朝の憂鬱
部屋に灯りが灯った。その灯りで私たちは目を覚ました。
雫「あ、おはよう」
茜「…ここは?」
雫「部屋でしょ。あの後部屋貸してもらって」
茜「そうだった」
そう言えばそうだったな。
いきなり知らない町に飛ばさたり、スマホが使えなくなったり、300歳の少女(?)が出たり、冒険者になった(させられた)りで脳が追い着かないで記憶が曖昧だ。
茜「そう言えば灯りは」
雫「起きたら勝手に点いていたわよ。雪音が点けていたならもう起きていたはずだし」
茜「…それって誰かこの部屋に入ったって事?」
雫「…そうなるわね」
茜「なんかやだなそれ。寝顔とか見られたのかな」
雫と他愛もない話をしていると、ちさと雪音も起床した。
ち「ふぁあ~。おはようございます~」
雪「おすおす」
眠そうな目を擦りながら二人は言った。
茜「おはよう。よく眠れた?」
雪「んなわけないでしょ!」
雪音は「よく眠れた方がすごいわ」と続けた。
そりゃそうだよね。実は私もほとんど起きていたんだけど。
理由はもちろん先程の通りだ。
この先の事を色々と考えていたら大して睡眠をとれなかった。
というか睡眠と言い表すべきかどうかも怪しい。どちらかと言えば仮眠だろう。
雪「で?この後どうするんだっけ?」
茜「朝になったらおっさんのとこ行けばいいはず」
雪「朝かどうかなんて部屋じゃわからないよ。窓無いんだし」
確かに今が朝か昼か夜かどころか、外が明るいのか暗いのかさえわからない。
それにしても窓が無いだけでこんなにも時間間隔が狂うんだな。
それに部屋が味気なくてなんだか牢獄みたい。
いや、牢獄ですらあるであろう。
…と言うことは私たち今容疑者以下の部屋にいるって事!?
後で窓くらいつけてもらえるよう頼んでおこう。色々と困る。
茜「…とりあえず部屋から出ようか」
そう言って私たちは部屋を後にした。
――――――――
茜「あ、おはよう卯乃」
卯「おはようじゃないわよ全く!!」
荒々しい表情の卯乃が部屋から出てきた。
雪「…なにがあったんだ?」
卯「朝起きてみたら美涼とこはるが同じベッドでくっ付いて寝てるし、舞香菜はいないのよ!どうしてくれるのよ!!」
雪「んなこと私たちに言われてもなぁ」
卯乃の話を聞いていると"503号室"と書かれた扉が開いた。
…あれ?確か私たちは501号室と502号室で収まっていたはずだけど。
「全く!朝から五月蠅いですよ」
茜「あっ、すいません」
相手の姿を見る前に反射的に謝ってしまった。
そしてその姿を確認する前に相手は部屋に戻ってしまった。
雪「…誰?」
卯「さあ」
しばらくすると先ほどに比べると小柄の姿が現れた。
「すいません!うちの恩師が…」
茜「いえいえ。こちらこそご迷惑を」
新雪のように真っ白な髪の毛に右が青で左が黄色のオッドアイ。頭には猫耳みたいなのがついている。
中学生くらいかな。本当に子猫みたいだ。
「うぉおおおおおおおお!!!!!」
廊下端から聞き覚えのある声がした。
そしてその声の主がこちらへ向かって走ってきた。
「かわいいいいいいいい!!!!!」
「ぐえっ」
走って来るなり少女に絡みついた。
少女はじたばたしているが、一向に解放される気配はない。
茜「…舞香菜?」
舞「あ~、おすおす諸君。昨日はよく眠れたかな」
茜「全く…。てかその子を離してあげなさいよ」
舞「や~だ~。もうちょっとこうしてるの~」
「ふえええぇぇぇ~。離してよぉ~」
少女は物理的抵抗を諦めたのか、離してと連呼する。
その時私の背後からひそひそ声が聞こえた。
こ「あの耳本物なのかな…」
卯「分かんないなら試してみるしかないだろ…」
こ「そうか…ならば…」
卯「はい」
こ「突撃ーぃ!!」
そう言って卯乃とこはるは少女に向かった。
そしてこはるは下半身を抱くように持ち、卯乃は乱暴に少女の猫耳を引っ張った。
「ぎにゃあああああっ!!!痛い痛い痛い痛いいいいっ!!!」
卯「隊長!どうやらこの耳は本物のようです」
こ「そうか…って…え?」
舞「…え?」
…え?今本物って…
雪「だから言ったのに…離してあげなさいって。…大丈夫?」
「うう…ぐすっ…」
雪音は少女に駆け寄り優しく頭を撫でる。
少女は何も言わず雪音に抱き着いた。
「お前ら何してるんだ!!!」
503号室から少女と同じく猫耳を生やした黒髪の少年が姿を現した。
声がそっくりだから先ほど私たちを注意したのと同一人物だろう。
辺りがシーンと静まりかえった。外の人々のと思わしき声がかすかに聞こえる。
雪「あ…えっと…」
「何なんだ一体!昨日まであんなに静かだったのに今日になって!」
雪「ご…ごめんなさい…」
「とにかくしろをはなせ!」
少年は雪音を突き飛ばし、少女の手を引いて部屋に戻っていった。
こ「なんだよ!雪音は悪くないだろ!!」
雪「…いいよ。こはる」
こ「でも…」
雪「私はいいから。早くおっさんに話を聞きにいかないと」
こ「…そうね」
全く、朝から災難だ。明日からも奴がいると考えると少し憂鬱になる。
私たちは暗い空気を元に戻すことなく、二度寝したちさと美涼を起こすと階段を下りていった。
事の事情を知らない二人は私たちの様子をうかがっていたようだが、誰一人それに口を開くことは無かった。
…頭が痛い。




