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お騒がせティータイム

 ああ酷い朝食だった。

ひたすらそれしか感想が出なかった。


ギ「ん?どうだったかね?美味かったか?」

こ「殺す気かっ!」


ギルド長の言葉にこはるはすぐさま怒りの声をあらわにする。

私もホントはなんか言ってやりたいんだけど、そんな気力すらなくなっていた。


如「さあさあ皆さまおまたせしまし…何事ですか!?これは!?」


厨房から出てきた如月さんは驚いた。

何事って…朝食食べてたんだけど…


如「またこんな料理出して…一体何度目ですか!そんなんだからせっかく入っていただいた冒険者様が辞めてしまうんですよ!」


今まで温厚だった如月さんがギルド長に向かって怒鳴った。

いや、もうこいつに"ギルド長"という肩書は似合わない。やはり私たちの中では"おっさん"でいいだろう。


ギ「いや体にいい食材しか使っていないぞ」

如「体にいいって…それ薬にした時の話ですよ!」

ギ「なにぃ!?それは初耳だな…」

如「今までに7回は言いましたよ!!!全く…」


如月さんはため息をついて厨房に戻った。

まあ確かにおかしいとは思ったけどね。初日に普通にミネストローネ出てきたし。

そして正真正銘の私たちの朝食を持ってきた。


如「先ほどはすいませんでした。さあ、朝食ですよ」



――――――――



 美味しかった。ただただ美味しかった。

今度は美味しさで語彙力を失ってしまった。


美「生き返ったぁ~」

如「それはよかったです。お粗末様です」


如月さんは深々と頭を下げる。

そして皿を片付けた。


ギ「先ほどはすまなかったな…」

雫「はぁ…」

ギ「まあこれから困難ばかりかもしれんからこれくらいどおってことなくなるさ」


なんとなくうまくまとめているようだが、どこか腑に落ちない。

きっとこれが「食の恨み」というやつだろう。


ギ「それじゃあ私は失礼するよ」


そう言っておっさんははしごを降りて行った。


雪「全く…散々な朝だ…」

卯「あのおっさんホント意味わかんない…あっ、ギルド長か」

こ「もうどっちでもいいよそんなん」


そう言ってこはるは紅茶らしきものをすする。

私の中では早々におっさんになっていたが、恐らく今が完全におっさんで統一した瞬間だろう。


如「先ほどはすいませんでした本当に…」

茜「いえいえ大丈夫です…」


いや本音は全然大丈夫じゃないけどね。

でも悪いのは如月さんじゃなくてあのおっさんだし、今更しょうがない。食べちゃったし。


卯「それにしてもあれは何なんです?」

如「ああ、それですがね…」


如月さんが深刻そうな顔をする。

もしかして…あれは口にしてはマズいものだったのか…?

そう思ったら吐き気が迫ってきた。


如「あれは漢方と"ピラピッグ"という家畜魔物の肉です。決して体に毒ではないんです」

こ「ピラピッグって?」

如「強靭な顎をもつ豚です。肉は美味しくはないですが、栄養が高いためそこそこ高値で取引されているんですよ。ただあれは肉としては食べませんね。大体は粉末状にして漢方薬などと同じように扱いますね。料理で出すのはギルド長くらいでしょう」

美「それって野生でもいるんですか…?」

如「そうですねぇ…より凶暴のなら…」

美「えぅ…」


美涼は変な声を出して青ざめた。

やはり冒険者《この職》は楽ではなさそうだ。



――――――――



 お詫びの印という名目でちょっとした茶菓子がもてなされた。

本当にこの件はもう忘れてもらってもいいのだが、折角なのでいただくことにした。

それにしてもなぜこの土地は私たちと似た食文化なのか。

…いやさっき別物が出たばかりだけどね。


こ「あ~日本に生きてるなぁ~…って感じ」

雪「ここ日本じゃないんだよなぁ…それにあんたが飲んでるの紅茶じゃない。抹茶飲んでから言いなよ」

こ「ん?紅茶じゃダメなのか?」

卯「紅茶は中国発祥よ」


その気になれば抹茶も出てくるんじゃないか。そう言おうと思ったが多分そういう発言は求められてないだろうと思い心にとどめておくことにした。

でもこはるは学校でも私の家でも遊園地でもよく飲んでたから多分そのせいかもしれない。


こ「それにしてもさ、私たちこれからどうしたらいいのかね」

舞「冒険者になったんだから魔物退治でもしていりゃいいんじゃないの」

ち「そしてそのついでに元に戻る方法を探しましょう!」

こ「戻るのは二の次か…まあいいや。戻ってもどうせバイトの毎日だしな」

舞「とにかく目の前のやるべきことを素直に受け入れることが大事ね」


こはるは酔っぱらったおじさんのようにゲラゲラと笑い出した。

それにつられて皆が笑う。

――ただ一人を除いて。


美「バ…バイト…そうだ、忘れてた…」


一人絶望の表情を浮かべて俯く美涼にこはるが近づく。


こ「なんだよどうしたんだよそんな恐ろしい顔しちゃってぇ~」

美「だってバイト行かないと…家賃滞納したら追い出されちゃうよ…」

こ「ぬぁっ!?」


事の重大さに今更のように気づいたこはるが正気に戻る。


こ「どうするんだよ!バイトの店長と大屋のババアになんて言ったらいいんだよ!」

美「どうしよう…どうしよう…どうしよう…どうしよう…どうしよう…」

こ「とにかく早く異世界ここから出ないと…居場所なくなる…」

美「やだぁ!そんなの絶対やだぁ!!」


泣きながら抱き合う二人に舞香菜が近づく。


舞「大丈夫よ。きっと見つかるわ」

こ「まかなぁ…おまえ…」

舞「だからさ、もう泣かないで」

美こ「「う、うん」」


舞香菜の慰めで二人は泣き止んだ。

女の子にはセクハラしかしないやばいヤツかと思っていたので正直意外に思うとともに感心した。


舞「というわけだから。雪音ちゃん♡」

雪「どあぢぢぢぢ~っ!!!なにするんだよ!このセクハラ野郎が!!」


舞香菜が雪音に抱き着いた事に驚いた雪音が紅茶を落とした。

やはり雪音にはセクハラしかしないのか。


卯「『というわけで』ってどんなわけよ」

舞「え?おっさんに武器もらいに行くんじゃないの?」

卯「………え?」


あっ。

そういえばそれでおっさん探してて、その途中で如月さんに遭ってここに来たんだっけ…。


ち「早くいきましょう!」

卯「でもどこ行ったかわからないよ」

ち「今度こそロビーにいると信じましょう!」


ちさの言葉を信じて私たちは急いでロビーに向かった。

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