防御か?それとも死んでるのか?おい!何とか言ってみろよ!」
死んでたら話せないだろ…。というかそんなゼリーみたいな奴がいきなりしゃべりだしたら逆にホラーなんですが…。
雪音は剣の先で何度も魔物を突いている。
固形状と化した魔物は微動だにせず、ただその場に佇んでいた。
雫「とりあえずちさちゃんギルドに運んだら?この魔物は私たちが処理しておくから」
雫はこはるに指示した。
こ「わかった。美涼も使い物にならないから一緒に連れてくぞ」
卯「そんなこと言って帰って部屋でイチャイチャするつもりじゃないでしょうね…」
こ「しねぇよ!」
美「こはる…私のことをそんな風に見てたのね…///」
こ「やめろ!とにかく行くぞ!ほら、私がちさを負ぶってくからついて来いよ」
こはるは顔を赤くして、森の出口に向かった。
その後ろを満面の笑みの美涼が風になびいた葉のようにふらふらとついて歩いた。
卯「まったくあのクソレズ共が…。舞香菜みたいに誰にでも好意を寄せないにしても困ったものだわ…」
卯乃がため息をつく。
正直あの二人は一緒に暮らしている友人止まりの関係なのだと思っていた。
こはるは否定していたようだけれど、あんなところを見せられたらただの関係ではないと思われても仕方ないんじゃないか。
実際私もそっち系の関係と思ってしまったし。
――クソレズと言えば、そういえば先程から舞香菜の姿を見かけていない。
茜「舞香菜はどこにいるんだ?」
卯「さあ。私が起きたころにはいなかったかな。というかそれどころじゃなかったから覚えてないわ」
その時、私の後ろでガサッと物音がした。
そこには二つの影が待ち伏せていた。
「なんだお前らか」
そこにいたのは猫を擬人化させた冒険者。朝部屋の前で会った二人だった。
卯「なんだとはなんだ!残念ながらお前の相手をしている場合じゃないんだ」
「別に用なんかねぇよ」
卯「クソレズの野郎を探すので忙しいんだよ」
「聞いてねぇし。あとそのクソレズならさっき会ったよ。それから『野郎』ってのは男につけるもんだぞ」
彼の言うクソレズは多分舞香菜のことだろう。
茜「それどこで会ったの?」
「向こうの方だ」
彼は私から見て右を指さした。
知らんとか言うかと思ったが案外あっさり教えてくれた。
「それにしてもいきなりしろに抱きつきやがって…。あいつはどういう神経してるんだか…」
茜「す、すいません…」
なぜ私が謝ってるのか。
ただこれで彼の言うクソレズが舞香菜であると確信できた。
あと、彼の隣の白い髪の子は「しろ」という名前らしい。
見た目通りだ。覚えやすい。
というと彼は「くろ」といった具合か。黒髪だし。
く「で?こいつは何してんだ?」
くろは手のひらを差し出すように雪音を指した。
口が悪いにしては仕草はジェントルマンそのものだった。
雪「ん?私か?魔物が動かないからこうして突いているんだ」
く「はぁ?」
くろが呆れ顔になる。
く「それどうみてもドラゴンの唾液だろ。乾いて固まってるようだが」
茜雫卯雪「「「「えっ…!?」」」」
ドラゴンの唾液って…嘘でしょ!?
一切動かなかったのってそういう事…!?
恥ずかしさのあまり膝から崩れ落ちた。
く「はぁ…。とにかく俺たちはもう行くぞ。これ以上構っている暇はない」
そう言ってくろとしろは背を向ける。
く「あっ、そうだ。一つだけ言っておかなきゃな」
歩き出したと思ったらくろはすぐに足を止める。
く「そこの唾液突いてた女。お前、しろを慰めてたんだってな。突き飛ばして悪かったな。ありがとうよ」
くろは一切振り向かずにそう言うと再び歩き出した。
雪音を見ると唾液を突く動きが止まっていた。
だが、突然立ち上がり、くろたちがいる方へ身体を向けた。
雪「私は『お前』じゃねぇ!『雪音』って名前がちゃんとあるんだ!覚えとけよ!」
照れ隠しなのか突然自己紹介で返した。
雪音が自己紹介している途中、一瞬しろが止まったように見えたが、またすぐに歩き出した。
雪音の声ってそんなに驚くほど大きいわけでもない気がするんだが…。きっと耐性がないのだろう。
卯「よし、舞香菜の情報も手に入れたところで、探しに行きますか」
卯乃の一言で動き出そうとしたその時――
「きゃぁぁぁぁぁ!!!!!助けてぇぇぇぇぇ!!!!!」
女性の助けを呼ぶ声がした。
舞香菜のもので間違いないだろう。
助けないと――
そう思ったら足が勝手に動いていた。
待ってて、舞香菜。今行くから。




